翼を持つ獣
アモン⇒スー⇒アインの順です。
ルーナは牛車を全力で走らせて俺にぶつけてきた。
すさまじい地響きの中俺は短剣を抜いて、 右へ跳んだ。
今まで立っていた地面に高温で熔けた深い穴。
続いて連射が来る。
ファリアか?
いや牛車の上に魔道砲をかかえたユリアがみえる。
なかなかいい腕じゃないか。
俺の受けた命令は、’ユリアと護衛を全力で殺せ。’
俺は片方だけになった手のひらに魔力を集め、撃つ。
金色に輝くそれは、着弾のほんの手前で翼を持つ獣に消滅させられた。
競走馬より速く逃げる牛車を追いかけようとした俺を紫金の獣が阻む。
俺の魔力球はことごとく消され、あるいは俺のほうに弾かれる。
こいつ何もんだ?弾き返された魔力球をかわしながら、障壁を張って獣の広範囲ブレスをそらせる。
一瞬獣と目が合った。
そういうことなのか、俺は自らの意思で魔力球に全力を込めた。
とりあえず全力で護衛と戦っているうちは他の命令が優先することは無い。
大丈夫だ。
ルーナ、速く逃げろ!
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宿の周りに仕掛けてある目が、地下から脱出してくる球体を捉えた。
球が消えて現れたのは3人。
アジトを一つ犠牲にしてたった3人しか仕留める事ができなかった。
目には残念ながら音を伝える機能が無い。
見ていると一人が姿を消し残る二人が居残りの二人に化けた。
フ~ン、それでごまかせるつもりなんだ。
私はアモンを牛車に差し向けた。
現れた獣、あれがあの男の子?
逃げる牛車を周囲から襲わせる。
防戦にかかりきりになる二人を横目に、私は影となって牛車の中に忍び込む。
アモンに聞いてはいたけどすごい設備ね。
私は個室のドアも影のまますり抜け、見つけた。
後ろを向いて本を読んでいるユリアに近づこうとしたとき、違和感を感じた。
樽につめられて滝つぼに落とされたようなめまいがする。
これは毒?
わたしの意識は急速に落ちて行った。
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俺はユリアちゃんの格好をして牛車の屋根に乗っている。
魔道砲を撃ち尽くした俺は弓を射掛けてくる敵に向かってひたすら爆弾かずらの実をゴムを使って投射する。
これは衝撃を与えると爆発して中の種を周囲に撃ち出し、殺した動物を養分にして育つ恐ろしい植物だ。
実がなくなりかけたころ周囲の敵の気配もやっと無くなった。
念のためと言うか、残りも撃っておこう。
意識していなかったがやはり怖かったのか、ミラからの念話が来たときには手のひらにかなり汗をかいていた。
牛車の中へ入ろうとして御者台のソフィアさんにしかられた。
「足!」
池ね、俺はがばっと開いてしまった足を閉じた。
まだユリアちゃんのままだったんだ。
ソフィアさんに術を解いてもらった。
ミラのいた部屋に入ると、床に人の形をした影だけが残っていた。
「これがスー?」
「うん。」
こんな術があるなら最初からユリアちゃんを狙えば良いのに、馬鹿じゃないのか?
よく調べてみようと、影を床ごと切り抜いているとおばさんたちからの念話が入った。
”アイン速く来て!今着いたんだけどアリスが大変なの!!”
おぃ!