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あんた、もうすぐ死ぬよ

 ポーンの高梨たかなしが、モロにショックを受けているのを尻目に、藤原は何事もなかったように、命令を下した。


「それでは、全員、車に乗り込んでくれたまえ。あ、霧崎君の部隊はすぐ近くに停めてある、あの車両だ。運転は星野教官がするからね。現場への道中、事件の概要を話すから、早速乗り込んで欲しい」

「はいはい」


 特に逆らわず、俺はリーナと由美を引き連れ、言われた通りに陰気な大型バンみたいな車両後部に乗り込んだ。向かい合わせで申し訳程度のベンチが設置してあり、俺が座ると左右にすかさずリーナと由美が座った。


 高梨はズラかったのかと思ったものの、気落ちした様子で渋々乗り込んで来た。

 俺から一番遠い、向かいのベンチの端っこに座るという。


 先が思いやられる状態だが、トドメとばかりに、初対面の野郎が外から覗いた。






「霧崎丈ってのは、おまえかな?」

「男は俺だけなんだから、見りゃわかるだろ」


 素っ気なく答えてやると、向こうは早速むっとしたらしい。


「口の減らないヤツだ……俺はルークの古暮こぐれという。おまえ達は自由にやらせろという命令を受けているが、派遣部隊の現場指揮官は俺だ。くれぐれも俺達の邪魔をするなよ」


 なるほど、こいつがあの大勢集まっていたナイトやポーン達のまとめ役らしい。

 まあ、俺にとってはどうでもいいが。

 ただし、早速気付いたことがあるので、俺は親切に教えてやった。



「あんた、もうすぐ死ぬよ」



「な、なにっ」


 こちらが言い返すのを待っていたらしいが、意外な言葉だったらしく、古暮とやらは息を飲んだ。


「なんのイヤミだ、貴様っ」

「イヤミじゃない」


 止めようと立ち上がりかけた高梨を目で抑え、俺は静かに続けた。


「ごくたまにだけど、俺は死神の手が伸びかけているヤツがわかる時がある。今までに数回程度のことだけど、なぜかあんたは見た瞬間にわかった。間違いなく、もうすぐ死ぬ……今のままじゃね。ただ、俺が教えたことで、回避できるかもしれない。まあ、せいぜい頑張ってくれ。でもなあ」


 しげしげと顔をしかめた古暮を見やり、俺は息を吐いた。


「運命ってのは、そう簡単に変わらない。特に、あんたみたいに頑固そうなのは、まず回避不能かもな」

「貴様っ」


 よほど腹を立てたのか、ルークの古暮は車両の中まで乗り込んで来ようとしたが、星野教官が、「古暮っ、なにをしている! さっさと先頭車両に乗り込めっ」と叫び、悔しそうに俺を睨んだ。




「……このことは忘れないぞ!」

「忘れるもなにも」


 俺は肩をすくめてやった。


「このままだとあんたは、任務が終わるまでに死ぬ」

「――っ! くそっ」


 言い返す言葉が浮かばなかったらしく、古暮はそのまま去った。

 途端に、リーナがさっさと後部ドアを閉め、同時に非常灯みたいな明かりがついた。この後部座席、掌ほどの大きさの窓が、左右に一つずつあるだけだしな。


 車両が走り出すと同時に、高梨が俺を見る。




「ねえっ、さっきのはただの脅しでしょうね?」

「なんで? 完全に本気だったけど? わざわざ未来を教えてやったんだから、多少は生存率が上がるはずだしな……でも、今の自分をガラッと変えるくらいの心構えじゃないと、死を避けるのは難しいかな」

「あの人、割と部下に厳しい人だから、後でろくな目に遭わないわよ」


 高梨が眉をひそめて言ったので、俺は苦笑した。


「あんた、俺の話を聞いてたか? あいつは任務終了までに死ぬんだって。奇跡が起きるとすりゃ、俺の言葉を信じて回避の努力をするくらいだが、あの調子だとまず無理だ。今までに他人の死を先読みできたのは数回程度だけど、外れたことないし」

「あ、あなたね……」


 完全に呆れた顔の高梨がなにか言う前に、車両の中に藤原の声が聞こえた。マイク越しなので、自分も他の車両に乗って移動中なんだろう。



『全員に状況を説明する。地下鉄の駅施設と、その周辺の地下街で、ボーダーと思われる複数の敵が、自衛隊のギフト持ち士官を人質に、立て籠もっている。どうやら自衛隊の方で、我々に連絡せずに独自に敵を尾行中、気付かれて逆襲されたらしい。迷惑な話だが、これも我々の仕事だ。敵を殲滅せんめつしてほしい』



 少し間を置いて、また藤原が告げた。


『言うまでもないが、我々の仕事はボーダーの殲滅であって、人質の救助は二の次だ。助けられたら助ける程度のスタンスでいい。ボーダーに逃げられる方が、被害甚大だからね』


 うわーと思ったが、確かに人間に紛れ込むあんな連中が逃げる方がヤバいと言えばヤバいだろう。



 ……俺はともかく、他のナイトやポーンが、本当に藤原の命令を実行するかどうかは、また別の話だが。

 



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