●大嫌いな父親
●大嫌いな父親
これは相談のお客の話ではなく、
友人渡河の会社で働いている子の友達の話である。
偶然、その日は、その友達が臨時で手伝いに来ており、
昼食を一緒にとる事になった。
事務所近くの中華料理店に入ったのだが、
料理が出て来るまでに多少時間があり、
その時に、なにげにその子に聞かれたのである。
「あのう、
嫌いな親であっても、
やっぱり供養とかしてあげないとダメですか?」
「そりゃあ、供養しないよりか、した方がいいでしょ」っと、
即答しそうになったが、時間もあったので、
「どうして、親を供養したくないの?」と彼女に聞いてみた。
すると、彼女は、
遠い昔を思い出すように、生い立ちから話し始めた。
彼女の家は、4人家族だったという。
厳格な父親と優しい母親、そして兄と彼女である。
父親は大学の教授だったという。
それは、誰もが聞けば凄いねと言う大学の教授だったという。
でも、
彼女はそんな父親が嫌いだった。
彼女いわく、
父親は家の中では絶対的な王様だったという。
DVなどの暴力は無かったものの、
母親はいつも父親の召使いの様に、ビクビクして父に尽くしていました。
父の言う事は絶対で、
ある日、母親が何十年ぶりに同窓会に行くと楽しみにしていました。
当時、家の財布は父が握っており、
母の自由になるお金はあまりありませんでした。
それでも、それなりの古着を探して同窓会に行く準備をしていました。
ところが、
その日に急に訪問客が来る事になって、キャンセルさせられてしまったのです。
父の「また今度の機会に行きなさい。」という一言で母の楽しみは消えました。
私は側で聞いていて、
「次なんて、ある訳ねーじゃん。」と言いたかった。
私が学校で、100点をとっても、父親は別に誉めてもくれませんでした。
でも、兄が80点を取ると、父はとても喜んだのです。
そんな事もあり、私は段々と父を避けるようになりました。
多分、父もあまり私には関心が無かったと思います。
やがて、私は大学生となり、
バンドをやっている男性と恋仲になりました。
しかし、案の定、
父親は彼の事が気に入らない様で、
私に「あの男とは別れろ!」と言ってきました。
普段からの父親への反発感もあった事もあり、
私は、勢い家を出ました。
1年後、私達は結婚しましたが、
当然、結婚式には、父親は来ませんでした。
それだけでなく、
母親も父親に逆らう事が出来ず、本当は来れないという事でしたが、
それではあまりに私が可哀想で、
相手の親にも顔向け出来ないという事で、
私達は結婚式の日取りを変えて、
父親に黙って母と兄に参加してもらうという方法を取りました。
「本日、父は急病で・・・」という結婚式となりました。
結婚生活はというと、
夫はなかなか目が出ず、二人での共働きでした。
そんな中、子供を妊娠したのです。
2人の収入では家賃を払うのに精一杯で、
の時ばかりは、出産費用を助けて欲しいと、実家にお願いに行きましたが、
やっぱり、父親に断られました。
頼みに来るなら夫も来るのが礼儀だろ、とか訳の分らない事を言って、
結局、孫の為のお金も出し惜しんだのです。
後日、母親がアパートに来て、
母親の手持ちのわずかなお金と、
兄からのお金だと言って、お金を置いてってくれました。
涙が出ました。
それでもまだ入院費とかだいぶ足りなかったのですが、
アパートの大家さんが、とても良い人で、
私が出産に困っているのを聞きつけて来てくれて、
「子供が1歳になるまで家賃は半分でいいから、元気な子を産むんだよ。」
と言ってくれたのです。
こうして、
父以外の人の支えで無事、息子を授かる事が出来ました。
子供が生まれた時も、
そこに父は居なく、
祝ってくれたのは、母と兄と他人である大家さんでした。
その5年後、
父は心不全で亡くなりました。
葬式や49日法要など、
本当は出たく無かったのですが、
母親に頼まれて、嫌々という感じで出ました。
でも正直、本当は父親の供養には参加したくないのです。
彼女は、そんな事情を話してから改めて聞いてきた。
「嫌いな親であっても、
やっぱり供養とかしてあげないとダメですか?」
さて、
私の今までの経験から、
本当に大嫌いで、親の供養などしないという人は、初めからこういう質問をして来ない。
なぜなら、したくない人は、
誰に言われてもしたくないし、こういう事を悩みもしない。
そう思いながら、彼女にアドバイスした。
これは貴方の為でもありますよ。
亡くなった肉親は、もっとも早く貴方の守護霊になれる存在です。
どんなに嫌な事ばかりしてきた人でも、
亡くなると改心したり、生前の行為を後悔しているものです。
そんな人が亡くなったら許してあげるのも、貴方の魂を高める修行の1つになるでしょう。
また、貴方の寛大な心はきっと、霊になったその故人に感謝され、
将来貴方を事故から守ってくれたり、病気を軽くしてくれたりしてくれます。
貴方は彼によって、嫌な思いも随分されたでしょうが、
小さい頃は大事にされ、可愛がってもらった事あるでしょう。
また、貴方には息子さんが出来ました。
その息子さんの為にも、亡き父親を供養してあげて守ってもらってはどうでしょうか?
多分、一番早く息子さんを守ってくれる存在になれるのは、亡きお父さんですよ。
そう説明した。
しかし、それでも彼女はあまり納得しなかったようであった。
やがて、中華料理が運ばれてきて、
話はたち切れとなった。
私と彼女の話は、それで終わった。
ここまでの話だったら、
別段書くほどの話では無い。
実は、
この後、予想も出来なかった事が分ったのである。
それを友人から聞いた時、
まるでドラマの様な結末だと、感じたのは私だけであろうか。
それは、さらに1年位過ぎた
ある1月の頃だった。
彼女の息子さんも、もうすぐ小学校に入学するという時期である。
あの優しい大家さんが、また尋ねてきて、
「これ、息子さんに」と、
黒いランドセルをプレゼントしに来たのである。
彼女は、
「いつもありがとうございます。
でも、そこまでしてもらわなくてもいいですよ。」
と、ランドセルを受け取らなかった。
「ランドセルは母が買ってくれる事になっていますから・・」
しかし、大家さんは、
「いや、是非受け取ってください。
これが最後ですから。お願いします。」そう言うのです。
彼女と大家さんとの間で、
「受け取れません」「受け取って下さい」と
そんなやり取りが、少し続いた時、
彼女はふと、
大家さんが最初に言った「これが最後ですから・・」という言葉が気になって、
受け取る事にした。
そして、直ぐにランドセルの入った箱を開けて見ると、
ある事に気がついたのである。
そのランドセルは、最高級品であった。
そして、見覚えもあった、
兄や自分が昔使っていた高級ランドセルと同じメーカーであった。
「失礼ですが、このランドセルはどこで買ったのでしょうか?」
その質問に大家さんは、答えられなかった。
やがて、大家さんはある真実を話し始めたのである。
それは、
彼女が長男を出産する時に話はさかのぼった。
当時、彼女が出産費用などで困っていた時、
大家さんの家に、彼女のお父さんが来たのである。
用件は、娘夫婦が困っているようなので、
1年間、家賃の半分は私が払うが、その事を娘には話さないで欲しいという事だった。
そして、あの時の出産祝いも、
このランドセルも、
実は、父からのプレゼントだったのである。
今から考えてみると、
いくら人の良い大家さんだと言っても、赤の他人の家賃を半額にするなど聞いた事がないことだし、
タイミングも良すぎた。
父だったのだ。
人にあまり頭を下げた事が無い父が、
大家にお願いに行ったんだ。
私の為に・・・
桜が綺麗に咲いた頃、
彼女は息子と一緒に、墓地にいた。
父親の墓の前にいた。
「父さん、息子です。
今日から1年生です。
ランドセルありがとうね。」
「おじいちゃん。ありがとう。」
PS.
女性は、愛情を表現するの上手である。
それに対して、愛情を表現するのが下手な男性は多い。
特に昔の男性に多いようで、
そんな人は娘に対する接し方も概して下手である場合が多い。
プライドを守るためか、
それとも、
そうでないと、競争社会で生きていけなかったのか。
今度生まれ変わる時は、
娘に愛される、お父さんになれますように・・・・
END