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ボーダーは地球人のみの敵にあらず


「しかし、妹が見つかったのはいいが――」


 俺は後頭部で両手を組み、高々と足を組んだ。


「例によって俺自身の記憶が戻らないのが、困ったもんだな……まあ、戦闘に関することでは不自由ないから、まだましか」

「あの丈さま」


 羨ましそうにリーナを横目で見ていた由美が、今思い出したように、バトルスーツのポケットに手を入れた。


「実は……教官の前では出せませんでしたが、元の魔界について、新たな情報が」


 なにか金属片のようなものを出し、俺に渡して寄越す。


「つい先程、あの地下街で拾ったものです」

「ほおお?」


 あまりこの世界では見覚えのない光沢がある、金属だった。

 しかし、問題はそんなことではない。


 そこに刻んである字が日本語じゃないのに、なぜか俺には読めるというのが、大いに問題だ。





「精霊の加護を……て書いてあるのが俺に読めるということは」


 俺は由美の顔を見た。


「はい……これはおそらく、魔法石を入れるためのケースの破片だったと思われます。つまり、我々が元々いた異世界の大陸が出所でしょう。大陸共通語ですから」

「これを、敵のオフィサーが持っていたということですか? じゃあ、敵はまさか私達の元の世界から」


 言いかけたリーナが、途中で口を噤んだ。

 あまりそんな可能性を認めたくなかったのだろう。


「断言できないけど、可能性は大きいわね」

「しかし、由美はこっちへきてまだそう経ってないだろ? そこまで劇的な変化があの大陸に起こったと思うか?」


「わたしもそう思いたいですが、世界を渡る魔法は、わたしも今回、初めて使ったのです。しかも、この転移術を教えてくれた魔界の導師は、『未だに、この術を使って異なる世界間をまもとに行き来した導師はいない。仮に成功しても、時間と空間に大きなズレが生じる可能性がある』と断言したほどです。確実に成功させられるのは、かつての魔王陛下のみだろうと彼女は言いました」


「俺かよっ」




 あいにく俺は、記憶喪失中である。


「それに、私が向こうを出たのは、本来、丈さまの転生を察知した直後で、十年以上前です。なのに、実際にこの地に到着した時には、その十年が一瞬で過ぎていました……」

「そうか。迂闊に行ったり来たりするのは危険というわけだ」


頷きつつ、俺は全く別のことを考えていた。

 由美は人間でも魔族でもなく、俺が創造したホムンクルスである。いわば、俺専用の使い魔だ。

 従って、リーナのように殉死したところで、俺の介入がなければ蘇りは不可能となる。

 ……それでもこいつは、アテにならない転移術を強行して、俺の元へ来てくれたわけだ。

 このことは決して忘れまい、と俺は決心した。

 そのうち、ふさわしい褒美をやらないとな。


「しかし、記憶さえ戻れば、その導師とやらが保証する通り、俺なら正確な転移が可能だろう。実際に下級魔族は召喚できたんだから」


 これには由美もリーナも、大いに賛同してくれた。


「それは無論のこと!」

「我が君なら、疑いなくっ」


「おー、おまえ達が保証してくれると、力が湧くね」


 俺は片目を瞑った。


「いずれにしても、こりゃなんらかの方法で、俺の元の故郷がどうなっているか、調べて見る必要があるかねぇ」


 無論、さっきの「フロム・ダークネス」のように、眷属召喚で、逆に誰かを呼び出すこともできるはずだ。

 かつての世界に存在した道具が出て来たからには、無視もできない。


 むこうじゃまだ魔界が全大陸を制覇したわけじゃないが、もう半ば以上は魔界の領土だったし、なにより俺が将来の大陸制覇を狙っている。


「ボーダーは地球人のみの敵にあらず――案外、そういう事実が明らかになるかもな。今すぐとはいかなくても、様子見は必要だ」


 遠征途中か……あるいは遠征で向こうの敵を一掃してからになるだろうが。


  




 不吉の前兆みたいな話は置いて。


 車両が巨大エレベーターを使って学園へ戻ったのは、もう暗くなってからだが。

 驚いたことに、先に戻った仲間が、全員校舎前で整列して待っていた。


 俺達が次々と降車すると、三人が揃うのを待ち、改札でちょっと話をした女の子――確か、安藤清香か? あの責任感ありそうな美人がびしっと敬礼を決めた。




「最後まで戦ったナイト殿に敬礼!」


――なんて、りんとした声で叫んだりして。

 しかもそれに唱和して、彼女の背後に控える女子全員がこれにならった。


「敬礼っ」


 ただその後で「お疲れ様でしたあっ」と付け加えた歓声が、なんかバイトの女の子達みたいだったが。



「ありがとうっ。みんなも無事で言うことなし!」


「全員、ご苦労様ですっ」

「ありがとう」



 俺に続いてリーナが、それに普段は人間ガン無視の由美まで答礼して礼を述べたほどだ。

 まあ、ちょっと気分が向上したかな、お陰で。


 仕送りの高梨だけ、後ろの方で俺と目を合わせないようにしてたのがアレだが。


 かつての俺なら、不敬罪で刑死させたかもしれないけど、今の俺は人間が丸くなったし、これくらいは見逃してやるとも。


 ……まあ、今のところはな。


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