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女神のために  作者: 花咲 匠
私を助けて
4/31

第2話 作戦会議

第3話目です。

深夜の親友 太一君が本格的に登場です。

これからの活躍楽しみですね。

 波乱万丈な入学式が終わり、太一はやっと深夜への家路に着いた。

入学式自体は比較的早くに終わったのだがその後が面倒だった。

 警察に適当なウソを吐いて、深夜はもう既に家に帰ったと学校と警察に説明した。

 あまりに適当に考えたのでもうほとんど覚えてないが親友を守ることはできたと思う。


 「まさか、同類(なかま)が現れるとはな……」


 一人になってから何度か目の独白を漏らしたが、周囲にそれを聞いてるヒトはいない。

 エアや深夜が聞いたら大変なことになるだろうが、太一はそんなヘマはしない。 自分の正体を明かすのは他の仲間が見つかってからでもよかろうと思っている。

 かつては自分にも仲間がいて、いろいろと支援をしてくれたのだがある時期を境に連絡が取れなくなった。

 今日の襲撃事件があり、ようやく気付いたが仲間はどこかに攫われた。 もしくは既に殺されているかもしれない。

 自分がこれまで狙われなかったのは疑問に思うが、それは考えないようにする。 考えるだけ無駄というものだ。


 そして、そうこうしてるうちに深夜の家に着いた。

 もう、何回も来てるので早速家の門を開けた。

 鍵の隠し場所であるハンヴィーのバンパーの下から鍵を取り、玄関を開けた。


 「……なんだ、お前か」


 片手にグロックを持ち、もう片方の手にクッキーという異様な格好で深夜は出迎えてくれた。


 「なんだとは、ご挨拶だな。 アンタのために俺は面倒な応答をしたっていうのに」


 深夜は未だに髪を上げたままの顔で悪戯っぽく笑うとクッキーを差し出した。


 「せめてもの、お礼だ」


 「……他にもお礼はあるんだよな?」


 「あと、100枚はクッキーが残ってるぞ」


 俺は深く溜め息をつくとそのまま深夜の家に上がった。

 



 太一をエアに紹介するため先にリビングに向かった俺は、入った途端にエアにベレッタを突きつけられた。


 「こ、この裏切り者っ! 私を助けるフリをして味方を呼ぶなんて卑怯じゃない! いいヒトだと思ったのに!」


 エアが興奮した様子で、今にもベレッタをぶっ放しそうな勢いで言われ流石の深夜も少々仰け反った。


 「何を勘違いしてるが知らんがコイツは……」


 俺の味方だぞと言おうとしたところでグロックを構えた太一が踊りこんできた。


 「オイ、深夜ァ!! こいつを助けたんじゃないのか!?」


 正確にエアの眉間を狙いつつ太一が叫んだ。


 「太一ぃ!? ややこしいことしてくれるな、お前! 二人とも銃を下ろせ、誤解だよっ!」


 胡散臭そうな目つきをした友人と美少女に睨まれたが必死に説得を試みた。


 「なんだ、その目は……。 じゃなくて、味方同士だぞっ俺たちは! エア、コイツは太一って言って俺の親友兼弟子だ。 強いから助っ人として俺が呼んだんだ。 学校でも会っただろ、短い間だったが」


 エアの瞳をしっかりと見据えながら、辛抱強く待っていると、30秒ほどしてからようやくエアが銃を下ろした。


 「ごめんなさい。 私ったら早とちりしちゃって」


 「いや、言わなかった俺も悪いしな。 お互い様だ」


 そう言って、エアの手から優しくベレッタを受け取る。 そして、手を包んだまま囁いた。


 「俺は一度決めたことはどんなことでも必ずやりぬく。 お前を助けた時点でこれからの方針は決まっている。 とりあえずエアを守り抜こう」


 顔を朱に染めたエアを見て深夜は可愛い子は何をしても可愛いモンだと素直に思った。


 「オイ、すっかり俺の存在を忘れてるようだがそういうことは二人きりでやったらどうだ? それに、いつの間にそんな仲良くなったんだよ。 まだ知り合ってから半日だろ?」


 ニヤニヤと笑いながら言う太一。


 「あ、そうか。 俺が退散すればいいんだな、そういえば。 頑張れよ、深夜」


 さらに追撃をくれた太一。 


 「な、何を言ってるんだ、お前はっ! 違うからなっ!」


 俺はそう言って、エアの手を離した。


 「あぁっ……」


 なにやら、エアの残念そうな声が聞こえたがキッパリと無視する。 これ以上は流石にヤバイ。


 「ま、それはそうとして作戦会議でも始めますか。 俺にも銃をくれよ、深夜」


 高校生が言うようなセリフじゃなく物騒な言葉が飛び交っているがそれを指摘するヒトは少なくともここにはいない。

 



 「この世界の人間じゃない……ねぇ。 とんでもないヤツを助けたな、深夜」

 

 エアの事情を話した太一の第一声である。 言葉とは裏腹にやけに楽しそうな声音だったがそういう危険に突っ込んでいくようなヤツなのでいちいち指摘しない。

 隣でおとなしくしていたエアは目を見開いて驚いてるような顔をしている。


 「深夜の友達って、変わってるのね……」


 思わず、頷きそうになったがよく考えると自分のほうが変わっていると感じたので特に何も言わずにおく。


 「褒め言葉と受け取っておこう、エレノアお嬢」


 表情を変えずに太一はそう言った。 

 なぜか、俺のほうにウインクなどしてきたが。


 「お、お嬢って……」


 太一の言葉に頬を染めながらも特に否定はしないエアである。 自分を含め俺の周囲は変わっていると再確認する。


 「さてと、これからの方針だが俺にいい案がある」


 心配するような目つきのエア(さっきの作戦が受け入れられるかどうかによるもの)と胡散臭そうな目つきの太一の視線を浴びて、俺は宣言する。


 「名付けて、他の異邦人を探して助けてもらおうじゃないか大作戦!!」




 太一がこの作戦の説明を受けたときに抱いた感情は驚きである。

 いつもは理詰めでコトを構える親友がいるかどうかもわからない他の異邦人をアテにしているという点だ。

 自分も異邦人だが他の仲間は音信不通なので状況は深夜たちとたいして変わらないのだが、それでもこっちのほうが情報量は多い。

 仲間に口止めされているのでいくら深夜相手にでも情報は漏らさないつもりだ、仮に漏らしたとしても意味が伝わらないハズだからだ。

 それなら、余計な情報を与えて深夜の身を危険にさらすより得策だと考えたこともある。


 「深夜がいるかどうかもわからないヤツをアテにするなんてな……」


 聞こえるかどうかぐらいの小声でそう呟いたが深夜は聞きなおすこともなく、そのまま話しかけてきた。


 「イヤ、それなんだが興味深い話があってな」


 首を傾げた俺と深夜がいきなり話し出したと思ったエアが同じく首を傾げた。


 「興味深い話ってなんだ?」


 「俺の親父から聞いた話なんだが、不可思議なモノだからどれだけ信用できるかわからないが……」


 そう前置きを置いて深夜は刹那の間、迷う素振りを見せたが何事もなかったかのように平静と話し出した。


 「俺の親父が傭兵稼業をしているのは知ってるよな? 

俺が生まれる前の話だがな、その親父がある日、戦場で一人の不思議な女性に出会ったというモノだ。

 親父はその日の朝、オーナー(雇い主)に妙な依頼を受けた。 内容は今日は戦場に出なくていいからある場所を一日中見張っていてくれというものだったらしい。

 その依頼を受けた親父は当然のごとく疑問に思った。 契約内容には入ってないから無視することもできたが、本来の報酬と同額の金額を追加すると言われ渋々了解した。

 そのときから既にかなりの実力者(というか、戦車の一個中隊を機関銃一丁で全滅させるバケモノ)だった親父は自分が抜けた穴はどう維持するのかと危惧していたがちょうど新たな名の通った傭兵が穴を埋めるというのでそれも了承した理由の一つだと言っていた。

 親父は依頼どうりにある場所を見張っていたが昼過ぎになり、やがて日が傾くまで変わったことは何も起きなかった。 そろそろ夕暮れだというところで親父は拠点に帰ろうとした。 近くは味方の占領地帯だが敵がいないとも限らないから日のあるうちに拠点に帰ろうと自分が乗ってきたジープに足を向けたとき、得体の知れない感覚が自分を襲ったそうだ。

 あのときの親父の顔は過去を思い出すような目をしていたがその奥には明らかに恐怖が宿っていた。

 そして、親父は恐怖を隠さずに凄惨に笑いながらまた、語り始めた。

 『俺の持つ戦士としての勘があのときは全く役に立たなかった。 何度も死線をくぐってきた俺がなにを見るでもなく動けなくなった。 強者と対峙した訳でもなく、ただその場にいただけで身体が凍りついた』

 そういった時の親父はいつもの自信がウソのように消えていて、世界最高クラスの傭兵の癖にひどくちっぽけに見えたもんさ。

 だが、親父はいつも不敵な笑みを浮かべこう続けた。

 『フフッ、そんな恐がるな。 まだこの話には続きがあってな。 動けなくなった俺だが、1分ほど経ちその感覚が消えて、かわりに新たな気配を背中のほうに感じた。 さっきまで見張っていたからそんなにすぐ誰かが現れるとは思わなかったが俺は腰の銃をためらいもなく抜き、その気配の主に照準した。

 すると、そこにいたのはなんと女の子だった。 俺を動けなくした感覚は微塵も感じられない。 おかしな話だろう?』

 そう言って親父は豪快に笑った。 俺がその先を催促すると珍しく頬を朱に染めた親父が恥ずかしそうに続けた。

 『しかも、その女の子スゴイきれいでなぁ。 この俺とタメを張るくらいだぞ。 まぁ、そうせっつくなって。 それで俺はその娘と一緒に依頼主のトコまで戻って、その依頼主はなぜか震えながら俺に報酬を渡してこれでもう帰っていいぞって言いやがった。

 俺も金は貰えたからそのままニホンに帰ってきたよ。 勿論、その娘も一緒に。 え、何で今はいないかって? アイツは元の世界に帰ったよ。 俺は引き止めるよりも手助けをする方を選んじまったからなぁ』

 確か、俺はそのとき意味がわからないと言い、話を切り上げようとしたんだが親父に止められて驚愕の事実を知らされた。

 『オイオイ、せっかくお前の母親の話をしてるのにドコへ行くんだ。 お前はっ!』

 俺は物心ついたときから既に母親はいなかったからもう死んだモノだと思ったんだが、どうやら違うらしくてな。

 ハハハっ! 不思議な話だろう?」


 そう締めくくったが二対のジト目が俺に向けられた。


 「…………オイ、なんだその目は?」


 不機嫌極まりない声で深夜は言ったが、当然の如く呆れ声が返ってきた。


 「深夜って、意外と抜けてるのね……」


 「なぜ、そんな話を聞いていて他の異邦人がいないと思うんだ? 確実にいるだろっ! ていうか、アンタの母親は異邦人だったのか!?」


 たっぷり5秒ほど固まってから俺は応えた。 なぜなら、今までその事実を目の前にエアという存在が来るまですっかり忘れていたのだ。


 「…………なぜ、俺は忘れていたんだ?」


 その声は呟く程度の小さい声だったが強い意思が隠れていた。

だが、深夜のものとは思えないほど低く冷え切った声で、深夜を知るものからは想像もつかないような声だった。

 それに、自分でも驚いていたくらいだ。


 「オイ、難しい顔してどうした深夜?」


 目敏く、俺の微かな変化に気付いた太一が声を掛けてきたが心配をさせたくないのでなんでもないという風に首を振った。


 「いいや、なんでもないさ。 そういえば思い出したコトがあってな」


 「ん? なんだ、それは」


 俺は太一を部屋の隅まで引っ張り、エアに聞こえないように耳打ちした。


 「俺の家に女性用の服が一着もなくてだな。 俺の服をエアに貸したんだが、ちょっとアブナクないか? いろんな意味で」


 そう言いきると太一はエアのほうを見て渋い顔になりながら、言った。


 「仮にも追われる身だということを忘れてないか? あんな服じゃそこらの男共は全員寄って来るぞ」


 あんな服というのも着ているのは深夜が持っているTシャツとジーンズ(深夜はシャツとジーンズしか持っていない)で一見地味に見えるが、女の子特有の体つきとスタイルが抜群のエアが着ると恐ろしく破壊力を持つ。


 「…………上にジャケットでも羽織れば大丈夫じゃないか?」


 苦肉の策といったカンジで言った深夜。


 「どこぞのモデルみたいになるぞ」


 にべもなく拒否する太一。

 二人揃って同時に溜め息を吐き、エアのほうを見た。

 見事に同時に鏡のように動いた二人を見てエアが若干身を引いたがすぐに訝しげな表情に変わった。


 「何よ、二人ともどこか諦めたような顔して」


 「「……諦めるしかないよな、やっぱり……」」


 二人全く同時に声を発し、全く同時に溜め息をついた。


 「君たち、なんだかヘンよ? 頭でも打ったの?」


 「自覚してないトコロがまた恐いっ!」

 「どこぞのモデルよりタチが悪いな」


 益々、怪しげな顔になったエアに対し二人は悪態をついた。

 エアは訝しげな顔から取って代わり険しい顔になったが、危機を察した俺が素直に打ち明けた。


 「イヤイヤ、エアが可愛すぎてどうしようかっていう話だよ」


 隣の太一を見たら、いつもみたく囃し立てるのではなく真剣に頷いていた。

 エアの危険度を察したのかもしれない。


 「そうそう、深夜の言う通り」


 「エアが可愛すぎてどうしようかっていう話だよ」


 肯定した太一と、さっきと同じ言葉を繰り返す深夜。

 二人の男に(しかも、片方は超美少年)に揃って可愛いと言われ一気に顔を赤くするエア。


 「え、えーと。 なんか誤解してたようでゴメンなさい」


 「いやぁ、君が謝るようなコトじゃないさ。 しっかし、どうしようかなぁ」


 「……………………」


 赤くなりながら謝るエアと照れながら言葉を発する深夜に温かい視線を送る太一。


 「それで、これからどうするんだ?」


 太一が俺に言ってきたのでさっき思いついたあまり使いたくない策を打ち明ける。


 「気乗りはしないが、親父に相談してみようと思う」


 「親父さんはニホンにいるのか?」


 「……あぁ、確か事務所にいると思う」


 「…………?」


 なぜか妙な間を空けた深夜を不審そうに見つめる太一。

 そのまま、根気強く見つめられ続けたので遂に俺が折れた。


 「その……なんだ」


 そこで頭をかきながら肩をすくめた。


 「事務所ってのは富士樹海の中にあるんだ。 しかも、樹海の地下がニホンにいる傭兵達の根城になってる」


 「へぇ?」


 極秘事項なので漏らしてはマズイのだが事情が事情なので本部も納得するだろう……多分。 納得してくれなければ俺が処刑されてエアと太一の記憶を奪うだけで済むハズだ。

 それだけのリスクを犯す価値はある。

 あそこにはこの国のありとあらゆる情報が集まっているのだ。

 他の異邦人の居場所、ひょっとしたら異邦人の集会所みたいなモノもあるかもしれない。

それに、もしかしたら親父が味方になりそうなヤツを雇ってくれるかもしれない。


 「じゃあ、行きますか。 表にハンヴィーがあるからそれで行こう」


 安心させるように笑いかけ、表へと促した。


 「高校1年が免許なしで車を運転しようってのに、緊張感がないな。 検問に捕まるかもしれないのに」


 太一がぼやいたが気にせずに軽く言う。


「大丈夫だって。 いざという時は突破するから安心してくれ。 そのための装甲車だからな」


 「…………俺が言いたいのはそーゆうコトじゃないんだけどな。 そもそも常識がないのか?」


 呆れた顔をした太一に説教されそうなので話を切り上げた。


 「あー、もういいから。 事故ったことないし大丈夫だって!」


 「ホントかよ……」


 訝しげにしながら用意を始めた太一は放っておき、エアに声をかけた。


 「エアも準備してくれ。 荷物はこのバッグに入れてくれ」


 そう言い、ウエストポーチを投げて渡した。

 元もとの荷物が全くないエアには大きなバッグはいらないので弾倉が入るくらいの小型のポーチだ。


 「うん、ありがと」


 「いいってことよ」


 可愛らしく微笑んだエアにどぎまぎしながら目を逸らした。

 その先には太一がいたが俺は全く気にせず、窓の外を見た。


 「荒れそうだな」


 落ち着いた声で太一が口を開き、そのまま窓の外の雲を凝視していた。


 「あぁ、そうだな」


 俺は短く返し、同じく窓の外を見た。


 外は雲が渦巻いており、今にも嵐が来そうなくらい黒い雲が空を支配していた。

まるで、それはこれからの未来を暗示しているかのようだった。


読んでいただきありがとうございます。

でこぼこトリオの今後の活躍に乞うご期待!

では、また会う日まで。

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