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おまえの変わらぬ忠誠心に対して、褒美をやろうと思う

 用事は済んだので、俺と由美の意識は元の体育館に戻っていた。

 壇上の藤原達もそうだが、周囲の女子生徒達は、なぜかきょとんとした顔をしている。


 そう、俺が記憶の一部を消したために、「自分が俺に倒されたことは理解しているが、その過程は覚えていない」という状況に陥っているからだ。

 レゾナンスシアターのギフトを強制解除され、あの異空間のコントロールを途中から俺に奪われていた神野という女の子も同じである。


 ただ、俺が計算外だったこともある。


 途中経過が不明なのだから、藤原にかなり質問攻めにされるかと思ったのだが、彼はただ一言「こりゃどうも、霧崎君と他の生徒の実力に、圧倒的な差があったようだね」とあっさり言い切り、そのままテスト終了を宣言しちまった。


 何も嗅ぎつけられていない自信はあるが、あの態度はちょっと気になるな。

 まあ、あいつが俺を排除しようと乗り出した時には、俺にも考えがあるが。





 しかし、体育館から寮に戻る途中、俺はもう一つの誤算に気付いた。

 とはいえ、こちらはどちらかというと、嬉しい誤算である。


 俺が校舎を出る間際に、「霧崎君!」と囁くような声がして、後ろから例の金髪さん……つまり、ナイトのリーナが追いかけてきたのだ。


「どうかしたか?」


 振り向いた俺は、なにげなく答えたが、リーナの碧眼を見て、悟った。

 こいつ……以前のリーナじゃないな。

 察した俺は、由美に「悪いが、先に帰っててくれ」と頼み、肩を叩いた。


「あとでちゃんと、事情を話してやるからさ」


 また膨れるんじゃないかと思ってそう付け加えたものの、今回の由美は素直だった。俺とリーナを見比べてから、最後に俺を見て低頭した。


「わかりました……では、先に戻っています」


 あぁ、さすがにあいつもリーナの変化に気付いたか。

 俺は肩をすくめ、金髪のリーナに囁く。


「話があるんだよな?」

「……はい」


 リーナはしっとりと答え、一礼した。






 二人で校舎を出てから、グラウンドとは別にある敷地内の公園に向かった。

 今頃の時間は誰もいないだろうと思ったからだが、その予想は当たったらしい。


 俺は、桜の巨木の陰に置かれたベンチに座った。

 ここなら、校舎の方からも見えない。


「さて、話はだいたい想像が――」


 俺が当てるより先に、リーナが俺の前に片膝をついた。


「我が君……ここ数日の無礼をお許しください」






「やっぱり、その件か。今までのリーナの瞳じゃなかったものな」


 うんうんと頷き、俺は破顔する。 

 異空間での最後の瞬間、どうやら彼女は過去世を思い出したようだ……そう、未だ俺が思い出せずにいる、異世界で俺が魔王として君臨していた頃のことを。


「はい。あの異空間で我が君の真紅の瞳を直視した時、全て思い出しました……お懐かしゅうございます」


 驚いたことに、リーナはぽろっと涙をこぼした。


「おいおい。……ていうか、もしかして俺とおまえって、かなり親しい仲だったのか?」

「いいえ」


 リーナはとても残念そうに首を振った。


「我が君の周囲には、きら星の如く強大な戦士が揃っていました。私は所詮、彼らに比べれば二線級の戦士に過ぎません。御身に謁見したことすら、さして多くはないのです。ただ――」


 そこでリーナは、懐かしい思い出に浸るように微笑を広げた。


「それでも私の、我が君への忠誠心は彼らに劣るものではありませんし、我が君も、日頃交流のない私に、とてもよくしてくださいました」

「なる……ほど」


 よくしたっていうのは、ひょっとして……あ~、肉体的なことも含まれるのかな? などと、すかさず考えてしまった。まあ、この場合は多分、違うな。


 俺、由美にさえ手を出してないようだし。


「俺が未だに前世を思い出せずに、申し訳ない」


 俺は苦笑し、まだ片膝をついたままのリーナを見下ろした。


「それでも、リーナの忠誠心は疑いようもない。この世界に転生しているってことは、俺の力になろうとしてのことだろうしな」

「はい……殉死じゅんしを決意した瞬間、私も当然、そのつもりでいました」


 当然のように今さらっと言ったが、殉死だとー。

 それって、主君の後を追って自死したってことだよな。おいおい、さすがに責任感じるじゃないか。


 密かに俺があわあわしていると、リーナは悔しそうに続ける。


「――それなのに、この十五年の間、全く我が君のことを思い出せずにいたことは、我が生涯の不覚です」

「俺自身が思い出せずにいるのに、そんなことは気にするなって。あと、同じ年だったのか」


 外人さんの成長度はすげーな……いろんな意味で。

 俺はしばらく考え、大きく頷いた。


「よし、リーナ。おまえの忠誠心に対して、褒美をやろうと思う。ぜひ受け取ってくれ」




 ベンチを離れ、リーナの前に立った。


「いえ、当然のことですのに、褒美などと!」

「いやいや、そう言うなって。信賞必罰は当然のことだ」


 俺は右の掌をリーナの頭に置き、厳かに宣言した。


「俺の力を分けてやるよ、リーナ。おまえの変わらぬ忠誠心に対する、せめてもの礼だ」


 言下に俺の手が光り始め、リーナが小さく声を上げた。 



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