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本当の意味での袋叩きってのを、おまえに教えてやろう

 がらがらの地下ショッピング街を歩くのは、なかなか目新しい体験だった。


 通路にも店にも煌々と明かりが灯っているのに、誰もいない。

 地上も閉鎖されているせいか、世界の中で自分達だけが生き残っているような錯覚さえ覚える。




「やたらと広い場所だが、この下は売店と待合室しかなかったし、そこにいた敵はもう倒した。可能性としてはここのどこかにいる確率が高い。がんばっていこー!」


 歩きつつ俺が気軽に声に出すと、由美とリーナは力強く答えてくれたが、高梨はなにやら考え込んだままだった。

 ただ、しばらくすると俺を見上げ、ふいに尋ねた。


「……主任教官は、どうして貴方をあんなに信用してるのかしら?」

「信用? よしてくれ、笑い話じゃあるまいし」


 俺は藤原の飄々とした顔を思い出し、眉根を寄せた。


「信用とかそういうのじゃなく、おそらくあのおっさんは、俺についてじっくり調べたんだろうよ。そうでなきゃ、即決でこんなイカサマ学園に放り込むわけない」

「調べて、実力を認めたってこと?」

「多分ね。ただし、いずれにせよ、あいつの調べ上げたことは、根本においてばっさり間違ってるだろうけどな」


 俺は断言してやった。


「なかなか信じられないものだからな。ヒントがあったって、そりゃ見過ごすだろう。俺がかつては異世界の魔王だった、なんてさ。俺自身だって、信じ切れたわけじゃない」


 また金切り声で否定するかと思ったが、今回、高梨は随分と深刻そうな表情で、言い返してこなかった。


「おや? 段々信じる気になってきたかな? 俺の素性」

「……まだそこまでは」


 弱々しく首を振る。


「でも、貴方が見せたタフさと、鮮やかすぎる加速は、ギフト持ちの私の目から見ても、不可解過ぎるもの」

「そういや、高梨のギフトってどんなものだ?」

「私のは……完全に防御ギフトなの。最大、半径二メートル四方の防壁を展開できる……それだけ」

「いや、そりゃなかなか使い勝手いいじゃないか」 


 俺は慰めじゃなく、本気で言ってやった。


「この前敵が見せた、炎系よりは必要とされると思うぞ」

「でも、完全に防御のみだし――」

「待て」


 言いかけた高梨を、俺は短く制した。


「……どうやら、敵さんのお出ましだ」

「え……え……ええっ!!」


 改めて周囲を見た高梨が、口元を押さえた。





 まあ、地下街を歩いていたら、途中からふいにドーム球場の内部みたいなところに出てたら、そりゃ驚くだろうな。


「ど、どういう」

「なんでもいいから高梨、早速出番だ。サイコバリア頼む」

「サイコバリアじゃなくて、精神防壁っ」


 言い返しつつも、高梨は要請に応じて防壁とやらを展開してくれた。たちまち、俺達の周囲に半透明かつ半球系の防壁が生じる。

 由美は身構えて周囲を睥睨し、リーナは早速、専用銃を抜いていた。

 二人して、俺を庇うように左右に立つ。


「俺のことは気にしなくていいぞ」


 一応、先に言ってやった。


「まず滅多に、本当の意味でのダメージなんか受けない」




「ほお、人間にしては自信たっぷりだね」



「お?」


 俺が声の方を見ると、観客席に一人だけ座ってた男がいて、そいつが立ち上がった。

 自衛隊の士官が着るような制服を着てたが……まあ、見た瞬間にわかった。


「おまえもボーダーだな。というか、命令を出す側の、オフィサーかな?」

「人間はそう呼ぶね。そのオフィサーという言葉すら、まだ全然知られてないし、別に仲間うちでそう地位が高いわけでもないけどね。士官というのもおこがましい。せいぜい下士官だろう」


 男は苦笑した。


「でも、普通の人間はそれすら知らない。君は運がいいよ」


 丸眼鏡をかけた青年みたいな風貌のそいつは、通路に出て、ゆっくりと歩き始めた。もちろん、グラウンドの真ん中にいる、俺達の方へ。


「もちろん、俺はあらゆる意味で運がいいとも。だが、ここで野球の試合しょうっていうんじゃないよな?」


 俺は笑顔で尋ねてやる。


「俺達はもちろん、あんたも人数足りないようだし」

「いや、人数に関しては……意外と僕の方は揃うかもしれないよ?」


 そこでそいつが、軽く手を上げる。

 すると――待ってましたとばかりに球場内のグラウンド部分が薄い光を放ち、ポコポコと男女が湧いてきた。どいつもこいつも一般人に見えるが、もちろん部下のボーダーだろうな。全員、殺気出てるし。


 こいつの「球場」は、どうも大勢の部下を隠匿できる仕組みらしい。


「人間が言うところの『袋叩き』は気が引けるが、まあこれも戦いだからね」

「気にすんな。俺にとっちゃ、大差ない」


 俺は肩をすくめた。


「なあ、一つ訊いていいか?」

「いいとも。言ってみたまえ?」

「その身体、最近乗っ取ったわけじゃなくて、実はかなり前から自衛隊の士官としてもぐりこんでたんじゃないか、あんた?」

「この次がもし君にあれば、覚えておいた方がいい」


 笑みが消えた男が、真面目に言ってくれた。


「勘がよすぎるのは、敵はおろか、味方にも歓迎されないよ?」

「わかってる。でも、なかなか直らなくてね、この性格。知りたいことはわかったんで、じゃあ、今度は俺のターンだな」


 微笑を消さないまま言い返し、俺は両手を広げた。


「本当の意味での袋叩きってのを、おまえに教えてやろう」



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