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うちの学園は、不純異性交遊大歓迎だよ


 藤原教官の申し出を受けた時点で、俺と由美はもはや学園の生徒ということになったらしい。 

一度帰宅して、規定量の私物だけ送迎の車に積み込むと、早速その場で学園まで送ってくれるという。




「随分と性急な話だな。タコ部屋送りみたいだ」


 後部座席に学生服のまま乗る俺は、道中、早速言ってやった。


「こういうのは普通、入学のしおりとかもらって、来たるべき入学式までのんびり待つものじゃないのか。ちょうど今は三月だし」


 横柄な口調だったせいか、灰色のバンを運転する若い兵士? らしき男が、ぎょっとしたように俺達を――まあ、特に俺を振り返った。


「なにか?」


 と訊いてやると慌てて首を振って正面を向いたが……こりゃ、俺や由美がギフト持ちだと知ってるようだな。

 そんな人類外のヤツとはとても話せないって雰囲気が、ぷんぷんする。

 まあ、いいんだけど。


 ただ、助手席でゆったり座る、学園の主任教官だという藤原は、声を上げて笑っていた。


「まあ、我が学園は学舎以前に、戦士のための養成学校だからね。いざ出動がかかったら、たちまち実戦なわけだし……だからほら、下手に考える時間があると、途中で逃げちゃうんだなあ、半分くらいは」

「俺はタダ飯と家賃ゼロの寮、それに賞金に期待してるから、逃げる気ないよ……今のところは」


「うん、君とその彼女――え~、桜坂由美さくらざか ゆみさん? とにかく君達は、私がスカウトした中じゃ、明らかに毛色が違う。実際、君達には即実戦部隊として、大いに期待してるんだ」


 などと藤原が答えた途端、バンは得体の知れない真新しいビルの地下駐車場へと入っていった。


「まさか、このビルが学校とか?」

「いやいや、この施設は単なる地上部分のダミーだよ。学園は地下にあるんだ」


 楽しそうに教えてくれた藤原の、言う通りだった。

 広大な地下駐車場に着くと、車はナンバー1と描かれた赤い円内に停止し……そして、いきなりガクッと床ごと下降し始めた。


 三十秒ほど下降したところで、今度はしばらく真横に向かって移動し、さらにある地点で真っ直ぐ下へ降り始めた。実に器用なエレベーターである。

 途中で、由美がセーラー服のまま、そっと俺に寄り添ってきた。


 前にもあったことなのでわかるが、別に彼女が不安になったのではなく、なにかあった場合、すぐに俺を庇えるように備えているのだ。


「大丈夫だって、由美。まだ学園を拝まないうちから、いきなりなにかされることもないさ……多分だけど」

「もちろんだとも」


 また振り向いて、得体の知れぬ笑みを広げたまま、藤原が頷く。


「今はただ、地下の学園区画に移動してるだけ。危ないことはなにもないよ」


 愛想よく言う藤原は完全無視で、由美は俺から離れなかった。

 まあ、これもいつものことだ。

 それにしても、問題の学園とは、予想以上に地下深くらしい。すでに数分は高速で床ごと下降してるんだが。


 俺が密かに感心していると、まるで疑問に答えるように、いきなり視界が開けた。



 今までは巨大なエレベーターシャフトみたいな場所を下降してたのに、今や緑溢れる広大な敷地の上空から降りている。


 学校の敷地が大部分を占めるが、その周囲には公園も点在している。

 窓から見た感じでは、この地下空洞の天井部分は確実に金属で、照明が幾つも点いていたが、それにしても呆れるほど広大な地下空間だ。




「地下にこんな場所、よく作ったな。いくらなんでも、数十年で利かないだろう?」

「いや、空間自体は、もともとあったんだよ。自然にできたものか、あるいは我々の預かり知らない祖先の誰かが作ったのかは謎だがね。我々は後から空洞を発見して、道を付けて天井を補強しただけだ」

「なるほど」


 まあ、それにしても大したものだと思うが。

 車は既に、停止した吹き抜けのエレベーターを出て地下の道を走っていて、コの字型に校舎や寮? の並ぶ方へ向かっていた。


「今から寮に行くが、寮最上階の五階でいいかな?」


「問題ないけど、端っこの部屋だと嬉しい」

「わ、わたしは丈さまの隣へっ」


 いきなり由美が自己主張した。


「いや、さすがに男女別の寮だろ?」


 俺は苦笑したが、あいにくその予想は外れた。


「ところがぎっちょん、寮は男女別じゃない。だから、彼女の希望は通るさ」


 半ばこちらを見た藤原は、明らかに笑っていた。


「ちなみにうちの学園は、不純異性交遊大歓迎だよ。なんなら、本日から同棲したって構わないという、ゆるゆるの校則さ」


 冗談だろうと思ったら、こいつ付け足しでさらに阿呆なことを吐かす。


「ゴムだって無用だ。じゃんじゃん楽しみたまえ」

「いや、こう見えて俺は一線を越えることには慎重で――」


 喜色満面になった由美を横目に、思わず声が出た。

 ……しかし、俺は途中で気付いてしまった。



「もしかして、ギフト持ちの男女の間に生まれる子供は、同じくギフト持ちである確率が高いとかいう理由だったりするか?」



「へえ!」


 藤原の声に、隠しきれない感嘆が交じる。


「不純異性交遊に緩い理由を、一発で当てたのは君が初めてだ、霧崎丈きりさき じょう君」


 それには答えず、俺は顔をしかめて言い返した。


「どうやら人間側は、想像以上に追い詰められているらしいな」


 これに対する返事は……なかった。


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