旅は道連れ
俺達は4頭立ての牛車で街道を広大な盆地の真ん中にあるジェスに向かって進んでいく。
牛に見えるが、実は牛型の亜竜が4頭、これが車輪が2個の小型移動ハウスを引く。
山道や荒地では4頭の亜竜の背に乗せて輿になる。
もちろん4頭を泳がせて船としても使える優れもの。
普通の牛の速度でゆったりとクンム山地の国境を越える。
街道が下りになって二日目、柔らかい秋の日差しに、アモンの調子はずれの歌声が響く。
アモンは大抵の事はあっさりと上手にこなすが歌だけはちょっと、いや大いに苦手みたいだ。
ただ本人はそれに気が付いていないらしい。
でっかい声で、下品な歌を撒き散らしている。
妹達は中でルーナや姫様たちと一緒にお昼寝中、聞かせないでよかった。
久しぶりにアモンと二人だけで御者台に座っている。
「なあ、アモンこれからこの辺は雨季に入るって聞いたけどいい天気だなぁ。」
俺は飲んでいた水筒をアモンに渡した。
「だなぁ、これならあと五日ぐらいでジェスにつきそうだ。うんうまい。」
ファリアとドリスの術がかかっている水筒はいつも冷たい水で満たされている。
あと生活に使う水は後ろに積んである壺から湧き出す。
しばらく行くと、こちらに手を振る女の人の二人連れが見えた。
「すみませ~ん、お水あったら分けていただけませんか?」
「いいよ~、いっぱいあるから好きなだけとっていいよ~。」
「ありがとうございます~。ジェスまで行くんですけど水を切らしてしまいまして。」
俺は二人の横で牛車を止めた。
「俺達もジェスまで行くから乗っていけば?妹たちがお昼ね中だから今は屋根の上しか空いていないけど。」
「ありがとうございます、私はリンシェ、この子はマーシャです。」
「俺アイン。こっちがアモンあとはまた紹介するよ。」
おれはまた牛車を歩かせ、アモンは歌う。
その調子外れた歌を二人はニコニコしながら聞いている。
あまりにもニコニコしているので聞いてみた。
「なにかいいことあるんですか?」
「マーシャがお嫁に行くんです。」
「それはおめでとうございます。」
「ありがとうございます。水竜王さまに嫁げるなんてとっても名誉なことなんですよ。」
「え!?」
思いっきりおどろかされて、しばらくは息をするのも忘れた。
「水竜王って北海黒竜王の?」
「はい、ゴウシン様です。」
俺は何も聞いていない。今はアモンの服作りで忙しいはず。
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今日は気分がいい、大声で歌っていたらアインがおかしな顔をしている。
ははは、思いっきり音痴な歌だからなぁ。
俺は、まともに歌おうとすると歌姫モードに入ってしまう。
ゼムが自慢するためにつけた小細工だ。
だから、俺は本当に気分のいいときは、この酒場で覚えた下品な歌を調子をはずして歌う。
魂の自由ってやつを尊重しないといけない。
途中で同行することになった二人も俺の歌を楽しそうに聞いてくれる。
俺はますます楽しくなった。
リンシェ
人族人 35才 黒髪 黒い瞳
マーシャ
人族人 16才 黒髪 黒い瞳
ゴウシン
妖精族竜 北海黒竜王 ドリスのお母さん