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俺だけベルトに銃が装備されてないのは、どういう了見だ、くそっ

 食事代を支払う時に気付いたが、俺と由美がもらったカードに、それぞれ五十万ずつ、追加で入金されていた。


 安いか高いか微妙なところだが、命がけだと思えば、断然、安いだろう。


 まあ、今は文句言うのも控えるが。

 それと……俺は全然見てないが、藤原がほのめかした通り、どうやら夜には日本政府の発表とやらがあったらしい。


 だが俺は特にテレビは見なかったし、夜は早めに寝てしまったので、どんな反響があったのかわからない。

 そもそも俺にとって最新の関心事項は、あの金髪さんがかつて本当に俺の臣下だったのか知りたいということと、そして今日行われる集団戦とやらのことだ。


 藤原はバトルロイヤル形式でやるとか言ってくれたら、本当かね。


 ここの生徒は、部屋に一台、PCが標準で設置してあるのだが、与えられた個人メールボックスに、東側校舎横の体育館に九時集合と、短いメールが届いていた。


 しかも、装備はジャージのみだと。

 まさか、ジャージでバトルせよというんじゃあるまいな?






 ぐっすり眠った翌日、俺はまたしても朝食をレストランで摂り、由美と二人で体育館に向かった。別に逆らう意味もないので、メールにあった指示通り、二人ともジャージ姿である。


 この学園はまだ開校して間がないせいか、ざっと年齢で分けたのみの、一年と二年しかいないらしい。

 そのほぼ全員が、続々と体育館に集まりつつあった。


 全校生徒で、多分二百数十名というところか? そのうちの大半がティーンの少女なので、一つところに集合すると、壮観である。

 もうそこら中甘い香りが漂うわ、きゃぴきゃぴしたおしゃべりの声がするわ、黄色い悲鳴が聞こえるわ。


 体育館には折りたたみ椅子がずらっと並んでいて、俺と由美は当然のように後ろの隅っこに座ったのだが……やがて時間が来た途端、正面の壇上に藤原が現れた。





「やあ、朝からご苦労さん。予告していた通り、今からバトルロイヤル形式で集団戦を行う。昨晩の日本政府の発表を、ほとんどの者が聞いたと思うが、今後我々も今まで以上に出動が増えることだろう。今回のテストも、いわば君らの能力を見るための必要不可欠な訓練の一環だ。だから、心してかかってくれたまえ」


 長話が始まるかと思えば、藤原の前置きはそれだけだった。

 そこで彼は舞台袖に向かい、「神野麻里子かみの まりこくん、こっちへ」と誰かを呼んだ。


 とことこ歩いて出て来たのは、自分だけ学園の制服を着込んだ幼女であり、多分年齢は十歳くらいだろう。人形のように整った顔立ちで、こちに向かってへぺこりとお辞儀をすると、恥ずかしそうに一つだけ置かれた椅子に座った。





「神野君のギフトであるレゾナンスシアターは、彼女の脳内異空間に、君達の意識を引き込む。そこでは、ギフトを使って存分に戦えるので、後顧の憂いなく戦ってほしい。相手を殺したって、次の瞬間にこの体育館に意識が戻るだけなので、心配はいらないよ。戦闘場所は神野君の脳内世界であり、現実じゃないからね」


 そこで珍しく、由美が俺に耳打ちした。


「それって、前に丈さまと見た、マト○ックスみたいなものでしょうか?」

「方法は違えど、まあ現実世界じゃないのは同じだろうな」


 俺もそっと囁き返す。


「でもあの映画じゃ、マ○リックス世界で死ぬと、現実の自分も死ぬんだけどな」


 俺の懸念に答えるかのように、藤原はわざわざ保証してくれた。





「生徒諸君の中には、本当に安全なのかと疑う者もいるだろうけど、安全は保証する。どれほど本物の世界に見えたとしても、今から君らの意識が向かう場所は、リアルワールドではない。論より証拠なので、神野君とコンタクトしてもらおう。全員、目を閉じて心を平静に。今からレゾナンスシアターを使って、諸君を彼女の脳内世界へ案内する」


 そんなこと言われて気が軽くなる者はいないと思うが、まあ俺も由美も、いざとなればその世界を破壊してでも、こっち側に戻ることが可能なはずだ。

 そこで、あえて言われた通りに目を閉じ、リラックスしてやった。


 すると……ああ、確かにそっと触れてくる力を感じる。

 これがあの幼女のギフト……レゾナンスシアターというヤツかね?





『よし、全員、目を開いていいよ』


「おおっ」


 目を開けた途端、俺は思わず声が出た。

 さっきまでジャージで体育館の椅子に座っていたはずが、今やバトルスーツ姿で、見知らぬ荒野に立っているでは。


 上空も体育館の屋根ではなく、夕暮れの空が広がっている。


 そして、四方は完全無欠の荒野で、ところどころに大きな岩が突き出ている以外、地平線までなにもない。

 由美も隣にいたが、距離はかなり離れている。


 というか、二百数十名の少女全員が、適度に離れて立っていた。

 なるほど、こりゃ脳内異空間と言われても、信じるかも。


 どこからともなく、また藤原の声がした。




『装備は魔導弾装備の規定銃のみなので、使える者は、できる限りギフトを使うといい。ルールは一つだけ。仲間や友人と故意に連携れんけいして戦ってはいけない。不慮の事故で流れ弾が当たるのは仕方ないが、基本的には、相手を見つけて一体一の戦いに徹すること。つまり、誰かが誰かと戦っていたら、そこに割り込んではいけない。手近な敵に当たるもよし、逃げ回って自分の生存率に賭けるのもよし。生き残った時間が長ければ長いほど、ポイントは加算される。もちろん、相手を倒してもね』


 へぇ、なかなか厳しめのルールだけど、連携れんけいして戦うのが禁止なら、まあ公平か?

 俺がのんびりとそう考えていたら、途中でまた藤原の声がした。


『あ、霧崎丈君のみは、今のルールの例外としよう。彼に対しては袋叩きもありだ。なにせ、昨日はボーダーを倒しているからね。ぬるいルールじゃ失礼だろう。ははっ』


 おい……待てや、こらっ!

 女の子達全員が銃を抜いてこっちを振り向き、俺は思わず顔をしかめた。

 おっさん、そういう嫌がらせをするかっ。


 しかも、俺だけベルトに銃が装備されてないのは、どういう了見だ、くそっ。


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