死者も起き出す丑みつどき
ユリアちゃんはここから北西へ馬車で2週間ほどのところにあるヤマン大公国の第3公女、留学先のエウシア王国からフェアネス皇国立魔法学院へ留学する途中。
2年ほどゆっくりと諸国を回って見聞を広めてから入学する予定らしい。
学院を卒業すればすぐ嫁に出されることの多い王族達は、入学前にこのような長旅をすることが多い。
だからと言って、
「護衛が一人って少なすぎないか?」
「貧しい小国の第3公女でしかありませんので。」
ユリアちゃんはそういって真っ赤になった。
「ユリアちゃんを守るぞ!」
「「「「「お~!」」」」」
と言うわけで、俺たちが護衛することになった。
母さん達には2年ほど遊んでくると念話ではなしておいた。
2年という時間は母さんたちにとっては一瞬のことでしかない。
たぶんアモンの服を作るのに10年ほどかかったりするのだろう。
とりあえず、今夜はこの町に宿を取った。
妹sはユリアちゃんたちと名物の潮湯温泉、俺とアモンは仕事がある。
町外れの森の中へ入り、ふたつの大袋を埋めた。
刺客のうち男二人は、意識を取り戻した瞬間、心臓を止めた。
「もどって、早く風呂に入ろうぜ。」
2時間後、新しく埋め戻された土から一本の腕が突き出て、男が全身を現した。
ファリアが倒した店の外にいた男。
こいつらは名前が無くて番号で呼ばれているらしい。
この男が13番。かなり上位だ。
女が72番、もうひとりが54番
男はもう一つの袋を掘り出し、中を確かめると手刀を突き刺した。
その沈黙の作業を俺とアモンは気配を消して見ていた。
南海竜王火竜の娘ファリアは火を司る。
熱等の分子レベルのエネルギーをあやつり炎による攻撃のみが人目に大きく印象付けられる。
深海においても、氷の度派手な戦い方が出来る。
それとは別に、炎による魂の浄化と送り出し、そして死者の魂の迎え入れ、死霊術を得意とすることは意外と知られていない。
刺客が自分達にかけた仮死の術など、赤ちゃんのお遊びのようなものだ。
袋を埋め戻した男は飛ぶように走って町の小さな家に入った。
中には人の気配が5つ、武装している。
俺は左隣にいるアモンに手で合図する。
指を2本左に出して手刀を振り下ろし右に3本出す。
アモンの野郎左に3本出して飛び出しやがった。
5分後、家から人の気配は消えていた。
アモンのやつ楽しそうに笑っていやがる。くそっ。
おれが飛び込む前にもう3人処理してしまいやがった。
アモンは時間を繰る術も持っているがそれを使わなくても俺より速い。
あまりにも悔しかったんで、一通り剣の型を練習して汗をかいてから潮湯に入った。
明け方も近く薄暗い湯船の中にはアモンが一人まだ浸かっていた。
ここの温泉には霊力があり俺達でも影響を受ける。
「長湯しすぎるとのぼせてぶっ倒れるぞ。」
「うるさい!」
アモンは意地になったのか、俺が出るまで真っ赤になってもまだつかっていた。
へんなやつだ、しかしあのちょろっこい体で俺より力があるんだから不思議だ。
俺の体はなかなか成長してくれない。
筋肉量では勝っているんだけどな。
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俺は、とりあえずしなければならないことは何も無い。
生活に必要な金も、塔にある財宝をほんの少し売るだけで充分足りる。
だから、護衛ごっこに付き合うことにした。
こいつらを見ているとなかなか飽きない。
たぬきの死んだ振りみたいな面白い術を刺客が使って見せた。
面白い。
復活したやつを付けていくとアジトで仲間4人と合流しやがった。
アインのやつ、5人の内3人倒すだと!
俺とアインはほぼ同時に飛び出し、おれはサキに3人片付けた。
雑魚ばかりか、くそっ。
俺より少し遅れたけど、剣だけでアインは上位者を二人斬っていた。
くやしいなぁ。
誰もいない時間を見計らったのに、アインが風呂に入ってきた。
こいつがきの癖に締まったいい体をしてやがる。
うらやましすぎるじゃないか。
俺の男はゼムがとってしまった。
アインだけには見られたくない、湯船から上がれないじゃないか。
俺は温泉に含まれる霊気で湯あたりしてしまった。くそっ。