待ち合わせにて
土曜日。午前10時。駅前ロータリー。
「そろそろかな」
可愛らしい服装に身を包み時間をチャックする海沙。今日は、優孝とデート日だ。
「川中君。明日私と出掛けない?」
正式に華怜と別れたとこが決まった昨日。海沙は、思いきって優孝にデートを申し込んだのだ。
放課後。図書室に向かう途中の優孝を引き留めて言った。その瞬間、胸が熱くなると同時に断られる不安が頭によぎった。
「それってデート?」
「そ、そそそうなるかな~」
「……うん。いいよ」
「そうだよね。駄目だよね。ごめんね。七条さんと別れた後だもんね。……えっ。今何って?」
「いや、いいよ。明日」
優孝のOKの返事に一瞬、硬直状態になり固まり動かなくなった。何も言わない海沙に頭を傾げながら近づいて行き、顔の前で手を横に振るとハッと我に返り2歩後ろに下がる。頭の中で今の出来事を整理する。
デートに誘う→返事は、OK→固まる。
ワワワッと挙動不審になり心臓の鼓動が速く激しくなる。何度も深呼吸をするが落ち着かず、額から汗が滲み出す。
「神山さん?」
「は、はい!」
声をかけられ声が裏返ってしまった。振り返ると優孝は、少し困った様子だった。
「ご、ごめん。え、えっとそれじゃ明日の10時ぐらいに駅のロータリーで待ち合わせでいいかな?」
「分かった。あ、そうだ。俺、神山さんの連絡先知らないから教えてくれない?」
ポケットからスマホを取り出し、お互いの連絡先を交換した。
「それじゃ」
図書室に向かう優孝の背中を見送り、スマホの画面に映し出されている優孝の連絡先を確認していると、嬉しい感情が溢れだしてニヤニヤが止まらなくなる。
「どうしよぉぉぉぉぉ。川中君とデート!わああああああ」
そのあと、吹奏楽部の音楽室に着いたのは、始まって30分以上経った後だった。
「遅れてすいません」
そして、今。
「こ、これは」
ロータリーで待っていた海沙の目の前に1台のリムジンが停車した。その場にいた誰もが釘付け状態になっていると、運転席から出てきたのは、1人のメイド。そして、長いリムジンの後部座席のドアを開けると、優孝が現れて海沙の目の前に立つ。
「遅くなってごめんね神山さん」
「……あ、うん。大丈夫気にしてないから」
「そうだ、紹介しておくよ。このメイドは、家にいる2人の内の1人のカルネ」
「初めましてカルネでございます。神山様」
「わぁ。綺麗な人。本物のメイドさんだ」
「1人で行くって言ってたんだけど」
「目的地までお送りするのは、メイドの務めですから」
「こんな調子で、それで今日はどこに行くのかな?」
「えっとここから8駅先にある大型ショッピングモールなんだけど、行ったことある?」
「聞いたことはあるけど行ったことはない。そこに行くの?」
「そうだよ」
「よし!カルネ頼める?」
「かしこまりました。お任せください」