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赤い色一色でぎんぎらと飾られた部屋の中。
大きなソファの上で偉そうにしている、野性味溢れる美形な男は、膝に可愛らしい顔の男の子を乗せて私に恭しく礼なんてしてきたの。
「これはこれは……ご機嫌麗しゅう、夜の可憐な大薔薇よ」
「あら、ありがとう。お世辞でも嬉しいですわ。夜の王様」
口の減らないオカマだ、と、目の前の男が私を嘲笑う。
私が住んでいる眠らない街の王と呼ばれる男。私はその男に拉致されちゃったの。
ちゃんと抵抗はしたんだけど、やっぱりちょっとゴツくても力があるワケじゃないのね私……まぁ、怪力とかだったらもっとゴツくなっちゃうと思うからそれでも良いんだけど。
そうそう、それでね。拉致され理由っていうのが。
「お兄ちゃん!この子、本当に僕にくれるの?くれるのっ?あー早くこの子で遊びたいなぁ!ね、君はどんな声で僕に突っ込んで、悶えてくれるのかな?」
この王の弟である“姫”って、変態癖で有名なのよねぇ……さっきの台詞から言って、どうやら私を新しい玩具として認識してるみたい。
どこかで見掛けた私を欲しがった可愛い姫のおねだりを聞いてやった兄である王。
そんなところかしらね?
冷静になっているように見えそうだけど、実際は冷や汗心臓バックバクの爆発寸前に足がガクガク震えているわ。
これから私、どうなっちゃうのかしらっていうお決まり台詞が脳内駆け巡ってるけど、強気な態度で王の前に出ちゃってる私。
ほら、やっぱり女としてのプライドっていうものは保ちたいじゃない?
こら、誰よそこ。お前は男じゃんって言ったのは。
「ああ、コイツはお前の玩具になるためにここに来たんだ。嬉しいだろう?ずっとコイツが欲しいって言ってたもんなぁ」
「うんっ!細い腰とちょっとだけ筋肉質な腕にビビって来ちゃったんだ!」
あらま。私、今イラッとしたわよ。
細マッチョ寸前な身体、気にしてんだからね!
「安心しな。殺したりはしねぇからよ……店の方にも話は付けてある。お前を差し出すのを渋ってたが、流石に両腕を失うのは嫌だったようでな」
「っ!?ちょっ、アンタ、店長に酷いコトしてないでしょうねっ!?」
「だから、酷いコトにならねぇために、お前がココにいんだろーが」
私みたいなのにも優しかった店長。
差し出されたのは悲しかったけど、やっぱり最初は守ろうとしてくれてたんだわっ。
両腕を切り落とすとか、なんて酷い脅しなの!
ぷりぷりしちゃうわ、とか現実逃避で誤魔化してたけど……やっぱり怖いモンは怖いっ。
誰か、私をここから……連れ出してえぇっ……!!
「主様。不審な人物が街を徘徊していると連絡が入りまして。捕らえて来たのですが……」
「あん?んだ、それ。一体ドコのどいつだってんだ」
「この街を知らない人じゃない?ね、ね、今、僕とっても気分が良いんだ!ちょっとその不審者見てみたいから、ここに連れて来てよ!」
「はっ、主様のご随意に」
私なんか目じゃないくらいにゴッツゥい男の人が部屋に入って来て、王に報告をして、姫の頼みで不審者を連れて来るって……。
え?ここに?
嫌よ私、これ以上怖い思いしろっていうの!?冗談じゃないわよ!もぅ!
若干、涙目になってる私を無視して、王と姫がキャッキャしてるけど。
……うぅ、私……帰りたい………。
シクシクしてたその時。
なんだか賑やかな声が聞こえてきて、その声がする方を見てみたんだけど。
「おいおい、俺は別に変質者じゃない。ちょっと街がどんななのか気になって、見て回っていただけだろうが。この扱いは酷い、酷すぎる!断固俺は黙秘を貫くぞ」
「それだけ喋っていれば、もう黙秘も何もないだろう」
「聞いたー!?このゴリラ、俺が黙秘突入する前に一丁前なコト言ってますよー!」
「もうヤダッ、なにコイツ!!」
……ず、随分トリッキーなのが来たわね。
あれが変質者?普通の旅行者っぽい出で立ちだけど。
旅行っていうより、旅人?
ふぅん。この街に来るのは初めてなのね。
なら、ここを知らないのも頷けるわ。
「おい、ここは俺の街だ。この街を出歩きたいのなら、まずは俺に顔を通すのが筋だろう?」
「ん?そういった決まりがあったのか?それなら俺が悪かったな。で、どうすれば良い?」
にやにやと不機嫌そうな台詞に合わない顔で旅人の子に言ったけど……王はこの子をどうするつもりなのかしら?
何も言う権利が無い私は、これからどうなっていくのか見ているだけ。
ハラハラっとして胃がキューッ!よ!
「お前が俺の街で何をしたいのかは分からないが、お前の顔……見たことあるぞ。確か隣の国から送られて来た報告書に載ってたな」
ほうこくしょ?
何かしらそれ。
っていうか、隣の国?
この王って、隣の国の人とも繋がりを持っているのかしら?
まぁ、私には関係のないことだけど。
それにしても、この旅人。人畜無害そうな普通の顔して、一体何をやらかしたのかしら?
犯罪者には見えないし、情報を遠くの地にまで回す程の重要人物?
失礼かもしれないけれど、とてもそうは見えないわ。
「あー……、もしかして、俺がどういった奴なのか知ってる感じか?」
「ああ、ばっちりな」
「うげー……どしよっかぁ……」
頭にクエスチョンマーク幾つも浮かべるわよ?
どういうことが、誰か説明をしてちょうだい!
「ねぇねぇ、そんな奴ほっといて、早くこの子の調教に入りたいんだけどぉー!」
「お、悪かった悪かった。お前のことは後回しだ。今は、可愛い姫さんの機嫌をなおさないとな」
明るい声でとんでもないこと言うのねこの王!
両腕を拘束されたまま壁際に手下ゴリラちゃんと旅人ちゃんがべったりとくっついている……シュ、シュール。
あぁッ……出来ることなら私の存在なんてお空の彼方へと飛ばしていって欲しかったわ!
「まずは、その悪趣味な女ものの服を脱いで!」
「あっ、悪趣味ですってぇ~!!」
失礼しちゃうわ!この服どれだけ私が欲しかったと思ってるの!?
特注で大きめにつくってもらったりもしちゃったんだから!
「ヒラヒラしてて可愛いじゃないの!」
「僕が言っているのはね?その服が悪趣味って言ってるんじゃなくて……“き・み”が着るのを悪趣味って言ったんだよぉ。あれぇ?もしかして自覚、無かったあぁ~?」
ううううがああぁ!
な、殴りたいその笑顔!!
私の趣味にイチャもんつけるなんて、良い度胸してるじゃないの!
地団駄踏みたくってた私に、脳天気そうなお声が横から突き刺さったわ。
「悪趣味?俺は、とても似合っているように見えるけど………」
「アンタなに?うっさいんだけど。僕の美意識が可笑しいって言ってるの?」
「服の色も形も、自分に何が合うのか分かって作られてるじゃねぇか。それにその髪の色はその服に良く映えるし」
あら、単純に嬉しいわ、ありがとう。
でもアナタ、そんな壁にへばり付いて言う台詞じゃないわよ?
格好付けたいのか付けたくないのか分からないじゃないの!
「ねぇ~……僕はねっ、君の男らしい身体と綺麗な顔にしか興味ないの!女みたいな言葉遣いも、化粧品臭いのも、これからはしないでよね!もう僕の玩具になったんだから、そういうの許さないよ!」
ちょっ……これはなんでも、これはなんでもっ、許さないわ!