アシハポン?
ジェスに近づくにつれて様子がおかしくなってくる。
最初は何か草がげんなりしているだけだったのが、地面はひび割れ、しかもところどころに塩を噴いている。
家畜はもちろん野生動物や鳥さえ見かけなくなった。
へんだ、もう雨季になっていなければおかしい季節なのに。
ジェスの周りのクンム山地に降った雨は町の隣のジェス湖に集まり、唯一流れ出すジェス川によって南東の海に戻る。
クンム山地は鉄と石炭が豊富で、ジェスはその集積地として栄えた緑豊かな町のはずだった。
しかしおれたちが見たジェスは、干上がった湖の隣の埃っぽい寂れた町でしかなかった。
もう2年も雨が降ってないらしい。その前も少なかったらしい。
ドリスも空気にほとんど水分がないと言っていた。
リンシェさんの兄さんがこの町の町長のキルケさん。
キルケさんの屋敷に4日後のマーシャさんの結婚式までお世話になることになった。
ゴウシンさんは全く覚えがないって言ってるし、マーシャさんの楽しそうな顔を見ていたら、それはおかしいですよ、ともなかなか言えないし。
その場に立ち会えば何とでもなる かもしれないってことで、はははは。
何とかなるだろ。
町とは反対に、河口にある製鉄所や鍛冶場はにぎやかだった。
俺達の目当ては工場群の見学ではなくて、ハポン焼き!
ハポンとは何かこの辺りの海岸沿いだけの秘密の材料を使ってある料理だ。
直径5cmくらいの鉄のお椀に長い柄がついたハポン鍋に出汁と卵でといた粉をいれ、なぞのハポンと、他の具を入れる。
ある程度固まったら鉄串と絶妙の技でひっくり返す。
これを果物などを発酵させたソースで食べる。
全員が一個ずつ食べ、2巡目にユリアが食べようとしたとき、そのハポン焼きをレイチェルがとった。
隣にいたアリスがおばさんの目を覗き込む。
「80番、暗示がかかってる。利用されてただけ。」
おれは、おばさんの後ろに回りこみ見てしまった。
80番と書かれたユリアの似顔絵とぐねぐねとした気味の悪い生物。
こいつがハポンか。
ユリアのハポンには金属の玉が入っていた。
噛むと圧縮された空気で爆発する。
あとで試したら、頭蓋骨くらいは穴が開きそうだった。
おばさんは「ハポン鍋が冷えてる、どうしたのかねぇ?」と不思議がりながらハポン焼きを焼いている。
ミラが何も言わないから毒ではないんだろうが・・・
4巡めに並んでいるルーナが不思議そうに言った。
「アインもう食べないの?」
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ジェス川の河口に浮いている工場の一角にある屋台へおれはみんなを連れて行った。
俺はハポン焼きが大好きなんだ。
ここで売っていると聞いたからには食べに行かねばならない。
屋台で八つのハポン鍋を器用にあやつってハポン焼きを作っていたおばさんに襲われたのには驚いた。
ま、世の中いろんなことがあるさ。
アインのやつアシハポンを見てしまったみたいだ。
見てくれで差別するなんて男らしくないぞ。
俺は少し勝ったような気がした。