新たなる身内と変化した金髪さん
しかし……言っちゃ悪いが、俺に心当たりがあるわけない。
「いや、知らんて。そもそも、あの動画の国に王女なんかいたことすら、今初めて聞いたぞ。どっちか、知ってたか?」
一応、由美とリーナにも尋ねると、意外にもリーナが頷いた。
「私の推測する国で正しければ――未だに王政だとは聞いたことがあります。そして、つい先日、国王が崩御したとニュースになっていました。王女の名前は忘れましたが、だから今は問題の王女が国政を切り盛りしているはずです」
「フェリシー・ド・ソランというらしいね」
そこで、藤原が口を挟んだ。
「もちろん、名字のソランは国名だ。国土の広さじゃ、下から何番目というくらいの小国だが、貴族としてのソラン家の歴史は古いらしい。元々はローマ皇帝から賜った土地だそうだが、ローマが滅んだ後も、ソラン家と領地は残った。それが今も続く、小国ソランだ」
「解説どうも」
俺は一応礼を述べたが、この時点では全く興味なかった。
「とにかく、俺は今聞いた事実を全然知らなかったくらいで、王女に心当たりなんてないよ」
「ちょっと待ちたまえ」
もったいぶった藤原は、警備室の上の方にあるモニターを眺めつつ、手元のコンソールでなにやら操作した。
すると――おおっ、銀髪に金の王冠を頭に抱いた、エラいべっぴんが!
「ちょっと興味が出て来たというか――いや、待てよ」
なにかの録画らしいが、冷ややかな印象を受ける超美人を見て、俺は眉をひそめる。
銀髪の知り合いなんかいないはずだが、なぜか見覚えがあるぞ、この子。
あと、俺の横で由美が大きく息を吸い込んだのがアレだ。こいつ、多分俺と違ってはっきりした記憶があるのか?
今訊くとまずいんで、後で訊くか。
「う~ん……顔見知りじゃないのは確かだが、なんか気になるな。美人だし」
とりあえず、冗談に紛らわして肩をすくめる。
「でも、相手を見て気が変わった。援軍に行ってもいいよ」
「それは助かる。実は向こうは、既に軍用機を迎えに送ったらしい」
「えーーーっ」
さすがに驚きだな、それは。
「素早いなっ。いや、どうせ日本の対応が遅いと思ったのかもしれないが」
「向こうにしてみれば、国家の危機だし、急ぎたいのはわかる」
膜がかかったような目で、藤原は俺を見た。
「迎えの到着は、明日の夕刻らしいが……では、頼めるかな。日本政府として、正式に要請に応じた形となるから、今回の報奨金は大きいと思うよ」
「せわしいけど……まあいいよ、うん」
俺は渋々頷いた。
顔を見て心が騒ぐという経験は初めてなんで、ひょっとしてあの銀髪美人は、俺にとって大事な女性かもしれない。
藤原の話は以上で、ようやく解放してもらい、俺達は帰路についた。
地下鉄の駅を出て、専用車に乗り込んだ後、俺はこそっと自分達の周囲を結界で囲み、音声を遮断した。
まあ、盗聴されているかどうかは謎だが、されていると思って話した方がいいだろう……内用が内容だし。
「由美、おまえあの王女に見覚えがあるのか?」
「はい……まさか、生前と同じ御姿だとは思いませんでしたが」
由美は素直に頷いた。
「丈さまがお亡くなりになった後、あのお方もまた、殉死されたのです。ですから、いずれは出会うはずと思っていましたが、まさか他国にいたとは。今回、あのお方自身が記憶を取り戻した可能性もありますね」
「……つまり、俺にとっての誰だ?」
「失礼しました」
由美は目を瞬き、低頭した。
「あのお方は、丈さまの妹君です」
「うおっ」
……そういう大事な存在がいるなら、あらかじめ教えておけよ。
と一瞬思ったが、しかし記憶喪失の俺が妹の話を聞いたところで、ポカンとするだけか。余計に混乱するし、由美を責めてもしょうがない。
「妹か……しかも、リーナと同じく殉死しただとー。無茶しやがって!」
「わたしは――」
由美がため息まじりに言う。
「多次元世界全てを見渡しても、わたしこそが最も丈さまをお慕いし、忠誠心も大きいと自負していますが……しかし、唯一肩を並べる存在を求めるなら、あのお方になるでしょう」
俺がそれについて答える前に、逆側の隣に座っていたリーナが、焦ったように声を上げた。
「わ、私だって、忠誠心と我が君を愛することでは、誰にも負けませんっ」
戦いが終わってから、素早くツインテールにまとめた金髪を振り乱す勢いで、リーナが身を寄せてきた。ていうか、こっぱずかしいことを素直に叫ぶようになったな、この子。
「わかってる!」
礼のつもりで、リーナの腰に手を回して抱き寄せてやった。
わー、なんと豪勢な抱き心地。
「俺が一瞬でも疑ったと思うか?」
「あ、ありがとうございます……ぐすっ」
「涙ぐむなよ」
すっかり前と変わってからに……いや、いざ戦闘になると、敵に対しては元のままだが。




