第1話 二人の出会い
投稿2話目です。
1話目も読んでくださった方々ありがとうございます。
片手にハンドガンのベレッタを持ち少女は敵から逃げていた。
その少女は、カールのかかった金髪に碧眼そしてゴスロリのドレスというとても目立つ容姿をしている。
しかも、追い打ちとばかりに、そこらのアイドルが裸足で逃げ出すほどの見目麗しいルックスとスタイルも併せ持っている。
だが、今はそれが仇となり、その目立つ容姿で敵に自分の居場所を知らせているようなものである。
その少女は入り組んだ町を右へ左へと逃げ回っているが、敵が多くいるので振り切れずにいる。
本気になれば、彼女を追い回している敵共を葬り去ることもできるが、今それを使うと周りにいる一般庶民まで犠牲にしてしまうので躊躇っていた。
このチカラをつかうのは本当に追い詰められてからでもよかろうと。
逃げ回っているうちに大きな建物が見えてきて中から拍手などが聞こえている。
ここに逃げ込めば中のヤツらがパニックを起こして時間稼ぎになるだろうと考え、柵を飛び越え見事に着地した。
「クソっ! はやくアイツを捕まえろ!」
後ろに敵のおそらく隊長であろうヤツが部下に対して愚痴めいた指示をだした。
「わたしの名前はアイツじゃなくてエレノアよっ!」
少女はどうでもいいことを訂正し全速力で駆けていった。
そして、すぐに追手たちの視界から消え去る。
「クソっ! なんて速さだ!」
敵はそう喚いたが、生憎エレノアはすでに建物のなかに消えたあとだった。
「…………ここまでくれば流石に大丈夫よね」
そう言って銃の構えを解く。
銃の構えを解くと言っても、ここにくる途中で敵から奪った武器を見様見真似で使っていたので勝手がよくわからないのだが。
そんなことを考えつつ、大勢のヒトがいる広間の方へと足を向けた。
しかし、そんなエレノアの運命を変える出来事がおこるとは本人はまったく知る由もない。
もう少しで入り口だと思った時、柱の影からひとりの大男が飛び出してきた。
その恰好から追手の仲間だと見抜いたエレノアだったが、声を上げる暇もなく、両腕を男の左手で拘束される。
そのはずみで持っていたベレッタが明後日の方向に飛んでいき、さらに右手で口を塞がれてしまった。
喚こうにも口が塞がっているし、両腕がとんでもない握力で掴まれているので抵抗もできない。
それにその男は口に嫌な笑いを浮かべており、こちらを見る目がいやらしい。
心の底からゾッとしたエレノアは誰とも知れず助けを求めた。
(……誰か、助けて……!!)
声に出たわけではないがその瞬間、広間のほうから髪の長い美少年が飛び出してきて、エレノアを捕まえていた男に問答無用で飛び蹴りを喰らわせた。
いきなりの出来事に驚いた男は口を塞いでいた方の右手を離し、飛び蹴りを受け止めた。
そして、手が離れた瞬間に私は助けを求めた。
「助けてっ! 襲われてるの!」
「見ればわかる。 少し、静かにしていてくれ」
言葉は無愛想だが、私を見て優しそうな微笑をみせてから厳しい顔つきで私の後ろにいる男を見た。
「オイ、男。 何をしているんだ?」
殺気の篭った声でそう問い、次の反応を静かに待つ少年。
「貴様に応える義理はない。だが、我が主の命だということだけは教えてやろう」
感情の感じられない声で後ろの男がそう言い、冷たい言葉を続けた。
「もっとも、貴様はここで死ぬのだがな」
私はこの目の前の少年に助けを求めたことを後悔した。
私のせいでこのヒトが死ぬことになると思ったからだ。
「俺はこんなとこでは死なないし、死ぬ気は微塵もないぞ」
さっきとは違い、幾分優しそうな声音で少年は言った。
「そのような戯言が遺言でいいのか?」
そう言い男は懐から、見る人が見ればよく訓練されている動きで拳銃を出した。
リボルバー型のチーフスペシャルと呼ばれる銃だ。
「5発しか入らない銃で俺を殺せるとも? そう、思っているのか貴様は?」
そんな銃を一瞥した少年は、正体を見抜き、その銃の短所である装弾数の少なさを指摘しながら、まったく動じない様子でそう言い、肩をすくめて続けた。
「ま、武器に頼ることしかできないヤツが考えそうなことだ」
明らかに自分よりも弱いであろう少年の傲岸不遜な言葉に男はイラついてきたようで、イラつきを隠すでもなく言う。
「減らず口もたいがいにしろよ、小僧。 すぐにその口をきけないようにしてやる」
男の言葉に明確に殺気が篭り、銃を構えた。
それを見た少年はまたしても肩をすくめ、なにを思ったのか目にかかるほどの長い髪を手首にしてあったヘアゴムで後ろに一括りにした。
私はその少年の顔をみて、唖然とした。
なんせ、眼前にいるのは自分とも張り合うほどの美少年なのだ。
いままでの傲慢なようすが幻覚でもみたのかと思うほどである。
男のほうも唖然としていたがすぐに顔を引き締め、銃を躊躇いもなく発砲した。
「あっ…………!!」
エアは銃弾が発射されたときに後悔が滲む声音で声を上げた。
だが、その少年は銃を撃つ寸前に自分が着ていたブレザーを脱ぎ、投げて自分との間に壁を作った。
銃弾はブレザーを突き抜けたが少年には当たらずに後ろの柱に穴を穿っただけで終わる。
男は立て続けにブレザーの向こうにいるであろう少年に撃ち続けたが全て後ろの柱に当たり、先ほどと同様に穴を穿つだけで終わった。
ボロボロになったブレザーが下に落ちると、その向こうに少年の姿は無く、変わりに左から声が聞こえた。
「弱い、弱すぎるぞっ!」
その声に驚愕した男は私を盾にして、また銃を構えなおした。
そのときに着ていたドレスが盛大に破れたが男は眼前の少年を驚愕と恐怖で彩られた顔で見つめており、幸いにも破れた部分は見られなかった。
不埒にもそんなことを考えていたが、少年の顔には不敵な笑みが浮かんでおり、心配は無用だと思ったせいもある。
男が銃の引き金を引いたが発砲音はせず、そのかわりに金属同士を打ち鳴らす音が響いた。
「だから言っただろう? 5発では俺は殺せないと。 もっとも、貴様が相手なら例え千発撃とうと殺せはしなかったと思うがな」
傲慢な発言をした少年は、まだ顔が驚愕と恐怖で彩られている男の顔面に霞むような速度で拳を入れた。
男が昏倒して手が離れ、倒れかけたところを例の少年が優しく、そっと支えてくれる。
「大丈夫か? 怪我は?」
さっきまでの殺気が嘘のように消えている、そのやさしさに溢れる声音に私は噴き出しかけた。
いや、実際は微かに笑っていたが。
「大丈夫よ。あなた、すごく強いわね。元の世界でもあれほどの実力者はそんなにいなかったわよ」
素直に感心を含めたエレノアの声に、少年はなぜか渋い顔をしていたが、途中で私から目を逸らした。
「俺の名前は深夜。 冬 深夜だ。 よろしく。 君とはこの場限りの縁で終わる気がしないな」
なにか妙なことを言うヒトだなぁ、と思ったがこの言葉に引っかかりを感じ、エレノアは特に聞き返さなかった。
「私の名はエレノア。 エアって呼んでちょうだい、深夜」
いつもなら男のヒトが赤面して目を逸らすような魅力的な笑みを見せるエアだが、さすがに深夜はそうはならず逆にこっちがドキッとするような笑みをみせた。
「わかった、エア。 それとさ、はい。これ」
深夜は自分のワイシャツを脱ぎ、こっちに投げて寄越した。
会ったばっかりでこんな大胆な真似するの!?と肝を冷やしたがどうやら違うらしい。
なぜ、シャツを寄越したのか疑問だったが自分の姿を見て悲鳴を上げそうになった。
つまり、ドレスがはだけて豪快に身体の前部分が見えていた。
悲鳴をあげる前に深夜に口を塞がれ大声は出さなかったが、シャツを光の速さで着た。
「なんで、いままで黙ってたのよ」
言葉を発した自分でもビックリするほど怨ずるような声音で言った。
そんなエアの言葉に、深夜はタジタジとなって話し出す。
「い、いやぁ~。 ハハハ、役得かって思ってさ~、なんちゃって」
軽い調子で、乾いた笑みを返す深夜。
そんな深夜をすごい眼力で睨み返し、相手を震え上がらせた。
まったく、このヒトって……!
おぉ、まさか助けたのに睨まれるとは……。 俺ぁ、まったくツイてない!!
深夜は胸中で密かにショックを受けていた。
どう、話を続けようかと迷っていると体育館のほうから足音が一つ近づいてきた。
気配が全くないので誰かと思ったが親友の太一で、俺たちを見るなりいきなり告げた。
「お前ら、二人で早く逃げろ。 俺が適当にウソを吐いておくから、さっさとしろ。 あと5分もすれば他も奴らも気付いて近寄ってくるぞ」
この親友は倒れた男と俺たちの現状を見て、一瞬で把握したらしい。
相変わらずやけに鋭い男である。
「ありがとう、太一。 恩に着る」
親友に軽く低頭し、短く言葉を続けた。
「これが終わったら俺の家に来い。 ご馳走するぜ」
俺はニヤッと笑って親友を安心させた。
もっとも、その笑顔を見た相手は居心地が悪そうな顔をしていたが。
「お前がその笑顔を見せるたびに俺は災難に見舞われてる気がするんだが、気のせいか?」
「ハハハ、そういうな親友。 そういえば、さっきのも上手い演技だったぜ」
俺は笑いながら上機嫌でわざと狼狽した様子を見せた親友をほめた。
「ありがとよ。 それはそうと、髪を上げたお前が美少女とそんなにくっついてると誤解されるぞ、確実に」
親友の言葉を聞いて俺は一度固まってから、今の状況を確認するべく、視線をつま先から頭のてっぺんまで移動させる。
さっきエアの口を塞ぐために手を伸ばしていたが、届かないために体を前かがみに(正確に言うとエアに覆いかぶさるように)している。
それに口を塞いだときの手がもう離れているので、傍からみればキスをする2秒前に見えなくも無い。
瞬時にそう考え光の速さでエアと離れた。
「……忠告ありがとよ。 じゃあ、またあとでな」
「おう、またあとで」
ニヤニヤと笑う太一を目に入れないようにエアに手を差し出した。
「エア、ひとまず俺の家に行こうか。 そして、複雑な事情を聞くとしますか」
エアは顔を赤くしながら俺の手を握ってきた。
そして、足早に歩き出した深夜とエアのあとには注意深く倒れた男をみる太一だけが残った。
「さてと……どう誤魔化したものか……。 まさか、同類が来るとはね……」
その声には密かな困惑と微かな安堵、そしてハッキリとした驚愕が混じっていた。
読んでいただきありがとうございました。
深夜とエアの二人の衝撃的な出会い、いかがでしょうか?
次もがんばりますので応援よろしくお願いします。
では、また会う日まで。