第7話 傭兵アジト
8話目になります。
新たな人物が登場です。
ここにあるアジトには今まで何度も足を運んだが相変わらず溜め息がでるほど美しい。
偽装のために鍾乳洞を模した入り口から中に入ると、そこには水晶でできた巨大なクリスタルが鎮座しており、そのちょうど真ん中に穴が開いておりそこから内部に入れる。
因みにここに配備される門番はクリスタルキーパーと呼ばれ、この上ない栄誉(と多額の報酬)を貰える。
実力がなければなれないが若菜は史上最年少でここに配備された。
そして、クリスタルを抜けるとそこには広間が広がっており、余裕で1万人は収容できますかね?と無言で主張してるようなひろさだ。
そして、天井にはシャンデリアが飾ってあり、こんな場所ではなければ観光地としても十分に通用するだろう。
「……こんなトコになければ、金が入るだろうに」
太一がそんなことを呟き、全員が頷く。
「こんなにスゴイの主城ぐらいしか見たことないわね」
エアがそんなことを口走ったが、誰も追及しない。
元の世界のコトを言っているのがわかったので、配慮したのだろう。 わざわざ、悲しい思いをさせる必要もない。
「一夜さん! 戻ったのですかっ!」
声のほうを向くと、可愛らしい顔をした小柄な女性が小走りに走ってきた。
一夜の運転に酔わない数少ない存在の一人である。
「やぁ、ナナちゃん。 何か、あったかい?」
「深夜さまっ!?」
「なぜ年上のはずの親父さんが、さん付けで深夜は、さま付け?」
目敏くそう呟いた太一だが誰にも聞こえていなかったらしい。
そして、一夜の問いを完璧に無視して、小柄な女性つまりナナが深夜をみて驚く。
「やぁ、ナナ。 久しぶり」
「久しぶりですっ! また一段と男前になりましたねっ」
その言葉に脇にいる女性二人の目つきが険しくなったが、気付かないフリをする。
喜々としてそう言うナナに苦笑しつつも先程の一夜の問いと同じことを聞いた。
「なにか、あったんじゃないの?」
「あっ、そうでした! ギルド長がお呼びですよ……一夜さん」
思っていることがすぐに顔にでる女性なので、焦った顔になり、申し訳なさそうに一夜に告げる。
それを聞いた一夜は珍しく表情を曇らせたが、すぐに元の軽薄顔になり一息に告げた。
「ゾッとしないなっ! では、さらば!」
背中を向けて逃げ出す一夜。
「ええ!? ちょっと一夜さん、待ってくださいよぉ」
そう言って追いかけるナナだが全く追いつかない。 なにせ相手はこのアジトで1、2を争う身体能力を持っているのだ。
呆然とする一同のなかで若菜が独白する。
「師匠……大変ですね。 私でも、ゾッとしますわ」
「あのヒト、綺麗なトコはいいんだけどなー」
若菜に追従して言う深夜だったが、自分の失言に気付く。 が、しまったと思ったときには時、既に遅し。
「ちょっ、ちょっとまっ……」
制止しようとした深夜だったが光の速さで鳩尾に肘鉄をくらう。
そして、痛みに悶絶して、うずくまる深夜。 割と、強力だったので本気で痛い。
「捕まえられるものなら、捕まえてみなさ~い。 おっと、危ないぃ~」
うずくまる深夜の耳に一夜の軽い声が聞こえる。
顔をあげると遠くで一夜がナナを翻弄しながら逃げている。
が、そこで一夜の悲鳴が聞こえた。
「うわぁっ! ビックリするじゃないかね! 急に出てきたら危ない……」
声が途切れたので一夜のほうを見ると、まるで死神でも見るような顔をした一夜の前にとても綺麗な、美貌を持つ二十代に見える女性(見えるというのも、傭兵達の多くは不老の処置をしている者が多いからだ)が艶然と微笑みつつ立ちはだかっていた。
その女性はギルド長である。
「一夜……私の誘いを断るとはどういうコトかしらねぇ?」
その声を聞いた者は赤面するほど艶やかな声だったが、一夜は遠目で見てもわかるくらい冷や汗を掻いていた。
「やぁ、玲奈。 久しぶり……でもないか一昨日会ったかな?」
挨拶をした一夜の声音はいつものそれだったが顔が引きつっている。
「そうですわね。 でも、なぜ貴方はいつも逃げるのですか?」
「誤解だよっ! この僕が美人をおいて逃げるわけ無いじゃないかねっ!」
これだけは声音も顔もいつも通りだったが、若干後ろに下がってきている。
「そうですか。 それでは会議にも参加してくださいますね?」
まるで決定事項を告げるような声音で言う。
「それと、これとは話が別じゃないかねっ! あんなむさ苦しい場所には行きたくないね。 君もそう思わないかい?」
さりげなく同意を得ようとギルド長こと玲奈に言う一夜。
「それは同感ですが……」
「ならば、そうしようじゃないか!」
その言葉に、我が意を得たり!と言わんばかりに熱心に頷く。
「ですが、必要なコトなので来て貰います」
「えぇー、仕方ないなぁ」
玲奈が途中で一夜に腕を絡めてきたので、言葉とは裏腹に明るい顔になり自ら率先して歩き出す一夜。
「……相変わらず単純なヤツ」
たまらずにボヤく深夜だったが、若菜も同じことを考えていたらしく額に手を当てていた。
「師匠……もう少し迷う素振りをみせてくださいよ……」
「自分に忠実だな」
悩ましそうに言う若菜となぜか感心したように言う太一。
それが聞こえたのか一夜が振り向き、微笑む。
そして、腕を絡めていたので一緒に振り向く形になった玲奈が深夜たちを見て言う。
「あなたたちも来なさい。 これは命令ですからね」
途端に逃げ出そうとした若菜はその場で踏みとどまったが、別にギルドに入ってるわけではない深夜は背中を向けて遁走する。
「俺はアンタの指揮下じゃないからなっ! さらばだっ!」
走りながら振り向きつつ捨て台詞を残し、全速力で逃げる深夜。
「甘いわねっ!」
横から聞こえた声に思わずギョッとする深夜。
全く気配がしなかったのだが、なんと、そこには若菜がいた。
「自分だけ逃げようなんて、そうはいくもんですかっ! 深夜も道連れなんだから」
なぜか嬉しそうに言う。
「ちょっ、ちょっとまっ……」
この言葉を発した瞬間深夜は思った。
あ、デジャブったな……。
そして、その予想通り光の速さで鳩尾に肘鉄をくらう。
痛みで悶絶する深夜だったが若菜に抱きかかえられ、連行される。
みかけより、遥かに腕力がある女性なのでいとも簡単に、危なげなく持ち上げられる。
深夜は痛みにより正常な思考が停止しているためそんなコトをされてもなにも感じなかった。
「連行しました、玲奈様」
「うん、よろしい。 では、連れて行きなさい」
「はっ」
いかにも上官と部下という挨拶をする女性二人。
「深夜、ごめんなさいね。 こうするしかなかったものだから」
「……なんで俺は若菜に抱かれてる?」
魅力的に微笑む若菜と冷や汗を流しながら問う深夜。
そして、明確な殺気もひしひしと感じている。
「だって、あなたが歩けなさそうだったから?」
「ありがとう……でも、もう大丈夫だから降ろしてくれ。 それに、身動きが取れないから」
「イヤよ。 だってあなた抱き心地いいもの」
即答かいっ! 心中でそう思う深夜。 自然と顔は渋面だが。
「俺はむいぐるみか、なにかか?」
「ええ、そうよ」
またしても即答された。
もう少し考えろよ……そう思わずにはいられない深夜だった。
読んでいただきありがとうございます。
若菜の行動にエアがどう出るか楽しみですね。
それでは、彼らの今後の活躍に乞うご期待!
では、また会う日まで。