傲慢の物語
※注意
入られている宗教によってはあまり適切でない表現がある場合があります。
読まれる際には、あらかじめご了承ください
物語の中には、「神」と呼ばれる存在が出てくるときがある。
神は人間では測りきれない何かを持つ存在を表現するのにピッタリだ。
力でも知恵でも、人間がその存在を超えることはほぼありえないことが通常だ。
しかしそんな存在である神も、打ち負かされる時がある。
相手が修行のために組手をしている主人公の場合もあれば、
邪悪な魔王に封印されてしまう場合もある。
その時には、まるで人間と同程度の存在になってしまったかのように扱われるのだ。
そして、それらの共通点は、すべて物語の中だということである。
(これでよろしいのでございますか?)
(よい。これで国の平和は保たれる。
また予言が読まれ次第呼びかける)
(わかりました)
私はそれまで閉じていた瞼をゆっくりと開き、目を明りに慣らせた。
従者が渡してくる器を満たす聖水で、手と足を軽く濡らす。
最後に神を模した像に一礼することで、神との対話の儀が終わるのだ。
私は神に仕える巫女だ。
表向きは国に仕えていることになっているが、あくまで私の忠心は神のみにささげている。
神からは年に数回「予言」が伝えられる。
そこでは、悪しき未来を導く種の存在を告げられ、迅速に排除するようにおっしゃられるのだ。
その命を実行することにより、この国は今まで守られてきた。
周囲の国が飢餓や戦争に苦しむ中、それらを回避することができたのだ。
つい先日も呼びかけがあったために私が応じたが、そこではある赤ん坊が将来国を破滅させる悪しき心の持ち主になることを告げられた。
もちろん私はすぐに兵士にその赤ん坊を殺すよう命令し、先ほど死が確認できた。
先ほどの対話の儀はその報告のためのものであった。
悪しき種が毎回人であるとは限らない。
動物であることもあるし、時には物であることもある。
さすがに雲が悪しき種であると言われた時にはどうしようかと国の大臣らが頭を抱えていたが、その時は神自らの手によって雲は排除された。
改めて神の力に恐れを抱いた時でもあった。
この国はきっとこれからも神を信仰していくのだろう。
そして、神もきっと予言を伝え続けてくださるだろう。
この国が滅ぶ未来など存在しない。
私にとって、巫女であるということが誇りだった。
神にとってはその国などどうでもよかった。
ただ、自分の手足となって動く存在がほしいだけであった。
基本的に神自らが世界に干渉することは多大な力を要する。
もちろんすぐに回復する程度の力であるが、神はそれを面倒くさがった。
だから、「予言」という形で自分の力を認めさせ、信仰を集め、国を作らせたのだ。
神は自分の思い通りに世界が動かないことを嫌った。
特に世界を作ってから生まれた人間という生き物は、あまりに自分勝手に行動し、世界に影響を与えた。
神にとって人間は嫌悪の対象だったが、排除することはしなかった。
面倒くさかったからだ。
しかし放っておくのも嫌がった神は、どうせならこの人間に自分の手足となってもらおうと思いついた。
幸い人間は、個体差はあるものの知能が存在し、命令を理解できた。
力で従順にさせればもはやなにも問題なかった。
自分が面倒くさくならなかったことに、神は満足げだった。
神はただ自分のわがままのために動いた。
そのわがままは神であるから許されるものだと思った。
そして神はいつしか自分が全知全能の存在であると勘違いし始めた。
人間という対象と比べ明らかに自分の力が強大であったからだ。
だから、忘れていた。
世界は、物語だということを。
その日は、快晴だった。
誰もが今日はいいことがあるに違いないと、胸を躍らせた。
巫女もそんな人々の一人であり、あとで散歩にでも出かけようかと考えていた。
だから誰も気づかなかった。
最初に気づいたのは、高い建物にいる人々だった。
どうにもめまいのように視界が定まらない。
誰もが首を傾げ、もしや集団で伝染病にでもかかってしまったのではないかと疑う者もいた。
そして、気づいた。
めまいの原因は、自分たちが揺れていたからだと。
自分が揺れている原因は、建物が揺れているからだと。
そして建物が揺れていた原因は、地震だった。
巫女は必死に対話の儀を行う部屋へと向かっていた。
地震はもはや人が立ち続けることができないほど大きくなり、あちらこちらで建物が崩壊していた。
これはいったいどういうことなのか。
このまま地震がおさまらなければ、世界が崩壊してしまうのではないか。
己の使命のために部屋に向かおうとしていた巫女は、もはやそんな崇高なる使命など頭になかった。
ただ、ただ、神にすがりたくて。
四つん這いのみっともない姿でも、必死に這いずっていって。
神と対話できれば、できさえすればこの地震をおさめてもらうことができると、それだけを思っていた。
自分が助かりたいという執念は巫女を目的の部屋まで運ばせた。
すでに壊れていた扉の隙間から何とかして部屋に入ると、儀式の手順など全部すっ飛ばして祈った。
祈りといっても、子供の泣き言のように神聖さのかけらもないものだったが。
しかし、そんな祈りが通じたのか神は答えた。
(…ぅ)
(おお!神よ!聞こえますか?)
(…ぃ)
(神よ!お願いします!どうか!どうかこの地震を止めてください!)
(ぁ…)
(なんでも貢ぎます!あなた様が望むなら何でも貢ぎますから!だから!どうか!どうか!)
そこまで祈り、ふと気づいた。
神は先ほどから何か言おうとしているのではないかと。
さきほどから雑音に交じっている言葉こそがこの地震を止める手段なのではないかと。
そう思い込み、巫女は必死にその言葉を聞いた。
(…)
(…ぅ)
(…ぇぬ)
(あ…えぬ)
(有り得ぬ)
それは絶望の言葉だった。
巫女の真っ白になった頭に神の声が響いた。
(有り得ぬ有り得ぬ有り得ぬ有り得ぬ有り得ぬ‼
なぜだ‼
なぜ世界が壊れる‼
私はそうならないようにしてきたはずだ‼
すべての要因をなくしてきたはずだ‼
それなのになぜだ‼
なぜ壊れる‼
なぜ私を巻き込む‼
なぜ‼なぜ‼
私に作られた存在でありながらなぜ私に仇をなす‼)
巫女は悟った。
神は今までこの世界を壊さないために行動してきたのだと。
それにもかかわらず、世界は崩壊の時を迎えようとしているのだと。
つまり、神にもどうにもできないのだと。
そして最後に神は恐ろしい悲鳴をあげ。
その声は聞こえなくなった。
最後の希望は途絶えた。
直後、建物は限界を迎えた。
「神はすべての未来を見通した気になっていた」
「神だから当然見通した未来が必ず起こるものだと勘違いした」
「自分が作った世界なのだからなおさらそう思い込んだ」
「でもそんなことありえないのが世界」
「でもそんなことありえないのが物語」
「神は自分の行動が世界を形作る重要な基盤を壊していることに気づかなかった」
「物語の可能性をすべて奪った神様は、世界が救われる可能性も奪った」
「物語の外側だったら気づいたかもしれない」
「外側にいる分には神様は全知全能だ」
「でも物語に関わってしまったらもう遅い」
「あの神は物語に出てくる登場人物に成り下がった」
「たとえ生みの親だって関係ない」
「物語の中で、物語以上のものなんて存在しない」
「神を殺すにはどうすればいいかって?」
「簡単だよ」
「物語に引きずり込めばいい」
「というわけで、そんな哀れな神様と世界の物語でした、とさ」
「僕は哀れな彼らの後始末だけしてくるよ」
「君たちも帰るといい」
「また会えるといいね」
それじゃ、またね
読んでくださってありがとうございます。
小説にしたい設定がありつつも表現力が乏しいためと構成がうまくいかないため、なかなか書き始められませんでした。でも漠然としたものはあったので、とにかく書いてみようとしてできたのがこの物語シリーズです。実際はもっとコメディな雰囲気にしたいのにどんどんシリアスな傾向に陥ってしまうことがとてつもない悩みです。
とりあえず、最後にしゃべっている彼の設定をもう少し頭に思い描こうと思います。それ以外に何か気になる点があってもなくても感想をいただけると嬉しいです。といっても現時点では感想もくそもないかもしれませんが。
物語シリーズは時々更新するつもりです。
まだまだ続く予定です。
できればこの設定を用いた長編小説に挑戦したいと思います。
時間があればですが。
それではまた別の物語で会えることを願って。