ちょっと大人になったアリス
おばさん達に囲まれて紫金の獣がうなり声を上げていた。
足元にはアモンが倒れている。
「アリスったらずっとこうなの。」
ゴウランさんがあきれて両手を挙げている。
これがアリス?しかしでかい。
「クリスなら大丈夫よね。」
ゴウシンさんがそう言ってくれるけど、おれだって怖い。
殺気というか、鬼気というか半端じゃない。
おれはそれにへっぴり腰で近づき、笑うな、そっと頭を撫ぜた。
おしっ、分かってくれてる。
アリスの下で、アモンが何か呟いている。
「マスター登録をお願いします、マスター登録を・・・」
死んだような目で単調に呟くアモンを見て、もうとっくにくたばっているゼムに殺意を覚えた。
俺は泣きそうになりながらも、親友の頼みに答えた。
「アイン・デ・マーリン、マスターだ。」
「アイン・デ・マーリン確認しました。ハル起動します。」
「ハル、起動停止せよ。」
「停止します。」
アモンの一つしかない目に生気が宿り、俺の顔に焦点を合わせた。
「何だ、お前がマスターか、逆らえなくなったな、ご命令をどうぞ。」
くそっ心配掛けやがったくせに、ならしてやるさ。
やけどだらけの裸の上半身を抱きしめて命令してやった。
「アモン、俺の嫁になれ。」
怒る、恥ずかしがる、とかいろんな場面を考えたけどアモンに鼻で笑われるとは思わなかったさ。
しかもアリスの殺気が膨れ上がる。おぃおぃ。
アモンは俺を振り払って立つと、一言呪を唱えた。
焼け爛れた肌が元のきめ細かい白い肌になり、千切れた腕とつぶれた目が一呼吸の間に復活し、きれいな金色の髪が肩まで伸びた。
自分で治癒してしまっただと?
俺の一大決心をどうしてくれる。
「おい、何でできるのに治療しなかったんだ?」
「そりゃお前、戦うのにハンデは必要だろうが。」
うっ、ムカつくやつ!
俺がもう一度ハルを呼び出してやろうかと考えている間に、アモンはすたすたとおばさんたちのほうに歩み寄り、頭を下げた。
「ご心配をおかけしました。申し訳ありません。レイチェルとドリスをすぐ連れ戻します。」
え?え?
しかし本当に驚いたのはこのあとだった。
両手を天に付き挙げたアモンの気が爆発的に高まりそれが一挙に薄れていく。
アモンの気が無くなる!危険だ!!
さらにアモンに寄り添ったアリスの気までが薄れていく。
何をしてるんだ?
極限までに気が薄まったかと思ったら、それがまた戻ってきた。
それと同時に戦闘状態のままのレイチェルとドリスが実体化した。
周りを見渡して母親がいるのにびっくりして、それから飛びつく。
おれもアモンとアリスに駆け寄ろうとしたが、後ろからゴウランさんに頭をつかまれ後ろを向かされた。
「きみは女の子の裸を覗きたいのかな?」
恐ろしいことをおっしゃいます。
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レイチェルとドリスは時空の果てに吹っ飛ばしただけだった。
もちろん自力では戻れないので新だのと同じ。
ただ俺は吹っ飛ばすときにおれの魂ともいえる気を糸状ににしてくっつけていた。
その糸を太くして引き戻したわけなんだが、なんせ距離がものすごいもんでさすがに死ぬかと思ったさ。
しかしアインには困ったもんだ。
なんだい?あのプロポーズもどきは。
多少見てくれが悪くなったからといって俺の中身が変わるとでも思ってんのかよ。
マジで怒ってやったら、すぐに謝りやがった。
やつなりの責任感とか、同情とかそんなもんだったらしい。
それはそれで腹が立つじゃないか、そうだろ?
だから仕返ししてやった。
どうしたって?
人型に戻ったアリスは、15~6才までに成長していた。
俺を見つけて駆け寄ってきたルーナが腕を組んでいるアリスに不審な目を向ける。
俺はすかさず自分を指差して宣言した。
「ルーナのお父さん。」
ルーナの顔が喜びに輝いた。
「ルーナのお母さん。」
アリスを指し示すと、優しく微笑むアリスにルーナは飛び込んだ。
そして呆然としているアインを指差して止めを刺してやった。
「ルーナのおじさん。」
ざまあ。
馬鹿なことをしているのは、命がけで戦った反動なんだ、すまん。
俺にだって精神的な限界はあるさ。
アリスが俺を受け止められなかったら全滅していたからな。確実に。
結果としてアリスは俺を男として受け入れ、俺たちは番になってアリスは大きくなった。
なんたって俺にはへそがあるからな。
アリスの中ではへそは男の象徴なんだ。
だって、へそがあるのはアインと親父さんだけだろ?
ここで『へそ』でおとしちゃいました。すいません。