丈さま、お怪我はっ
これでも、「まあ、間に合えば助けてやってもいいよ?」くらいのつもりで急いだので、普通の人間では、なかなかついてこられないらしい。
新たな力を与えたリーナはぴったりついてきたが、あいにくギフトを持つ以外は普通人の高梨は、俺がホームへジャンプした時点で、音を上げていた。
「ま、待って! 速すぎっ」
気の強い彼女が言うのだから、本当に限界なのだろう。
一刻を争う状況だけど、少し考え、俺は高梨に合わせることにした。
高梨を一人にすると、今度は彼女が殺られる恐れがある。リーナをつけてもいいが、敵の手札がまだ読めないしな。
地下一階の方から、散発的な銃声が今も聞こえていて、気になるんだが。
「こう見えて、部下思いだからなあ、俺……しょうがない」
「な、なんの話よっ」
ようやくホームに上がった高梨が、息も絶え絶えに尋ねた。
「こっちの話だ。いいから、倒れない程度に駆け足! さっき星野教官が見せてくれた図面だと、地下一階の改札前を臨時の司令部にしてるらしい。そこまで急ぐぞ。多分、ルークもそこだから。あと二階分、上がらないと」
「わかるけど、桜坂さんはあんな場所に置いてきて、大丈夫なの? 警官隊の二の舞で仲間が死ぬのは困るわよ」
「はははっ、有り得ないね」
俺は駆け足でエスカレーターを上がりつつ、鼻で笑った。
「火山の噴火口に放り込んだって、死ぬような奴じゃない」
「そんなタフに見えないけどっ」
「本当に手強い奴ってのは、凡人には普通そうに見えるんだな、それが」
「誰が凡人よっ」
「ストップ!」
高梨の抗議を無視して、俺はまた手を上げた。
エスカレーターを上がり切ったそこは、地下二階になっていて、待合室やら売店やらトイレやらがあるフロアだが……人払いをした割には、気配がする。
「現場はもう一つ上でしょ?」
不思議そうな高梨に、俺は素っ気なく言った。
「んなことはわかってる。しかし、敵が潜んでるのに、素通りできないだろ。気付けよ、それくらい」
「ええっ!?」
今頃驚いた高梨はともかく、リーナはさすがに遅れて気付いたらしく、俺にお伺いを立てた。
「丈さま、私が隠れ場所から追い出しましょうか?」
「そうだな……やってみてくれ」
「はいっ」
嬉しそうに応じると、リーナはいきなり自分の元々持っていたギフト……つまり、ブリザードと私的に呼んでいる力を解放した。
たちまちフロア内が白い吹雪で覆われ、売店やら休憩所やらが、氷結していく。
途端に黒い影が飛び出して来たのを見つけ、俺は躊躇なく構えていた銃を撃った。
「ネズミさんのお越しだっ」
光の尾を引いた魔導弾が敵の胴体を貫き、相手はもんどり打って倒れた。
「て、敵じゃないわよ、同じ隊員じゃないっ」
倒れたバトルスーツの女の子を見て、高梨が騒ぐ。
「静かにっ。丈さまに誤りなどないわ!」
早速リーナに怒られていた。
「リーナさん、どうしてそんなに人が変わっちゃったのようっ」
喧嘩になりそうなんで、俺が助け船を出してやった。
「あいにく、あいつはもうボーダーだって。俺には気配でそれとわかる。それより、ちゃんと仕留めたか確かめるから、二人とも動くな」
「了解です!」
「それ以前に、本当に敵なのっ」
めんどくさいので、俺はそれには答えず、銃をぶら下げたまま、ぶらぶらと近付いていく。
そこまで言うなら、俺が自分で証明してやろうじゃないか。
大の字になって倒れていたそいつは、確かにうちの生徒のポーンだったけど、もちろん俺は間違えてない。
こいつは確かにボーダーだし、そろそろ――
「甘いな人間っ!」
いきなりぐてっとなっていたそいつがかっと目を開け、しぶとく握っていた銃を俺に向け、連続発砲した。
一発は右胸に、二発目は下腹部に命中し、今度は俺が倒れる番だった。
敵はすぐに跳ね起き、次にリーナと高梨がいる方へ銃を向けようとしたが、あいにく俺を忘れてる。
「甘いのは、おまえじゃないか?」
「なにっ」
落ち着いて言い返した時には、仰向けのまま、倍返しで四発発射した後である。
ドンドンドンドンッと一続きに重い銃声が木霊し、最後に頭に命中した魔導弾のせいで、こんどこそ敵はぶっ倒れた。
「え、えええええっ」
駆けつけようとした高梨が口元に手をやったので、俺は振り返って破顔した。
「な、これで納得しただろ? こいつは敵だって」
「どういうことなのっ」
地団駄踏む高梨より先に、リーナが駆けつけてきた。
「丈さま、お怪我はっ」
「これくらいじゃ死なないよ、大丈夫大丈夫」




