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「私の矜持をっ、いまっ、なんて言ったのっ!?」
この身一つは、私を私として生きている証。
実の両親にさえ否定されても、選んだのは自分を通す生き方。
馬鹿だと嘲りを受けたとしても、それを歩いていくのは私自身!
「自分の選んだ道を馬鹿にされたらたまんないわっ!私の誇り高いこの生き様を、貶すことは誰であろうと私は許さない!」
「なっ……!?」
「行く歩く道くらい、自分で決めれるわよっ、このおチビ姫!」
「テメェ……あまり調子に乗ってっと殺すぞ……」
王が殺気立って姫を抱えたまま立ち上がって……って、えぇえっ!?
なに!?やっぱこれって死亡フラグ!?
自分の発言に無責任に後悔なんてしないけれど、流石にヤバいわよコレ!
「うっ、あわわっ!」
頭が渦になるんじゃなかってくらいテンパってたら、壁の一部になりかけてた旅人が突然笑い出したの。
いえ、笑い出すっていうより、これはもう……。
「あひっ、ぎゃはははははっはははっ……!!ひぃー!はー!腹いてぇー!!」
上体を前のめりにさせて笑い続ける旅人。
ちょっと怖いわ。
なんで笑っているのかしら?
王の恐怖に頭が可哀想なことに?
「なに笑ってやがる」
「いやーそこの綺麗なおねーさんがとっても格好良くってさ。姐さんってああいう人のことを言うのかなぁーって」
「ハッ、これからどうなるのか分からない、無知からの余裕か?良くも暢気に笑い転げられているモンだ……」
「転げってのは訂正を。俺はな、ただ感動してるんだ。そこのおねーさんに」
か、かんどう……。
私、感動させるようなことなんて言ったかしら?
「俺もまだ、しなきゃいけないことがあるし……ッ、ね!」
ぐおんって感じで下半身……腰を思いっ切り捻ると、その旅人、そのままの勢いで隣に一緒になって壁になってたゴリラの後頭部に蹴りを下して。
「カッ、ハァ…ッ…!?」
一瞬、何が起こったのか分からないって顔の後、そのゴリラは地面へドン。
当たり所が結構良いポイントだったみたい。
もう唖然よ、私。
オロオロとしていた私に、両腕の拘束を解かれた旅人は向かってきて………。
「その真っ直ぐな意志に敬意を示して、よっと!」
「へっ……ぇ、ひっ、ひゃやあぁぁぁああぁッ――――――!?」
横の窓をガッシャアァン!って突き破って落下。
ちょっと待って、私を巻き込みながら?あらヤダ。お空の星がとっても綺麗だわぁ。
「おっぷぅ!」
「ごふん!」
旅人のヘンテコな掛け声の後に地面に着陸した衝撃で出た重い息に喉がごふんごふん。
ひっどいじゃないの!死にかけたわよ私!
「いっひゃあぁっ…!足、シビれたぁ~っ!まぁ、無事だったから結果オーライ」
「結果……おーらい?これが?まっ、まぁ良いけど。それよりも貴方これからどうするのよ、追っ手だって来るかもしれないのにっ」
「んー……まぁ、行き当たりバッタリになるかな」
「そんな無計画にっ!」
と、そこまで言ってた私を華麗にスルーして、旅人はゴミを漁っているつなぎの作業服を着た男に声を掛けに行って。
あれって確か。ここの一帯のゴミを収集する会社の作業服じゃなかったかしら。
ゴミを燃料にするのは勿論。ゴミの中にも価値のある物が眠ってるをモットーにしてるっていう。
この街にしては、随分と善良方針なクリーン会社の。
「あ”ぁ”?んだテメェは。仕事真っ最中に話掛けてきやがって。同僚にチクられたら減給喰らうのは俺なんだぞ」
……う、うぅん。く、クリーンな。善良方針の………ね。
イメージが今この場で総崩れしたけど。
勝手なイメージを人に押し付けちゃあいけないわよね?さっきのコトも良い教訓になったわ。
それにしても、この子も旅人同様に害の無さそうな顔して随分な口調ね。
やんちゃしてきたタイプかしら。
「いやー。さっき追われる身になっちまって。逃亡の手助けをしてもらいたいなぁ……って」
「それが人に物を頼む態度か?そういった頼み事ってのはな、金や誠意を見せて初めて成立するモンなんだよ。俺は今仕事中。その仕事中でも、それを放り投げるくらいの見返りがあってこそ、人は動くモンだ」
なにかしら、この子。
普通の顔立ちをしてるのに、持ってる眼力がホント、ハンパないわ。
恐怖っていうよりも、こっちがたじろいじゃう程、真っ直ぐ見られて……思わず後ろめたさを感じちゃうくらい。
「頭を下げてくれってんなら下げるし、金が欲しいってんなら、後でどうにか稼いででもお前に渡す。俺はやらなきゃいけないことがまだあるから死ねないし、この綺麗なおねーさんにも酷い目に遭って欲しくない」
「随分と欲張りな野郎だな。何かを得る為には、どれかを一つでも捨てなきゃならねぇっていうお利口な脳は持ってねぇのか?」
頭を指先でトントンってして、にやりともせずに無表情で旅人を再度見つめてる。
ああっ、旅人の子、なんって良い子なの!おねーさん感動しちゃったわ!
さっき会ったばかりなのに、なんて思いやりのある子なのよ!
「俺のやらなきゃいけないことの一つに、このおねーさんの手助けが入ったんだ。誰かの為、なんてのは俺のガラじゃないし。そんな崇高な思考だってしてないよ、俺なんかは」
「物は言いよう、か。まぁ後で稼いででも俺に金をくれるってのなら、俺はここからの逃走に手を貸してやる」
「買いたいモンでもあるのか?」
「いいや」
あらいけない!追っ手の声と足音がすぐそこまで来てたことに気付かなかったわ!
明るい星空の元。バタバタと数人分の足音の影が、私と旅人を覆い尽くそうとした……その時よ。
「生きる為に、だ」
ポツリとそう呟いた作業着男は体勢を低くして、そして……。
そこから一瞬。姿を消したわ。
「グェッ!?」
「あぐぁっ!」
「い、ぎぃっ……!?」
影の数人の声が頭上から聞こえたかと思うと、その次には私達の周りにはバタバタと人が倒れて、気絶中状態。
……い、いま。何が起こったの?
「おい。お前も、こんくらいだったら出来たんじゃねぇのか?旅人よぉ」
「いやぁ~…流石に“コレ”は俺には無理だ。お前、見掛けに寄らず結構強いんだなぁ」
「じゃあ、何の為に俺を雇おうとしてたんだよッ!?」
「いや、この街の抜け道とかに詳しそうだなぁって思って……」