あんたは今、爆弾の信管をハンマーで思いっきり殴ろうとしてるぞ
無駄だろうが、俺は一応、申告のつもりで叫んでやった。
「おーい、せんせー! 俺の銃はどこだよ?」
『えっ。嫌だなぁ、霧崎君。まだ銃の訓練も済んでないのに、そんなの渡せないよ』
「おいっ。銃の訓練も済んでないのに、人をナイトに指名したのは誰だ!」
俺の心からの叫びに、周囲の女子達から驚きの声が上がった。
ほぼ全員が初耳だったらしい。
ああ、そうだろうよっ。
『えー、抗議がそれだけなら、あと十秒で集団戦開始だ。せいぜい君の力を見せてくれたまえ』
「あのさー、あんた俺をちょっと甘く見てるな?」
きっぱりと笑みを消し、俺は真面目な口調で言ってやった。
「自分が希望して入ったんだから、ある程度まではあんたを立てるが、俺は試されるのが嫌いなんだよ。なあ、ちょっと想像してみてくれ? 目の前に真っ黒な大型爆弾があると」
俺は低い声で続ける。
カウントダウンが続いているかどうかは知らないが、俺にとってはもうどうでもいい。
「あんたは、その爆弾を見て、大いに武器として使えそうだと思う。だから、爆弾の破壊力を測ろうと、あちこち調べ、時にはハンマーでそこら中を叩いてみる。コンコンコンと……それがどんなに危険な行為か、あんたには理解できないからな。だから俺自身が教えておいてやろう。気を付けろ、おっさん。あんたは今、爆弾の信管をハンマーで思いっきり殴ろうとしてるぞ」
『それは……脅しているのかな、私を』
「いや。俺は今、あんたをぶち殺そうかどうか、本気で迷っているところだ。でもまあ、今はこの茶番を先に終わらせようか。……我は命じる、闇よ来たれ!」
その時、体育館の中では、レゾナンスシアターの使い手である神野麻里子が、悲鳴を上げたところだった。
「わ、わたしの世界がっ」
「どうかしたのかい?」
藤原が眉根を寄せて尋ねると、麻里子は半泣きで首を振った。
「こんなの、絶対におかしいわっ。だって、あそこはわたしの世界なのに、なぜか今、強制的にわたしとのリンクが切れちゃったの!?」
「……では今、向こうではどうなっている?」
藤原の問いかけに、麻里子はふるふると首を振るだけだった。
「わかりません……」
本来、神野麻里子とやらの構築した精神世界であるはずの場所は、もはや変化しつつある。
世界そのものが俺の支配下にあり、今はじわじわと暗黒に染まりつつある。夕闇だった空には闇が忍び寄り、なにより、眼前の生徒達が踏みしめていた大地そのものが、漆黒の闇に染まりきっていた。
ほとんどの生徒はざわめくだけで、気の毒にもすくんでしまって動けなかったが、一人だけ女子生徒が前へ出て来た。
「ちょっと、何をする気!?」
「ああ、金髪さんか。――いいよ、由美。俺に任せてくれ」
俺はいつのまにかそばに戻って来た由美の肩に手を置き、忠実な彼女が飛び出そうとするのを止めた。
「すぐ済むよ。少し怖い思いをするかもしれないが、みんなの記憶からはちゃんと消しておく。一応、テストは済んだって体裁を作っておかないとな」
「なんの話よ!? なにをする気か知らないけど、早く元に戻してっ」
「だから、もう終わるって。クラスメイトの女の子達に痛い思いをさせるわけにもいかないから、勝敗の証拠だけ残すかな?」
その瞬間、間違いなく、彼女達の全員が見たはずだ。
闇の中で真紅に染まる、俺の瞳を。
……意識を失うまでの一瞬に過ぎないが、俺の目を見たその瞬間だけは、本物の恐怖に囚われ、魂が消し飛ぶ気分を味わったことだろう。