きっと、そういうもんだよ。
突発的に書いたものです。
最後の穂香ちゃんの答えは、私の考え5000%です。
穂香が秋田に帰って来たから遊ぼうということになって、私の家に招いて今はテレビの特番を見ている。私が大好きな漫画がアニメになって、しかも私の大好きな声優さんが出演することになって、私は楽しみで仕方なかった。今は、キャストインタビューのコーナーで、もうすぐ私の大好きな彼が出るだろう。
『続いて、翡翠の剣士、ジェイドを担当するのは―――』
「来たっ!」
「えっくんでしょー?」
『若手実力派声優、江夏湧也!』
「もう! 穂香サイアク!」
「だって凛ちゃん、もう知ってるんでしょ?」
穂香が悪びれもせず言うから、少しカチンときた。あ、インタビュー始まった、集中集中。
私の大好きな声優は江夏湧也くん。もう付き合えるなら付き合いたいくらい愛してる。まぁそんなことは無理だから、私はファンとして全力で応援するだけ。だから穂香が彼と同じ高校と聞いたときは「紹介して!」と半分本気で言ってしまった。「だめ!」って強く言われた。そりゃそうだ。そのかわり私がファンだということを伝えてくれたみたいで、「"応援してくれてありがとうございます"だって」と穂香からLINEで聞いたときは涙が出るほど嬉しかった。テレビの中で黒いジャケット姿のえっくんは真剣な顔で作品について話している。もう普段も爽やかでカッコいいのに、衣装のせいか色気が増し増しでカッコいい!
「やっぱえっくんカッコいいなぁ~」
「そんなに?」
「穂香はしょっちゅう見てるからそんなことが言えるの!」
「アタシもえっくんもずっと働いてるからしょっちゅう見てるワケじゃないよ!」
穂香が笑ってそう言うから私も「そうだよねゴメン」と笑った。
その後も主要キャラを務める声優さんのインタビューが続いた。みんな売れっ子の豪華キャストだから凄い楽しみ!
『そして、今作のキーパーソンとなるアラバスターを担当するのは―――人気声優、朝田柚希!』
「凛ちゃん、朝田さんこないだ歌番組出てたね」
「あ、穂香も見てたんだ」
「こんなに有名になったら知ってるよ」
「だよね」
朝田さんは声優だけじゃなくて歌手としても活躍してるから見たことある人は多いと思う。三十四歳とは思えないほど童顔で可愛いからファンはもうアイドル扱い。でも……
「あれでお母さんだよ、凄いなぁ……」
「あー……なんか結婚したとき酷かったって聞いたことある」
そう、朝田さんは六年前に一般の方と結婚をして、その二年後に出産をした。当然、一部のファンが騒ぎ立てて掌を返したように彼女を中傷した。『裏切った』、『どれだけお前に貢いだと思ってる』と。中には旦那さんを傷つける言葉や口には出せないような言葉もあった。正直私は彼女だって一人の人間で一人の女性だから、幸せな家庭があっていいと思ってるし、彼女の幸せも全部ひっくるめて応援できるのがファンじゃないかなって考えてる。テレビの中の朝田さんは緩く巻いた長い髪と、真っ白なワンピースでにこやかにインタビューに答えている。
「でもさー」
ポテトチップスをパリパリを食べながら穂香が声をあげた。私はオレンジ色の袋に手を突っ込んで「んー?」と穂香に続きを促した。
「声優さんの結婚ってそんなにダメ? 人気のある声優さんってさ、言ってもオッサンオバサンじゃん」
「失礼なこと言わないの!」
「いや、そうじゃなくて……三十代になるとテキレーキだよ? 若い人なら違うだろうけど」
「テキレ……あぁ適齢期ね。うん……でもやっぱり嫌、なのかなぁ……」
私も声優さんに夢中だから、そういう人たちの気持ちが分からないワケではない。私も過去に好きな声優さんが結婚したと報道がでた時、軽くショックを受けた。その人は四十歳近かったから素直に祝福ができたけど。
「そもそも結婚を否定するほど声優さんに入れ込む人の気が知れないよ。『裏切られた』って言ってるけどそもそもお前らの恋人じゃないし、声優はアイドルじゃない」
「穂香めずらしくズバズバ言うね」
いつもへらりと笑う穂香の瞳は怒りを孕んでいる。人の幸せを素直に祝福できない奴らが許せないの? いや、違うか。大切な友達のことを考えてるんでしょ? まだ成人して間もないのに、アニメに引っ張りだこで忙しくしている先輩、さっきまで画面の向こう側でプロの顔をしていた友達が、将来手にするだろう幸せを潰そうとする奴らがいるかも知れないから。だから怒ってるんでしょ?
私はグラスに汗をかいたコーラを一気に飲み干して、ポテトチップスで嘴をつくる穂香に聞いてみた。
「じゃあ、穂香はどう思う?」
「んぁー?」
「何で、声優さんの結婚を許さないファンがいると思う? 何でその人たちは許さないと思う?」
うー、と嘴をパクパクさせて唸る穂香のグラスに冷たいお茶を注いだ。穂香は一瞬で嘴を口に押し込んでお茶を飲み干した。窓から見える青空を見つめる穂香の瞳は、無機質に見えた。
「自分の理想が壊れることを、馬鹿みたいに怖がってるから」
ほら、二次元は自分の理想を裏切らないって言うじゃん、だからそれと強く繋がってる声優さんにも理想を持っちゃって、それを壊されることを理解したくないから喚くんじゃないの?
「ま、わかんないよ。あんな人たちの考えることなんて」
からから笑う穂香の瞳には、くるりと光が戻っていた。この親友は、ちょっとおバカでマイペースな子って印象が強いけどホントは凄く頭が良いんじゃないかって思う時がある。
「凛ちゃんプリン! プリン食べたい!」
ほら、もう引っ込んじゃったよ。きっと、東京にいる穂香の友達も、こんなところに惹かれたのかな。
「はい、あーん」
「あーんっ」
プリンをもぐもぐ食べる姿は可愛いし癒される。すぐに飲み込んだ穂香は私に聞いてきた。
「凛ちゃんは、えっくんが結婚したらどうする?」
質問はそれだけだったのか、あー、とまた口を開けてきた。親鳥と雛みたいだな。私は大きく掬ったプリンを見つめていた目を穂香に向けた。
「祝福のメッセージを送って、あとはそっとしとくかな」
プリンを穂香の口に放り込むと、また穂香はへにゃりと笑ってんー、と頬を動かす。テレビからはアニメの主題歌とスタッフロールが流れていた。
ありがとうございます




