表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

完遂と帰宅

 そこはバーだった。バーが、明るい時間帯から容赦なく営業していた。


「うっわマジかよ、いいなあ、熊谷にもねぇかな、明るいうちから酒呑ませてくれるところ」

「そもそもバー自体が少ないっしょ。諦めんしゃい」

「然り〜」

「さもありなん〜」


 塩野は書類を抱えて、何故かウキウキしながら店内へ入ってゆく。そんなに時間はかからないと思う、と一言残して。

 相田と網屋は駐車場でぼんやりと下らない会話などしながら待つことにした。「そのテ」の人物達が集うバーであるからして、じっとしている方が余計なことに巻き込まれずに済む。


「あんまりカッ飛ばすわけにはいかないっスよねえ、明るい時間帯だし」

「まあ、そうだなぁ。ポリスメーンの世話になる可能性ガン上がりだしな」

「うーん……どの道通っていこう」

「平日だしなぁ」

「平日っすねえ」

「…………」

「…………」

「書類渡すだけなんだよな?」

「そう言ってました」

「…………」

「…………」

「質問攻めなんじゃろか」

「かもしれないっすね」

「…………」

「…………」


 黙って、顔を見合わせ、時計を見て、二人は同時に頷いた。


「あと十五分しても帰ってこなかったら呼びに行く」

「お願いします」


 結局、無情にも時は過ぎ十五分経過。網屋は店内に突入した。

 店内に入った途端、一発で分かった。この、一般の酒場ではどうやっても出ない空気感。その真っ只中に、スーツを着た男と幼い少女の組み合わせ。どう見ても、他に該当する人物はいなかった。

 何か揉めたりしている雰囲気は無い。網屋は胸を撫で下ろす。こんな場所で、よもやこんな明らかにヤバそうな奴らがいる場所で揉め事など起こしたらどうなることやら知れたものではない。当の塩野はこちらからだと背中しか見えないが、随分楽しそうだ。

 視線がほうぼうから突き刺さるのが分かる。品定めされているのだろう。おっかないので、とっとと退散するに限る。


 真後ろに立てば、塩野の気配がこちらに向くのが分かった。向かい側に座る二人の視線も。


「そろそろ時間です」


 一言、声をかけてやればやっとこさ塩野は振り向いてくれた。


「外で相田も待っていますし」


 あからさまに不満げな顔をする塩野。余程盛り上がっていたのか、だが仕方なかろう。時間が無いのだ、水だってなんだって差す。

 分厚い封筒を手に塩野はようよう立ち上がり、「じゃあ」なんて言って手を振る。金髪の幼い少女が、律儀にペコリと頭を下げた。


「また今度ココに来ることがあれば」


 少女の隣に座るスーツの男が、ニヤリと笑って告げる。


「連絡さえしてくれりゃルツボ内のグルメツアーでも組んでやるよ。外じゃ絶対食えないような危ないものまで、より取り見取りさ」

「ありがとう。ちゃんと食べられるものをお願いしたいね」


 この場に相田がいなくて良かった。もしも相田まで連れてきていたなら、今すぐにお願いしたいとか言い出しかねない。そうしたら塩野を呼びに来た意味が全く無くなってしまうではないか。

 とにかくとっとと帰りたい。この店がまず怖いし、眼の前にいるあの男もかなり怖いし、おっかない以外の感想はない。おうちがいちばん。

 網屋も軽く頭を下げ、塩野を引き連れてその場を退散した。


 で、いざ車に戻ってみれば。


「ほはへひははーい」

「なんでお前はこの短時間に何か食ってんの?!」


 天むすにかぶりついている相田が満面の笑顔で迎え入れてくれた。


「しかもなんだその量は! どんだけ買い込んでるんだよォ!」

「天むすと、味噌ダレ串カツと、鶏皮餃子ネギ塩ポン酢ダレですよ」

「違う! 俺が聞いてんのは種類じゃねぇ!」

「手羽先も考えたんですけど、手が汚れるなって思って」

「さすが相田君、安定の相田君だあ。僕にもちょーだい」

「はい串カツどうぞ」

「そこで! 塩野先生まで! 食わない!」


 つっこむだけつっこんで、網屋は助手席のシートにひっくり返る。


「あぁーもぅー、目ぇ離してる隙に何かあったらどうすんべ、とか考えてた俺の気苦労を返せぇ」

「んもーしょうがないなぁー、先輩には天むすを分けてあげよう」

「……食う」





 帰路は至って安全であった。何故かは分からない。一応、直接その理由を見聞きしなかったという意味で分からない。何台かの車両は寧ろ相田の車を避けているようにすら思えたが、気の所為ということにしておこう。


 授業参観にはなんとか間に合った。塩野の自宅には寄らず、そのまま小学校まで直行したのだ。相田や網屋が通っていた小学校とは別の場所で、車内から覗き込んだりしてみたが、あからさまに不審者だ。これでは幼児に興味しんしん丸ではないか。更には「うちの子たちの授業、見てくー?」などと塩野から誘われたがますます駄目だ。完全に変態さんだ。丁重にお断りして自宅へ帰り、もうその日は着替えもしないで寝床にひっくり返って、長い長い強行軍は終わりを告げた。





 また、ルツボへ行くことがあるかどうかは分からない。が、次こそは手羽先を食べる。相田の決意は固い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ