牛車の中で
街道はジェスから南西に山脈を越え、もう少しで着く高原の村オモザワ、やや下って陶器の町シガラク、そして大陸南東部最大の町ナーギャへと続き海へまた戻る。
俺は御者台に座り、鞭を持っているが、別にすることは無い。
牛車につながれた牛、正確には亜竜のウーシンたちが非常に賢いからだ。
ウーシンたちに地図を見せて、次ここねと予定を説明するだけでいい。
それでも御者台に座っているのは周囲の警戒と、これもウーシンたちがしてくれているんだが、だれかが座っていないと見栄えが割るいという理由だけなんだ。
だからはっきり行って暇。
俺の隣にはアリスがぺちょっとくっついて座り、料理の本を読んでいる。
何か話しかけようとしても会話が続かない。
もうひとりの御者当番のレイチェルは同じ山道の風景に飽きて俺のひざを枕にお昼寝中。
「お兄ちゃんはウェルタ酢とバル酢とどっちが好き?」
「区別がつかねぇ、どっちでもいい。」
「・・・」
「ふぁ~たいくつだぁ~。」
「お兄ちゃんカードゲームしようよ。」
「ふたりでか~?つまんねぇ。」
「じゃぁ何かお話してよ。」
「ん~?別になんもないぞ。」
「アリスとお話してもつまらない?」
「ずっと一緒にいるからネタがないな~。アモンなら・・おいまだ当番中だぞ!」
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牛車は見た目も結構でかいが、中はさらにでかい。
空間魔法を使って邸宅一軒分を押し込めてある。
長いのか短いのかよく分からん廊下で泣きながら走ってくるアリスとすれ違った。
一瞬おれを見た視線がきつい。
またあいつら喧嘩したのか。
さてどっちへ行くべきか。
俺はこのときアモンのほうに行った事をあとで死ぬほど後悔することになる。
このときアリスのあとを追いかけて図書室に行ってさへいれば、俺は妹達を殺されて怒り狂うアインの剣を心臓に受けなくて済んだのかもかもしれない。
運命は極些細なことで、右と左に人を分けていく。
「おいアイン、アリスを泣かしちゃだめじゃないか。」
「泣いてたのか?あいつ。よくわかんねぇ。」
「もうちょっとかまってやれよ、あいつお前しか見てないんだからさ。」
俺は何でなんで生まれながらに嫁さんが100人越えるうらやましいやつにこんな話をしてるんだろう?
なんかむなしい。
俺に春は、来るわけないか、はぅ。
「ところでアモン、お前訓練室にこもって何してたんだ?」
「あぁ、時空魔法を攻撃に使えないかと思ってな。」
「出来たのか?」
「半分くらいだな、今のままだと3日に1発撃てるだけだ、3日は魔法が全く使えんと言うより何も出来ん。」
「ほう。」
「その代わり竜王クラスでもこの時空から吹っ飛ばせるぜ。」
「充分すごいじゃないか。」
「すごくねぇよ、そこまでしないといけない相手ってだれさ?」
「俺達か、うちの親達。」
「だから使い道がねぇんだよ。」
「そっか。」
「とにかく、今日の料理当番はアリスなんだから思いっきりほめてやれよな。」
「わかった。」
この牛車には衣食住に必要な施設以外に、魔法や武術の訓練室、製作工房、ダンスホールやフルオーケストラが演奏できる音楽堂さえ付いている。
図書室もゼムの塔からそっくり持ってきた蔵書で充実しているが、みんなあまり読まないのでアリスの個室代わりになっている。
その中に俺の付属人工知能の取扱説明書のようなものが紛れ込んでいるのを俺は知らなかった。
前振りの回だったりします。
大変なことが起こるらしいです。
妹達も親たちも・・・そしてアモンも・・・
次回悪役のNo4が出てきます。
さすが上位者やることが違います。