第3話 親父に会いに
こんにちは花咲 匠です。
4話目になります。
この作品にかける一日の時間が多くなってきており若干焦っております。
それでは、ついに最強傭兵親父登場です!
高級住宅街の一角にある広大な屋敷のなかの一部屋でその屋敷の主人とスーツ姿の部下と使用人たちはいた。
「まだ、ヤツらは見つからないのかっ!」
威厳が込められた主人のガラガラ声が部屋中に響き渡った。
部屋にいる者は身を萎縮させ、自分に被害が及ばないように祈った。
「す、すみません。 どうにも逃げ足の速いヤツらでして、目下全力で捜索中でありますっ!」
上等そうな革椅子に座り、上物のスーツを着込んだ中年の男に、端整な顔立ちをしたスーツ姿の青年が頭を下げつつ報告した。
「全力で……だと? なぜ、あれだけの人数を使って見つけられないんだ!」
「は、はい。 すみません。 しかし、いくら百人ほどいましてもこの町は広くてですね……」
中年は小さくなりながらも説明をしようとした青年を睨みつけ、ガラガラ声で遮った。
「言い訳はいらない。 もし、失敗したらどうなるか……わかってるな?」
年の割に異様に鋭い眼光で見据えられ青年は縮み上がった。
「は、はい! ちゃんとわかっております!」
「ならいい。 早く仕事を片付けろ」
ビシッと敬礼をして、青年は部屋の扉を開け逃げるように廊下にでる。
背中と首筋に冷や汗が流れていたのだがそれを拭いもせず、廊下で待機していた部下二人に命令する。
「いいか、早く異邦人を見つけろ。 さもないとこっちの首が飛ぶぞ」
青年と同じように冷や汗を垂らしながら部下二人は頷く。
「しかし、隊長。 どこかアテはあるのですか?」
震える声でそう聞いてきた部下に対し、青年は微笑んだ。
「あぁ、ある。 さきほど、仲間が情報を掴んだ。 今から向かうぞ」
途端に顔色が明るくなった部下二人に苦笑しつつ、屋敷の外に停めてある車に向かう。
「……同類を捕まえることになるとはな……」
どこかやりきれないような顔をした青年が発した呟きは部下の耳に入ったが、二人も同じような顔で溜め息を吐いただけだった。
富士にいるという深夜の親父さんに会うため、一同は森の中を進んでいた。
そして、深夜の家に置いてあったゴツイ乗り物に揺られながらエアと深夜は会話に夢中だった。
「じゃあ、これはなにをする道具?」
そう言いエアが深夜からもらったポーチから取り出したのは百均で買ったライターだ。
深夜はとにかく使えそうな道具は一通りそろえてある。
「あぁ、それは火をつける道具だよ。 ほら、ここを押すと火が出る」
そう言い、実際に火を出してみる深夜。
「へぇ~、スゴイね。 私の世界では火付け石だったわ」
「火付け石? やっぱり人力で火をつけるのか……」
「ううん、魔法よ。 火付け石は魔力を宿した石で、木につけると自然発火するものよ」
「へぇ~、魔法って便利だなぁ」
「フフッ、私といると便利なことだらけよ」
後部座席で笑いあっている二人を横目に運転中の太一は車に乗ってから何度目かの深い溜め息をついた。
なぜ、太一が運転しているかというと最初に運転していた深夜があまりにも危なっかしい運転をするので操作方法だけ教えてもらい、後部座席に引っ込んでもらった。
太一は上手いモノでもの10分もしないウチにすっかりコツを掴んでしまい、今後の運転者の位置が決まった。
「オイ、深夜。 こっちであってるのか?」
「うん? あぁ、合ってるぞ。 まぁ、ナビ通りに行けば着くさ」
こんな車にナビなんぞついてるのかと疑問に思うかもしれないがこの車は中身がかなり改造されており。 シートはスゴイ座り心地がいいわ、空調設備はしっかりしていて暖かいわで装甲車とは思えない乗り心地だ。
外見もハンヴィーじゃ目立つだろうということでエアの擬態魔法によりアメリカ車にかわっている。
大して変わっていないじゃないか!という俺の意見は全く採用されず、深夜の好みのアメ車になった。
「お前、この道ホントに合ってんだろうな?」
さっきから変わらず森の中の未舗装の道を走っているが対向車に一度も出会わない。
「合ってるって。 この道自体が入り口みたいなモンだからヒトがいなくても別に驚かないさ」
深夜ほどではないが常人に比べて目がいい俺にはさっきから生気が感じられない立ちすくんだヒトをちょくちょく見かけるのだが、あえて声には出さない。多分霊的なモノだと思う。
深夜は当然気付いているだろうから、言わないのには理由があるのだろう。
「ホントにヒトがいないな。 深夜は見かけたかい?」
さりげなく聞いてみると深夜はエアを一瞥してから微かに首を振りながら応えた。
「いいや、俺はヒトは見てないな。 鳥とかならけっこういるけど」
そう言って、明後日の方向を見る。
俺は釣られたようにその方角を見たら、ホントにいた。
「ホントにけっこういるな……」
気配を探るのが長けている深夜は俺よりも多く見つけたのかもしれない。
ここであえて言わないのはエアを心配させないためだろう。
「どこに鳥がいるの?」
無邪気に聞いてくるエアに深夜は首を振って応えた。
「もう、飛んでいったよ」
「なんだ、残念」
前に視線を移したエアが驚きの声を発した。
「ま、前っ! ヒトがっ!」
俺と深夜は光の速さで前を向き、その人物を確かめた。
明らかに軍装をしているライフルを持った厳ついカンジのヒトだ。
「止まれ、太一! 轢くなよっ!」
言うが早いが深夜は何も持たずに車の外に飛び出した。
「轢くなよって、お前をかよ」
軽くツッコミを入れたが当然本人は聞いていない。
後部座席にある機関銃を取ろうとしたら、そこで心配そうな顔をしたエアと目があった
「深夜、大丈夫よね?」
張り詰めた声音で聞かれたが思わず噴き出した。
恐い目つきで睨まれながら俺は弁解した。
「大丈夫、大丈夫。 アイツは車で轢かれようと銃で撃たれようと死なないから。 そもそも、当たんないし」
妙に実感が篭った声で言ったせいか、訝しげな表情になったが最後は安心したのかとても綺麗な笑顔になった。
「わかった。 深夜を信じて待つわ」
可愛いヤツだな。深夜がコイツに惚れたのもわかる気がするな。
俺は場違いにもそんなことを考え、深夜のほうに目を向けた。
頑張れよ、親友。 強さを見せ付けるいいチャンスだぞ。
すでに戦いになると悟った太一である。
心配そうなエアとどこか達観したような太一をハンヴィーに乗せたまま、深夜は自分の運のなさに嘆いていた。
飛び出してきたのはいいものの、全く武器を持っていない。
いつものように懐には拳銃がしまってあるのだが、さっきエアに見せていたときに危ないからと弾倉を抜いておいたのをすっかり忘れていた。
「……なんでいつも素手になるかな。 またもや、銃相手に……」
怯えた声というより、悩ましげな声で呟いた。
「しかも、また短気そうなヒトだし」
これはただの愚痴である。
「俺ぁ、全くツイてない!!」
全然隠す気もない音量で呟いてたので相手に丸聞こえだったらしい。
「オイ!! そこの美男子野郎! へらへらしてないで早く武器を捨てろ! 頭撃ち抜かれたいのか!」
肩を震わせながら怒りを露にしてる傭兵を一瞥し、銃を下に置いた。
「はい、捨てたよ。 じゃあ、通してもらうから」
銃を置いたので通してもらおうとしたのだが傭兵に止められた。
「オイ! 勝手に入ってくるんじゃねぇ! バカか、お前は!?」
「バカだろ、アイツ……。 そんなんで通してもらえる訳ないだろ!」
俺をバカ呼ばわりした傭兵と親友に一睨みくれてから両手を上げた。
「じゃあ、どうしたら通してもらえる?」
素直に聞いてみたが後ろをハンヴィーからどこか諦めたような溜め息が二つ聞こえてきた。
対する傭兵は口をぽかんと開けてる。
「はっ、通すわけねーだろ! 素性もしれないヤツを入れるバカはいねぇ!」
いちいち怒鳴りながら言う傭兵に俺は苦情を投げかけた。
「いちいち怒鳴らなくても聞こえてる。 もう少し静かにしてくれないか」
語尾がお願いではなく、命令になったように聞こえたのは深夜一人だけだった。
つまり、傭兵の怒りを買った。
「て、テメェ!! さっきから調子に乗りやがって! ぶっ殺してやる!」
いきなり銃を撃とうとする傭兵の前に俺は踊り出た。
「遅い! 遅すぎるぞっ!」
「なっ、バカな……」
その言葉を最後に深夜のボディブローと投げ技をくらった傭兵は地面に潰えた。
その傭兵の手からライフルをひったくりつつ後ろにいる二人に声をかけた。
「おーい、早く先に進もうぜ。 もう少しで日も暮れるし」
傾いた日を見ながら、俺は二人に言った。
「全く、もう少し穏便にはできないのかよ」
「うん? 面倒だからイヤだな」
呆れた視線で見られたが瞬時に俺の後ろに視線を向け、驚いたように目を見張りエアを横抱きにしてその場から飛び退った。
その間に俺も背後に気配を感じ無我夢中で横っ飛びに避ける。
ヒュン!
空を切る音が耳元でしたがそのまま太一のほうへ跳躍する。
太一はどこに持っていたのか俺の日本刀とグロックを持っており、背中には機関銃のM249を背負っている。
「深夜、はい、コレ」
日本刀とグロックを投げて寄越した太一はすぐに機関銃を撃てるように構えた。
「ありがと、さてとだれだお前は」
いつもの戦闘のときのように殺気が含まれている声であらたな登場者を見た。
全身黒づくめの格好に手には柄に宝玉が埋め込まれた両刃の剣が握られていて、顔には怪盗2○面相のマスクなど被っている。
「ちょっと、待てよ。 その剣なんだか見覚えが……」
「フッ、遅い」
そう言い残し眼前の黒づくめは視界から消えた。
いや、消えたように見えたのは錯覚で物凄いスピードで走りこんできていた。
「クソッ…!」
なんとか剣の軌道を読み、それを迎え撃とうと下から剣を振り抜いた。
「なかなか、いい線だが……ハズレだ」
喉元に剣を突き立てられ、耳元で囁かれた。
「気持ち悪いから、耳元で囁くなっ!」
そう言って、密着していた身体を引き離し突き飛ばした。 本気で。
「痛っ! なにするんだよ、深夜!」
黒づくめは怒ったように声をあげ、マスクを取った。
その姿を見て、後ろの二人が息を飲む。
黒づくめは深夜よりも整った顔立ちで、背中の真ん中あたりまでの長い黒髪を黒い小さなリボンで纏めている。
それに天使のような微笑を浮かべて、優しそうな顔をしている。
「お前の親父さんか、深夜」
「そうだよ。 確定口調なのが恐いな」
「だって、そっくりじゃねぇか。 それに親父さんのほうが美形だな」
「密かに気にしてるコトをサラッと言ってくれやがって……」
キッパリとした口調の太一に対し、いささか残念そうな声の深夜である。
「深夜のトコは家族揃って美形なの?」
どこか感心したような声でエアが言った。
「あぁ、そうだよ。 だから、目立ちたくないんだ」
そして、疲れたような声で深夜。
「親父さん年いくつ?」
完全に興味本位で太一。
「今年で40だと思う」
「ん? 君たちは深夜のお友達かな?」
実に軽い若々しい声で親父。
「はい、そうです。 このたびはお願い事がありまして、伺いました」
慇懃な態度で太一が言うと親父が遮って、自分の胸を指した。
その行為の意図するとこを察したのか太一が再び口を開く。
「すいません、名乗りもせずに。 私の名前は藤崎 太一です」
「わ、私はエレノア。 異邦人です」
エアの異邦人発言に少し目を丸くした親父だが気にせずに続ける。
「俺の名前は冬 一夜だ。 息子がいつも世話になっている」
太一やエアは目を見開いて、一夜を凝視した。
そして、視線が俺へと泳いだ。
そんなことを3度ほど繰り返した後、二人同時に声を発した。
「「ホントに深夜の父親? 態度が似ても似つかないような……」」
「失敬だな! ただ、年取っただけだろ!」
「む!失礼だよ、君ぃ~。 実の父親に向かって何を言うんだね!」
不思議そうに俺を見つめるエアと太一に返しを入れたがそのあとに親父がいつもの口調で反論した。
「言うんだねじゃないわ! その口調やめろっていつも言ってるだろ! 軽薄に見えるわ!」
日ごろの鬱憤と常々思っている不快点を口に出した。
「はいはい、分かったよ。 さぁて、そういえば何でココに来たのかな? 深夜はあまりココを好きじゃないと思っていたけど」
口調は変わらないが目つきが鋭くなった親父に対し、肩を竦めながら俺はエアを横目で見ながら言った。
「確かに、ココは好きじゃないが……そうも言ってられない状況でな。 今朝に彼女と知り合ったんだが銃を持ったそーゆう類のヒトに追いかけられていたんだ。 そこを助けた」
「わかった。 そうか、それで異邦人なのか……。 あぁ、イヤこっちの話」
途中で遮ったくせに自分の世界に入った親父に睨みを利かせ説明をするように視線で訴えた。
「そう恐い目で見るなって。 異邦人とかいうヤツらのことだがな、俺らのトコにも依頼が何件か来ている。 一つは保護してくれたら、そのたびに報酬をくれるってヤツ。 もう片方は前払いでいくらか渡して、捕まえてきたら追加報酬を貰えるってヤツ」
そこで一瞬エアをチラリと見てから親父は続けた。
「俺たち傭兵ギルドは前者を選んだ。 既に何人か保護しているが、後者の依頼人はそいつらを渡せと言って来やがる。 武力行使も厭わないとな」
そして、倒れた門番の傭兵を見て溜め息を吐いた。
「だから、こうして門番を立てたんだがなぁ。 まさか、Aクラスをこうまであっさり倒されるとはなぁ」
「それはすまなかった。 こっちも急いでたからな。 ハンヴィーで突っ込まれるよりマシだろ?」
落胆した親父を尻目にやりかねなかったコトをあっさりと告げる俺。
「普通、車で突っ込むヤツがいるかよ……」
「自分が一番普通じゃないだろ!」
バケモノ親父が普通を盾に出してきたのでそれを瞬時に砕く。
そして、親父があらぬ方向を見て呟いた。
「あらら、けっこう早いのね~」
「ん? なにがだ?」
「いやぁ~、こっちの話」
不思議そうに顔を傾げた俺を相手にせず、親父は勝手にハンヴィーに乗り込む。 イヤ、親父の車だから勝手にじゃないけど。
「おい、なにを呆けているんだ? 早く乗れ。 本部に移動するぞ」
無言で乗り込んだ俺とこの会話中、目を白黒させていたエアと太一が乗り込み一夜が能天気な声で告げた。
「それでは、桃源郷へとご招待ぃ~」
「バカやってないで早く車を出せっ!」
ふざけた言葉に速攻でツッコミを入れる深夜。
読んでいただきありがとうございます。
最強傭兵親父どうでしょうか?
強さと見た目のあまりのギャップに戸惑うエアと太一ですが一番戸惑っているのはなにを隠そうこの私。
キャラを考えたときから「これでいいのか?」と思わず首を傾げた私ですが、そのまま使いました。
キャラ的にはけっこう好きなので。
次回の彼らの活躍に乞うご期待!
では、また会う日まで