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ぴしゃーーん!
全身に雷が走ったような衝撃を感じて震えた。
思い出した思い出した思い出した思い出した!!
前世の記憶の中にある乙女ゲーム。今、目の前に広がる自然とうまく融合した美しい学園、そこにある中庭の噴水はスチルの場所だという事を。タイトルは忘れたけど、ゲームのスチル絵の風景とそっくりそのままだ。
残念だけど、それしか分からない。私よもっと頑張れ! 頑張って思い出すのだ!!
……………………。
いや、無理無理。全然、全く思い出せない。えーー……なんかすごく勿体ない。でも、攻略対象者と万が一お近付きになって恋愛とか無理だから良かったのかな。
かっこいい人が恋人だと苦労しそうだしね! 私の好みは地味系眼鏡男子だから! 漫画とか小説で、眼鏡くんとか委員長とか呼ばれる感じの!
「……うん、まぁ遠くから眺める分には楽しそうだよね! ヒロイン見たら思い出せるかな?」
テンションが上がって浮かれながら私は渡り廊下を歩く。その時に呟きを聞いていた人が居たなんて、少しも思わなかった。
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クラスでは雑談してる人が目立つ。そんな中、ぼんやり担任の先生が来るのを待ってると、クラスが騒然となった。扉の方を見ると、金髪で青い瞳の美形がクラスに入ってきている。気品溢れるその様はまさに王子様だ。
まじかーー! すごい美形!! 思い出せないけど、絶対この人攻略対象者だよ!!
この人を観察してたら、スチルゲットの場面に出会いそうだなぁと思っていたら、なぜかその美形はクラスに入ってから真っ直ぐ私の机の前に来る。彼は私の目を見つめながら爽やかに微笑んだ。
「僕は王子葵、君は?」
「えっ、あっ?! 山里悠莉です」
「そう、このあと終わったら少し時間貰えないかな?」
「えっ、少しなら……」
「ありがとう、じゃまた後でね?」
王子くんはふわりと笑って私の隣の机に座る。笑った瞬間、周りから悲鳴のような声が聞こえた。
えっ、ちょっとまってどういうことなの。王子様が私に用があるとか(笑)クラスの女子の嫉妬が怖いとか(笑)
って、笑えねえええええ!!!!! まじか! やめて!! ほんとやめて王子!! 名前も雰囲気も王子よ!!
さっきの会話も、お前の異論は認めないからね? って副音声が聞こえたよ腹黒王子!!
メッチャ嫌な予感しかしないよ!! 初日からこれなんてついてなさすぎる!!
あれ? もしかして私は乙女ゲーのヒロインだったりするのかな?
私の容姿は栗色のおかっぱの髪に青い目だ。不細工じゃないけど、ごく普通に可愛いレベルで、私ぐらいのレベルの女子はその辺にたくさんいる。
しかも、おかっぱって乙女ゲーのヒロインに多い髪形なんだよね。もしかすると、もしかしたりするのかな……。
「はーーい! 今から自己紹介始めるから空いてる席に座ってーー!」
ぼんやり考えてたら茶色いふわふわ髪で眼鏡の、可愛いけどかっこいい先生が声をかけながら入ってきた。優しそうなわんこ系の美形。
攻略対象者っぽいなぁ……、て言うか美形だと全員攻略対象者に見えてしまう。
個人的にはわんこ系キャラは大好きなんだけど、バッドエンドや同人誌だとヤンデルイメージで怖いです。この先生はそうか分からないけどね。
先生の名前は如月奏汰、クラスを受け持つのは今年が初めてらしい。緊張しながら頑張ってる感じがかわいい、ほっこりする。……はっ、なんか横から視線を感じる。
恐る恐る王子くんを見ると目があった。その瞬間、ニコッと笑う王子くん。それに対してぎこちなく返す私。
なんだよ、なんなんだよ!! 見つめて微笑むとか、もしや本当にヒロインで補正かかってる?! 無駄に好感度が高過ぎだよね?! 逆に怖いよ!! やめて!!
そして、どっかから舌打ちが聞こえてきたからね!? こらっ女の子の舌打ちはかわいくないので、許しませんよ!!
目を閉じて開けたら次の日になってないかなぁ、なんて現実逃避をしながら遠い目をして皆の自己紹介を眺めていた。
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はい、来ました! 来てしまいましたよ、王子くんによる恐怖タイムが!!
今日はずっと王子くんの視線を感じてとても不快でした。どうして私を観察してるし……勘弁して!!
「山里さんいいかな?」
「あ、うん手短にお願いします」
「「……」」
私と王子くんが喋り出すと、周りにいた人達から雑談が消えて私達の周囲だけがとても静かになった。
……周りからものすごーーく聞き耳をたててる感がありますね!
「ちょっと場所変えようか」
王子くんもそう思ったのか、苦笑しながらそう言ってクラスを出る。私は頷いて王子くんの後について行った。
「ここでいいかな?」
辺りを確認して噴水の近くに腰を掛けたので、私も程よく間を空けて近くに腰かける。
「単刀直入に言うけど、山里さんこの世界を乙女ゲームって思ったよね?」
「えっ?! なんで?!」
「朝、ここでヒロインに会ったらって呟いてたから」
聞かれてーーら!! でも、分かってくれる人を見つけてテンションMAX!!
「そっ、そうなんだよっ! もしかして同士?! ここの噴水は見たことあるんだけど!! でもねっそれだけで、他は思い出せな……」
「ストップ、山里さん落ち着いて!」
「はいすみません……」
興奮して喋る私を頭をポフポフしながら宥める王子くん。
「誰が聞いてるか分からないから、なるべく小声でお願い。それと、僕も山里さんと同じ記憶持ちだよ。……他は思い出せないって、この噴水の所しか分からないのかな?」
「うん、この噴水が乙女ゲームのスチルの場所の一つなのは分かるんだけど。ほんとそれしか思い出せなくって、……あっそうだ! 私ヒロインだったらどうしよう!」
「あぁ、それなら君はモブだから安心していいよ」
「あっ、そう……」
やったねモブーー! 安心したよ! じゃあ、私はゲームに関係ないな! 平穏無事な日常よウェルカム!! ヒーーハーー!!
「もしかしてさ、自分には関係ないとか安心してない?」
ば、ばれてーーら!! しかも王子くんの笑顔の目が笑ってない。心なしか声のトーンも下がってたような……、なんだかすごく嫌な予感がする。引きつる頬を止められない。
だっ! 『ユウリは逃げ出した!! ▽』
がしぃ! 『ユウリは捕まってしまった!! 逃げられなかった!! ▽』
思わず逃げ出した私を手首を捕まれ腰に手を回されてしまった。首に王子くんの息がかかってる!! 近い! 近いよ?!
「なんで、逃げるのかな? ん?」
「ひーー! 嫌な予感がするから!?」
青ざめる私を見ながら、優しいけど悪魔のように何か含んだ笑みを浮かべると
「当たり、一緒に巻き込まれて欲しいんだよねお願い。嫌だって言ったら教室で告白するけどいいかな?」
飛んでもない発言が飛び出してきたよ! それってお断り出来ないよね?! 強制的に巻き込むって事だよね?!
「は?! ……いったっ!!」
叫びそうになった所を王子くんが掴んでた手首を私の顔に勢いよく持ってっいたので、自分の手のひらで自分の顔面を打つとかいう奇妙な事になる。
わざとかこんにゃろ!
「だから、小声で。今度大声あげたらキスするからね?」
王子くんの目が本気だ?!
「……ね、なんで私なの?!」
「んーー、まぁ一言でいえば『気に入ったから』かな? 初印象で山里さんがいいし、他にゲームに似た世界だって分かる人知らないから。運が悪かったと思って諦めて?」
自分のバカ! 今朝、噴水前で呟いた自分を殴りたい。今すぐ王子くんも殴りたい。今なら一発KO出来る自信がある! どうしてこんな事になったんだろう?!
一見、かっこよくてキラキラしてる王子様みたいな王子くん。
「王子じゃなくて、魔王の方があってる気がするよ……」
「悠莉が魔王がいいって言うなら魔王になるよ、宜しくね悠莉? 俺の事は葵って呼んで?」
「口に出てた?!」
「うん、クラスメイトには王子様で悠莉には希望どおり魔王で対応するから」
な ぜ 私 だ け !! そんな希望出してないよ?! あれ?! 王子くん、僕って言ってなかったっけ? あと、思ったんだけどいつまで腰に手を回してるんですかね!!
「王子くん、そろそろ離して……」
「葵、だよ。あ、お、い。ほら言ってごらん?」
じゃないと離さないよ? いいの? そう副音声が聞こえてきそうなちょっと意地悪な笑みで私を覗きこむ。
「あ、葵くん離してよ……」
「はい、どうぞ。よく言えました」
そう言って葵くんはニコニコしながら、子供にするように私の頭を撫でた。
……かっこよくて可愛いなんてずるい、殴りたい気持ちがしぼんで無くなったよ。いや、やっぱり無くなってないし! 悔しいからデコピンくらいはさせて欲しいな……!
**********
「そういえば、巻き込まれて欲しいって葵くんはやっぱり攻略対象者なの?」
「うん、俺達の知ってるゲームだったら難易度の一番高い王子様キャラだよ」
「へーー、なんで巻き込みたかったのか教えて貰えない? 私はどうすればいいの?」
葵くんは驚いたように一瞬、目を大きく開くとふわっと笑って目を細めた。
「ありがとう、悠莉ならそう言ってくれるような気がしたんだ。知ってる人に雰囲気も似ててお人好しで優しくて、だからこそ巻き込みたかったのかもしれない、……ごめんね?」
優しく葵くんに言われて、恥ずかしいような照れくさいような、ソワソワしてちょっと落ち着かない。
急にしおらしくなったりして、しょうがないなぁ手伝ってやるか! って気持ちになるのは美形だからかな?! 羨ましい!!
「この乙女ゲームは、『私はラストまで貴方といたい』ってゲームなんだ。略して、漢字でこう書いて私孕って呼ばれてる」
「ん? 孕む??」
「それなんだよ……。ヒロインのヤンデル数値がある一定以上こえると、攻略対象者を監禁してアレコレして子供を作るイベントが発生する」
「なにそれ怖い……」
「そうなんだよ! 俺も怖いよ!!」
ヒロインやライバルキャラが監禁なら、バッドで聞くパターンだけど攻略対象者が監禁ってさぁ……。ヒロインすごい肉食系じゃん!!
口元を押さえながら目を伏せる葵くんは顔色が悪くみえる……と、思ったらパッと顔をあげて笑顔を私に向ける。
「で、悠莉には俺の恋人になって欲しいんだ」
「……えっ?」
「だから、恋人になって?」
えええええ?! 何言ってるの?!
「あれ? 意外、叫ぶと思ったのに偉い偉い。そして、ちょっと残念かな?」
明るい声で頭を撫でながら葵くんの視線は私の口に……。あっさっき言ってたよ。危なかったーー!! 有言実行する気満々だよ葵くん!!
唇を内側にしまってしゃくれると、葵くんは声を出して笑ってた。
「鼻つまんだらどうなるかな?」
「ずるい!!」
「そう、俺はずるいんだよ?」
勝ち誇ったように笑う葵くんは、子供っぽくてかわいい。……あっ絆されてるよ! 私よ!! これも魔王の手口だ! 気を付けろ!!
「まぁその話は置いといて、悠莉は分からないから説明するね。恋人が出来ると攻略出来なくなるんだよ」
「えっ?! それで監禁コース回避出来るの?!」
「多分……、ヒロインの行動次第でどうにかなってしまうかも、しれないから確実とは言えないけど」
困ったように笑う葵くん。困った顔も絵になるなぁーーじゃなくて!
葵くんは結構必死だ。ヒロインをトゥルー攻略するより避けたい気持ちはよく分かる。まともな娘だったらいいけど、まともな保証はどこにもないのだ。
まぁ、いっか。この学園にいる間だけでもボランティアで。
「私で良かったら、恋人役引き受けるよ!!」
「っありがとう!!」
「わっ! うぐぉっ……!」
感極まったらしい葵くんに苦しくなるぐらい抱き締められた。
思わずうめき声がでる。女子としてどうなの? ってぐらい不細工な、うめき声だった。こんな所でモブクオリティよ……。
「嫌って言っても考えがあったんだけど、素直に言ってくれてよかったよ?」
「無理して魔王しなくていいよ?」
「あはは、ほんと君を選んで良かった……」
葵くんは小さく呟いて、私の肩におでこを乗せながらさっきとは違う感じで、何となく優しく大事に触れるように私を抱き締めた気がした。
ちょっと!! ドキドキしちゃうじゃないか、やめて欲しい! でも、これを言うと余計やりそうな気がするから言えないな!!
小さくため息を吐いたら、葵くんがゆっくり離れて間を取った。
気をつかってくれたのかな? ……ちょっと名残惜しいのは絶対気のせいだな!! そうだよね私!! チョロくないよね?! お願い!!
「そういえば、私がこの乙女ゲーの事を思い出せないのって、もしかしたらゲーム雑誌の知識だけだからかもしれないってちょっと思ったり」
「あぁ、それなら情報が少ないのも納得。俺の方は姉がやってたのを後ろからたまに見てたんだ。それプラス、ゲーム語りがすごくて。相当好きだったらしく、何回もプレイしてたんだよ。だから思い出したのかも……」
弟くんが記憶に残るくらいのプレイ数と語りってすごいですね!! 余程好きだったんだろうな。
……あっ、ちょっと前世の記憶が過る。乙女ゲームにはまってて何度も何度も繰り返しプレイして悶えてた、楽しくて優しくて面白い気が合う仲のいい親友。
「……いてくれたら心強いんだけどなぁ」
「ん? 何?」
「いや、なんでもない!」
つい口に出てしまった。でも本当、居たら百人力だよーー!
「じゃ、明日から宜しくね悠莉」
「うん! でも役にたたなかったらごめん!!」
「もう既に役に立ってるよ」
「そ、そうかな? だったら良かった」
「うん」
私の言葉に微笑む葵くんは、絶対これスチル!! ってツッコミたくなるぐらいの素敵な微笑みでした。
きゅんとした私を許して欲しい。王子様みたいな攻略キャラから天使のように微笑まれてきゅんとしない人はいないと思う。絶対にだ!!
このゲームプレイしてたら、葵きゅん! って叫んでたと思いました。(作文)




