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 私の家から徒歩で行ける距離に学園はある。その事もあってもしかして私はヒロイン?! と思ったりもしたけど、モブだったからか!

 あれ? そういえば、葵くんなんでわたしがモブってはっきり分かったんだろう? スチルじゃない所にでもいたのかな??

 もしや、私は教室の背景などで顔出ししてるモブだったり?


 「なんか、嬉しそうにニヤニヤしてるね?」


 おっと、顔に出てたよ! 葵くんいつの間に見てたの?


 慌てて口元を引き締める。


 「乙女ゲーの話だけど、私ってスチルじゃない所にでも顔出してたのかな? って思って」

 「あーー、うん。そうだね。一言で言うと、『愛されモブ』」

 「愛され?」

 「そう、開発スタッフが気に入ってたらしくてスチル以外の所にマメに出てたよ。取説とか、色々」

 「へーー!」


 愛されモブーー! 開発スタッフ様ありがとうございます! ……うへへ、ちょっと嬉しいよね。ん? あれ、でも何か嫌な予感がしなくもないんですけど……。


 「なんか、(モブ)が出たりするドラマCDとかそういう関連商品出たりしてないよね……?」

 「俺は知らないけど、声優さんがこのゲームの後のアニメでブレイクしたらしくて、そういう話が出てもおかしくないかもしれない」


 まじか、声優ついてるモブなのか。よくある、オマケ的なものでって展開がありそうな…。いや、だかしかし、でもなぁ……。うん、考えるの面倒だからポジティブに考えよう!


 私はスタッフの人だけに愛されてた!!


 いや、ちょっと無理があるかな……。うーーん。


 「あははっ考えすぎ! 悠莉に何かあれば、俺が助けるから安心していいよ?」


 考え事が顔に出ていた私を見て、笑い出しながらも目を合わせながら手を繋ぐ力を少し強める葵くん。


 「うん、ありがとう」


 大事にしてくれる言葉に心がほっこり温かくなった。出会って間もない私達だけど、前から友達だったみたいな安心感がある気がする。

 優しい葵くんは前世でもモテ男だったに違いない。落ち着いたらいつか、前世の話をゆっくりしたいなぁ。


 そう思いながら歩いてると学園が見えてきて、周りに同じ学園の生徒が増えてきた。ざわざわと、お喋りする人達の声にこちらを見ながらの驚愕の声が混じり始めてやっと、自分達が注目されている事に気付く。


 「葵くん、もしかして目立ってる……?」

 「そうだね、俺のせいかな?」

 「絶対そうだよ! 葵くんが王子さまみたいだからね!」

 「王子だけにね」

 「それ言いたかったな?!」

 「うん、実は機会狙ってた」


 ……くっ。今の微笑みで周りから悲鳴があがって倒れてる女子がいたよ。なんて破壊力だ!!


 「ありがとう悠莉、僕のお姫様」

 「えっ、どうした……の」


 笑いながら繋いだ手を持ちかえたと思ったら、キラキラ笑顔で喋って私の手の甲にキスをした。その瞬間、さっきより大きい悲鳴があがる。


 周りに聞こえるように台詞を言う葵くんは本当に王子さまで、周囲の人達が見惚れる気持ち分かる。

 分かるよ! 分かるけど、言われてる側に立ってる私は、顔で笑って心でショボーン顔だよ!!

 かっこいいキラキラ笑顔だけど、これ演技だから!! 安請け合いしちゃったけど、結構精神がゴリゴリ削れるよこれ……。


 さっき気付いたけど、『僕』って言ってる時は、『乙女ゲームの王子葵』なのかもしれない。今朝もお母さんと話をしてる時も昨日、学園で話をした時も作ってる感じがした。

 『僕』って言ってる時は、若干無理してる気がするのは気のせいかな?


 「あっそうだ、教室行く前に保健室に行こう?」


 葵くんの声が聞こえたらしい人達のざわめきが大きくなる。


 ちょ、保健室に行くけど変な意味で利用するんじゃないんだからね?! 勘違いしないでよねっ?!

 ツンデレ風に言ってみました。でも本当だからああああ!!


  プチ混乱しながら私が頷くと、葵くんはふわりと笑って手を引いて行く。

 朝、ぶつかった所を消毒するだけだけど、こんな学園の雰囲気の中メッチャ行きたくない。

 そんな気持ちが出たのか、ちょっと葵くんの手を引っ張ってしまったら葵くんは、不思議そうに振り返ってから手を離してくれた。


 すごい! 葵くん! 私の気持ち分かってくれた?!


 と、喜んでいたら全く通じておらず、葵くんは私の腰を引き寄せて歩き出す。


 違うよね! 葵くん!! 私はイチャイチャしたいなんて視線送って無かったよね?!

 密着しすぎじゃないですかああああ!!!!


 「近い……! 近い!!」


 一応小声で訴えてみたけど、葵くんはニコニコしてるだけで状態は変わらない。


 わざとか! 恋人ですよアピールですね!! こーーんにゃろーー!!





**********





 結局、葵くんは保健室に着くまで離してくれませんでした。

 途中で抗議の目を向けて睨んでたら、おでこにキスされたので無抵抗になるしかなかったのでした。


 だって、腰抱きの次はおでこにキス、その次は一体どうなるんだ?! って、がくぶるするよね?!


 「失礼します」

 「この時間、保険医いないよ?」

 「えっ?! そうなの?!」

 「えっいるよ?」

 「「えっ?!」」


 保健室の扉を開くと、ちょっとチャラい雰囲気のある綺麗な保険医らしき男の先生がいる。


 「誰もいないと思って利用しようとしたの? やーーらしーー♪」

 「いえ、僕達はそう言う理由で保健室に来たわけじゃありません」

 「そう言う理由って何?」

 「……」


 質問しながらニヤニヤする先生。からかうのが好きなのかな?

 先生に無言の笑顔を向けてる葵くん。一瞬、二人の背景がバトルフィールドに見えて目を擦ったよ。


 「ま、冗談だけどねーー。どこかケガでもしたのかな?」

 「ちょっと唇を切ってしまって。……彼女も」


 葵くんの言葉を聞いて、先生は私と葵くんの口元を何度か交互に見る。

 そして深いため息を吐くと口を開いた。


 「若いからがっつくのは分かるけど、次は優しくしなよーー?」

 「「違いますから!!」」


 珍しく私と一緒に大声をあげる葵くん。

 頬が、全身が熱い、きっと私は顔が真っ赤になってるに違いない。

 隣にいる葵くんも顔を赤らめていた。


 恥ずかしすぎる!! 初キス失敗したって思ったんだよね?!


 「もしキスしたとしても、葵くんは失敗するような人じゃないよ!! ーーって何言ってるんだ私!!」


 恥ずかしすぎるフォローなんて、私テンパりすぎでしょ? 鬱だ死にたい……。


 「……まぁ、僕は失敗なんてしないけどね?」


 前世の記憶からの自信なのか、いつも通りどや顔で言う。


 葵くん、表情がいつもの作ってる笑みだよ。もう復活したのか早いね……。私はまだ無理そうだよ……。

 私のHPはオレンジ!! 回復魔法か薬草プリーズ !! もしくは癒し系プリーズ!!


 「へぇ、自信満々だね転生者くん」


 ニコニコ笑いながら言った先生の言葉に、場の空気が凍り付く。


 「……、貴方もですか?」

 「どっちだと思う?」

 「転生者」

 「まぁそうなんだけどねーー♪」


 まじかブルータス!!


 「私もです先生!」

 「あれ? そうなの?」

 「はい、前世の記憶は薄くてここが乙女ゲームっぽいと言う事しか分かりませんが」

 「そうか、じゃあ君は山里悠莉・・・・なんだね?」 

 「? はい、私は山里悠莉です」


 応えると、先生は嬉しそうに笑って私を引き寄せキスをした。


 「んぅ?!」


 舌が?! 舌が入ってます先生?!


 「ちょっと止めて、何してんの?」

 「あ、葵くん……」


 慌てて葵くんが引き剥がしてくれた後、私を庇うように背中に隠す。声のトーンが低い。葵くんは、明らかに怒っている。


 私も震えながら葵くんの背中をギュッとしがみつく。


 「キスはこうするんだよ、王子」

 「セクハラで訴えられたいの? ロリコン教師」

 「俺まだ25ですけどーー?」

 「うるさいロリコン」


 殺すぞ、と続けて葵くんが小さく呟いたの聞こえた。物騒だけど、ツッコミ入れる余裕が無い。


 なんで突然キスされたの?

 葵くんと口がぶつかった時は嫌悪感がなかったのに、先生にキスされたのはとても嫌だった。

 葵くんに触れられたり、今朝みたいに口がぶつかったりしても余り嫌じゃなかったから、ゲームの世界だし顔が良ければある程度許せてるんだと思ってた。でも、それは違う。


 葵くんだけが大丈夫で、葵くんなら何をされても平気なのだ。


 きっと私は既に葵くんの事がーー……。


 「君はヒロインとのフラグを折るために、彼女を利用してるんだろ?」

 「っ!」


 そうだ、私は葵くんのただの恋人役で、友達……と呼べると思うけど悪くても仲のいいクラスメイトには分類されると思う。

 無自覚だったから気にならなかったけど、葵くんへの気持ちに気づいたらやっぱり胸が痛い。


 「俺だってねーー? ゲームの世界に似てるって気付いた時から、もしヒロインが現れたらどう回避しようってずっと思ってた訳。『彼女を作れば、回避出来る』そう思ってた時期が、俺にもありましたよ? でも彼女が出来ても強制力なのかどうしても長続きしないんだよねーー?」


 いつも大切にしてるのに……、そう小さく呟く。

 葵くんと私が無言になってるからか、そのまま話し始める先生。


 「成人した辺りから、もしかしたらゲームが始まるまで相手が出来ないんじゃないかと思ってたんだけど、ほんとにこの年齢まで独身になると思わなかったよ。この学園に就職するつもりもなかったのに、偶然が重なってゲーム通りここにいるしーー?」


 癖なのか、さっきからため息を吐きながら髪をかき上げている。

 葵くんの後ろからコッソリ様子を伺ってた私と視線が合う。合った瞬間から真剣に見つめられて、思わずまた葵くんの後ろに隠れる。


 保健室は静かだから「ふ」と先生が鼻で笑ったのが背中越しに聞こえた。


 「ここに来た時から、俺は山里悠莉を全力で口説き落とすって決めてたんだ。……前世から愛してます、俺と結婚を前提に付き合ってくれませんか?」


 カツカツと足音が聞こえたと思うと、先生は私の真横に立ち手を差し出しながら告白した。


 「ちょっと、俺を無視して勝手に告白しないでくれる? 俺、悠莉の恋人だよ?」

 「恋人のフリ、だろ? この保健室って噴水近いんだよねーー」


 息を飲む。昨日の私達の会話を聞いてる人がいたんだ。


 「突然キスしてごめんねーー? 悠莉が目の前に居る事に感極まっちゃって。もう君が許可してくれるまで触れないから」


 確かに先生の手は差し出されているけど、触れようとしていない。

 手から先生の顔に視線を移すと、困ったように微笑む。瞳は真っ直ぐ私を見ていた。


 ーー私は葵くんが好き。


 そう思いながら、視線を合わせ続けられずに目を伏せる。


 「……ごめんなさい」

 「だよねーー。でも諦められないから、関わる事をしない事は出来ないと思う。学園に居る間だけでも俺の事を心の隅に置いておいて? 出来れば……好きになって欲しいな」

 「ねぇ、断ってるよ? 第一俺がいるし、あんたの事は好きにならないから。悠莉、時間無くなって来たから教室に行こう」


 返事する間もなく、私の手を引いていく。


 「あれーー? 用事はーー?」

 「もういい」


 先生は、また気の抜けたチャラい雰囲気に戻ってる。明るく声をかけるが、葵くんは一言で切って早足で扉に向かって行く。


 ガチャッ……バン!!


 不機嫌で力を込めすぎたのか、乱暴に扉を閉める葵くん。纏う空気がピリピリしてるのが分かる。


 怒っている……!メッチャ怒ってるよ葵くん!!






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