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一人で全員片付けてご覧にいれます


 ちょうどそこで、部屋の明かりが点いた。



 いつも通りの平静な顔で、藤原が戸口に立っていた。 


「先に見てくれて、話が早い。……その映像はつい今朝方、YouTu○eにアップされた動画だ。どこの国のものかは不明だが、今や主要国のほとんどにはギフト持ちを集めた訓練学校があるから、映像自体は有り得ない話じゃない。……ただ、アップされた意図は不明だな。映像が作り物かどうかも。今、分析中だ」


「いや、ありゃ本物だよ。見れば、殺し合いが嘘か演技かくらいはわかる」


 俺は断言しつつ、一旦席を立った。


「戦ってる最中は、双方、本物の殺気を放っていた。……というかだな、一つ疑問なんだが」


 机の端っこに座り直し、藤原を見た。


「日本ではなかなか難しいかもしれないけど、なんで他の国の連中は軍を動かさないんだ? ギフトを持たない兵士とはいえ、火力で押し切れないか?」

「さあ、そこなのさ、問題は」


 藤原は腕組みして俺を見返した。


「まず、敵のボーダーには、通常兵器が利きにくい。銃で撃ったくらいじゃ、たちまち治ってしまう。だから我々は、ギフト持ちの戦士と協力して、魔導弾なんて弾を開発したほどでね。同じくギフトを持つ戦士しか発射できないが、これなら、当たれば敵も無事では済まない」


 俺がさらに口を開いた途端、藤原は目で抑えて続けた。


「まだ本命の理由がある。実はこの学園の生徒達はまだ知らない者が多いが、敵はなにも、あの脳に寄生するタイプの戦士ばかりじゃないんだ。指揮官クラスの上位階梯の敵がいるんだな。我々はオフィサー(士官)と仮に呼んでいるが。困ったことに、そいつはターゲットに噛みついただけで、思想感染ともいうべきギフトを発揮し、加速度的に味方を増やす。映画のゾンビと違って、下僕にされた者は、自分の判断で支配者のために活動を始め、さらにボーダーの下僕を増やしていく。ギフト持ちは多少の耐性があるが、一般の兵士や将校にそんな力はない」


「……つまりなにか、下手に軍勢なんか差し向けたら、たちまち乗っ取られると?」


「その通り。ボーダーが現れた初期の頃、実際に他国でそんな事件が起きた。軍隊を向かわせたら、しばらくして軍勢全てがボーダーの下僕となり、逆に攻めてきたという笑えない実例があるのさ。度が過ぎる抵抗を見せれば、我々は先に軍を潰す、なんて脅しも来たそうな」

「へぇえ?」


 俺はとっくりと藤原を見た。


「実際にそうすりゃいいんじゃないか、ボーダーにしてみりゃ。連中、なぜわざわざそんな警告を出す? 先に完膚なきまでに軍を叩く方が、勝率は上がると思うが?」

「理由は私にもわからない」


 藤原は、柄にもなく厳しい表情で首を振った。


「というより、もし連中が手加減して戦っているなら、その理由を答えられる者は、まだ人間側にはいないね」

「なるほど……まあ、相手はヴァンパイアとゾンビを足したようなもんだしな。理由なんて想像しにくいか」


 俺はその時、微かに敵の狙いが見えた気がしたが、口には出さなかった。

 この時は、まだ自分の推測が当たっているかどうか、自信がなかったからだ。

 代わりに苦笑し、改めて尋ねた。


「で、俺にそんな話を聞かせた意味は?」





「今日の夜、特別番組で日本政府がボーダーの侵略を正式に発表する。最初に彼らが現れてから、ほぼ一年と数ヶ月ぶりにね」


 藤原はずばり告げてくれた。


「つまり、今後は我々の活動も極秘ではなく、堂々と出動して、堂々と獲物を狩ることになるだろう。本当の戦いが始まるってわけさ」

「俺だけにハッパかけてもしょうがないだろ? みんなにも教えてやれば?」

「もちろん、後日告げるさ。タイミング的には明日の集団戦かな。バトルロイヤル形式だが」

「おいおい、マジかよ」

「それと、君にこの動画を見せたのは、私が個人的に一つ、質問してみたかったからだ」


 藤原は俺の軽口に反応せず、値踏みするように俺を見た。


「もしも、もしもだよ? あの場に君がいたとしたら、結果は違っていたかな?」






 正直に話すかどうか、俺は一瞬、ためらった。

 これがきっかけで、無茶な要求されてもめんどくさいからな。


 しかし、当の藤原が「大丈夫、返事次第で激戦区へ向かわせる、なんてことはないよ」とわざわざ保証した。


「超嘘くさいな、おい。だが、そこまで言うなら答える。――あそこに俺がいれば、全滅していたのは、間違いなく敵の方だね。まあ、動画で見る限りの戦力においては、だが」


 横で由美が、コクコクと誇らしげに頷いていた。


「そうか!」


 藤原は嬉しそうに小狡い笑みを広げた。


「いや、質問してよかった。……今日はご苦労様だったね。黒焦げの服を着替えていいよ」


 そこまで言うと、藤原はもうさっさと引き上げてしまった。

 俺は顔をしかめて、思わず由美を見る。


「明日の集団戦とやらでは、ちょっと配慮がいるな?」




「わかります」


 由美が力強く頷く。


「明日はぜひ、わたしにお任せください。さほどお待たせすることなく、一人で全員片付けてご覧にいれます」

「ちがうっ、逆だ!」


 コツンと、拳で小さく由美の額を叩く。


「圧勝とか論外だ。藤原に期待持たせすぎると、ロクでもないことになりそうだ」

「で、では……わざと負けるおつもりですか?」

「むう」


 俺は頭を抱えた。


「よく考えたら、それはそれで嫌だな」


 ほどほどのところで、わざと負けるくらいが丁度いいんだが……俺は見栄っ張りだからな。


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