8話 昔々の物語
この話を読む前に。
7話、圧力の裏側のドルクとの話中、
布をくれというくだりを追加しました。
「お前さんにはこっから
数日間、一緒に行動してもらう。」
「・・・なぜです?」
「いいから!さ、広場に
戻ってきたぞ!そこに座って見とけって。」
再び舞台を取り出す。
そして手前に銭箱を置き、
広場や商店街にいる人に聞こえるように
大きな声で叫ぶ。
「レディィィィィィーース!エン、
ジェントルメェェン!!
ボーイズアンドガールズ。さぁさぁ
よってこい!見に来やがれ俺の大道化!」
いっていることは完全にてきとうだ。
叫んでたらよってくるだろうと
単純な考えだ。アリスはしっかり
舞台の前に座っている。
これを見て人々は少しずつ集まる。
ある程度集まったことを確認すると
劇の開始だ。ガフラーからもらった布の使い道。
そう、人形だ。ブリキの人形を元に布を
上から被せ、簡単な布人形をつくる。
緑の長い筒状の布、黄色の布を
細かく切っただけのもの。
灰色を基調としたわざとボロさをつけた服、
黒と紫を基調としたデザインの服、
沢山の色の布を重ねて作った十二単。
「今からお送りするのは
私の故郷で古くから親しまれている
物語、かぐや姫の物語をお送りしよう!
是非!楽しんでいってくれ!」
舞台の裏側に回り込み、
作った僅かな隙間から人形を覗き、
動きを操る。実は一樹、操り人形が
得意であるがゆえに何度か地域の子供会の
舞台にたたされたことや、
学校の文化祭で披露したことなどがある。
そのため、スタンダードなかぐや姫の
物語などはバッチリ覚えている。
古文で全文だ。さて、始めようか。
「今は昔、竹取りの翁というもの
ありけり。野山に混じりて竹をとりつつ、
よろずのことに使いけり―――――――――――」
物語が終わると、一部の人は
涙を流し、一部の人は感動に
胸を震わせていた。知らぬまに
人も非常に増えている。
アリスもそれは例外ではない。
どうやら無事、大成功したようだ。
察しのよすぎる人ならここまでで一樹の
アリス更正作戦の実態に勘づいたひとも
いるかもしれない。
一樹はこの数日間の間、
男女が常に関係する物語をアリスの前で
披露する。知らず知らずのうちに
物語を通し男女恋愛への憧れを抱かせ、
男に対する見方を少しずつ変えさせていく
作戦だ。
率直的に攻めるより、
気づかれぬように、遠回しにした方が
効果覿面だと考えた。
かぐや姫の物語は最後、かぐや姫が
月に帰って終わりと思っている人が
いるかもしれない。実はそれだけではない。
今回の舞台ではその部分も演じた。
月に帰る直前、かぐや姫は
皇と翁に一つずつ贈り物をおくるのだ。
皇には不死の薬を、永らく生きて、
また会える日を望んで贈る。翁には
育ててくれた礼として自分の服を贈る。
だがしかし、皇は不死の薬をかぐや姫のいない
世界に永久に居ようとも意味がないと、
そのおもいが届くように、日本で最も高い山、
富士山の頂上にてその薬を燃やす。
不死の薬を贈ったかぐや姫の心境まで
考えずとも、自然と頭に入るように、
最後までしっかりと演じた。
かぐや姫は、それであってこそ、今回の作戦に
意味があるのだ。
「気に入ってもらえたかい?皆?
よろしければそこの銭箱にチャリンっと
お金を恵んでおくれ、今後の資金や
生活費にあてさせてもらいたい。
とりあえず、これで今日の舞台はおしまい!
また明日会おう!」
終わりを告げると、大勢の人が
銭箱にお金を入れて帰っていく。
楽しかったね。や、すごく
感動したという様々な言葉を
散りばめながら。
「ほほぉ、これはこれは
かなり稼げてるねぇ。銅貨に
銀貨に、金貨まで!
これは鉄貨かな?おっきい
銅貨はどういう意味?なぁアリス。
これってどんだけ稼げてんの?」
「そうですね、
合計すれば金貨50枚くらいの
価値はあるのでは?」
「あぁや、そこじゃなくて、
お金一つ一つの価値はどのくらい?」
「えっと、百枚ずつ上がります。
鉄貨が三枚もあればパンが一つ買えます。」
「にゃるほど。あや?
白金貨が一枚だけ入ってたな。
貴族さんでも見に来てたんかな?
これはラッキーだわ。」
「それより先程のかぐや姫の物語。
あれほど皇の妃になることを
拒絶していたのにどうして不死の薬を
渡すのでしょう?勘違いされるかも
分かりませんのに」
わかってなかったんだ。
「んじゃ、まずはそれが課題だな。
きっと分かるようになるよ。
そうだな...今、俺と一緒にいることって、
アリスからすれば、かなり苦痛でしょ?
冗談やらお世辞やら抜きで」
「・・・はい。固有魔法を
持っているために無礼は致しませんが、
ほんとうは顔すら見たくありません。」
「んじゃぁ、それがマシに
なる頃には少しくらい分かるかもな。
んで、なくなる頃には、
完璧に理解するさ。」
「男と和解なんて、
無理な話です。」
「そっか。
それでもさ、かぐや姫の物語は
聞いてて心地よかったろ?」
「・・・」
笑顔での声かけに対し、
アリスはなにも答えられない。
最後の意味は分からない。だが
心のそこから暖かくなったのは確かで、
理解できずとも、その胸には
強く、深く、残っている。
いつか私にも分かるのだろうか?
自分らしくなく、そんなことを考える。
一樹はそんな心迷うアリスを
横目で見守るのだった。
「さて、今日は時間がなかったから
あんまできることがなかったけど、
また明日の朝、
おまえさんのところに行くから覚悟しとけ?」
「・・・」
一樹はその場を後にした。
宿までの道中、ギルドを見かける。
そういえば門番の言ってた札、
これ払わないとな。鉄貨5枚か。
今のうちに払っとこう。んでから
宿にいこう。
「あー、人形のおにーさん。」
「お?みててくれたのか?
ありがとな。」
「うん!すっごく楽しかった!
また明日なんでしょ?絶対、ぜーーったい
観に行くね!」
「ありがとう、待ってるよ」
小さいこや、ご老人、
夫婦や若者にこうやって誉められたとき、
やってよかったという実感が湧く。
心がもっとも温まる瞬間だ。
今日は実にいい日だった。
また明日もいい日になるかな?
そう願いながら
一樹はギルドの門を開いた。
つぅっかれたぁぁぁ!!!!
もうちょい今回アリスをツンツンさせる
つもりだったけど、うまくかけなかったなぁ。
また明日か明後日に更新しますね
たぶん明日かな?




