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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

啼く鳥の謳う物語

お宅訪問

作者: フタトキ

「あーいいなぁ……時間を気にしないでこんな可愛いお前といられる」

陽季(はるき)は隣に座って熱心にテレビを見詰める彼の髪に指を絡めて口付けをした。






今日は陽季が劇場で研修し始めてから最初の休日の前日であり、洸祈(こうき)が陽季の借りているマンションにやって来る日だった。

毎度のように先輩の(れん)にしごかれて劇場から帰った陽季は、直ぐ様帰宅途中に寄ったデパ地下へ。そこで買った食材で夕食の準備をし、合間にお掃除用ワイパーで部屋を綺麗にしていた。

シンプルな味付けのローストビーフをメインに、茹でた野菜を付け、奮発したワインは冷蔵庫に直前まで保管。



ぴーんぽーん。



洗ったばかりのベッドシーツに換えて、シワを伸ばしていた陽季はエプロンを洗濯機に入れて玄関に駆けた。

ドアを開ければ勿論、陽季のお待ちかねの恋人だ。

「洸祈、夕食できてるよ」

「うん。お邪魔する」

玄関から一歩入る洸祈。

自然と閉まるドアを待ちきれずに自ら引いて閉めた陽季は、洸祈をドアに押し付けてキスをした。

「ん……はる……」

久し振りの漏れる声に体を擦り付けようとしてしまったが、それはあとでと、慌てて腰を引く。そして、赤い頬の洸祈は陽季の案内でリビングに入った。


夕食ではワインをたしなみつつ、陽季がテーブルマナーを教えながら食事を楽しんだ。

洸祈がシャワーに入っている間に食器を片付け、用意していたバスローブを着た洸祈と入れ替わりに陽季もシャワーを浴びる。

パジャマ代わりのTシャツにズボンで出ると、洸祈は土曜サスペンスを眺めていた。

その隣に座って残っていたワインを飲む陽季。陽季のグラスに入った飲み掛けに手を伸ばした洸祈もワインを飲む。

そうして、二人で刑事ものを見ていた。




「ねーえー、そろそろベッドに移動しない?」

滑らかな首筋に唇を寄せ、吸った陽季は洸祈の体にまた一つキスマークを増やす。

しかし、洸祈は陽季をひっぺ剥がしてテレビを見るよう指でパントマイムしていた。

テレビを見たまま……。

陽季は洸祈の正面に回ると、バスローブを勢いよく開く。一般の男達には面白くもなんともない陽季が大好きな胸板。

「あ……これ」

あるものを見付けて笑みが零れる陽季。陽季を鬱陶しそうに胸元のローブを掴んで抵抗する洸祈は、にやける陽季の顔を視界から退かそうとした。

「ちょっと……邪魔なんだけど」

「洸祈って、ホントに可愛いよね」

「は?今から真犯人追い詰めるんだから邪魔」

「その可愛さに免じて待つよ」

音を発てて触れるだけのキスをした陽季はむっつりした洸祈の隣に座り直す。

そして、洸祈に抱き付いたまま首に掛かる銀の鎖の先、洸祈の熱で温かくなった指輪に触れた。序でに素肌に触れれば、洸祈は耳を紅くして顔はむっつりのままテレビを見ていた。




滑らかなシルクのシーツは陽季の高価な趣味だ。

「洸祈と絹…………エロい!」

既に高揚する洸祈をベッドに倒した陽季は、バスローブを際どく脱がして、一人興奮していた。

「変態が!!」

勿論、興奮するアホには洸祈の回し蹴りが炸裂する。

「ぎゃふ!でも、負けるか!!」

「負けろよ、ど阿呆!」


久々のご事情は、ありとあらゆる嵌め技を互いにしていたが、結局のところ、かなり興奮した。

電気を点けるか消すかの議論から、上か下かの議論までし、どれも結論は出ずに交わったというわけだ。

「電気……消して。眩しい……」

「分かった」

伸びて俯せになる洸祈が途切れ途切れに頼むと、陽季は壁のスイッチを切りに立つ。冷えたフローリングを裸足で歩き、陽季は丸くなる洸祈の毛布に入った。そして、温かい洸祈を驚かさないように、そっと顔だけ寄せる。

薄く開いた唇。ちょっとかさついている。

乾燥に弱いのかな。

「洸祈、愛してるよ」


…………………俺も。


空耳かと思った。

けど、洸祈が俺の体にくっついてきたら、幻聴じゃないって気付いた。




「洸祈ぃ、結婚式の時の衣装どうしよっか」

「えー……衣装?」

シルクの感触を確かめるように四肢を滑らす洸祈は唸る。

「洸祈はウエディングドレス着たいの?」

「……………………は?」

「いやだから、結婚式の衣装。どんな格好にしようかなって」

白いウエディングドレス。

シンプルなデザインに、きっと胸元の膨らみもシンプル。

洸祈は男だし。

そして、ちょっぴり肩幅を減らし、髪を伸ばし…………。

「あ、そこまでいったら別人か」

「別人?てか、ドレスはイヤだから」

「何で!?」

「マジに驚愕って……」

洸祈の目は座り、窓から入る朝日に向かって体の反転させた。勿論、陽季の目の前には洸祈の背。

彼が呆れた時の仕草だ。

「洸祈ぃ、じょーだんだよ?洸祈はスーツだもんね?」

「もういいじゃん、私服で」

「えー!?そんなのつまんない」

「俺は陽季といるだけで十分なんだけど?はぁ……あのさ、陽季のそーゆーとこ気にするの好きじゃない」

「…………」

無言で洸祈の背中を擦っていた陽季ははむっと彼の肩口を甘噛みする。すると、洸祈の全身がぴくりと震え、そんな彼の可愛いところを陽季見逃さず、大胆に彼に寄って抱き付いた。

「ちょ!はるっ」

「…………あのね、こーきぃ。俺、洸祈にそっぽ向かれたら……」

布団の中で洸祈の背から尾てい骨、柔らかい……。

「ひぁ!」

尻を掴まれた彼は飛び上がった。しかし、陽季の行為は止まらない。

「俺、欲情しちゃうよ?」

「はぁ!!!?」

そして、洸祈の素肌を滑った指は洸祈の脇腹を摘まんだ。


が、


「………………………………………………………………洸祈、太った?」


「…………」

「ここ、ぷにぷにしてない?」

「…………」

「太ったよね?贅肉付いたよね?」

「ぜい……にく?」

「ダメだよ、ふとっちぁ。いつか洸祈が俺の上に乗る時、重いと俺……キツい」

「…………上、乗って欲しいわけ?」

「あ、入れないでよ?勿論、俺が入れる方だよ?」

「ふーん……」

「え?何?洸祈、もしかしてOKとか?」

頬を洸祈の背に擦り付け、陽季の足が洸祈の足に絡まる。

「……………………………ねぇ………………はるぅ…………」

すると、妙に色っぽい声音が寝室に響き、行動を止めた陽季に洸祈が上半身だけ体を向けて陽季の首に抱きついた。

「なぁに?洸祈」

洸祈の首筋に強く吸い付いた陽季は自らの付けた恋人への証に満足して訊く。洸祈はというと、くるくると喉を鳴らすと、陽季の胸に蹲った。

「洸祈?」

「陽季……俺が太ったの、陽季がお肉食べさせたからだ。責任とってよ」

と言う、洸祈の責任は体重の増加ではなさそうだ。

何故なら、彼は体の反応を陽季に微弱に訴えていた。

要するに、洸祈は興奮したようだ。

陽季は洸祈に見えない位置で微笑を漏らすと、ゆっくりと、自然の流れのように洸祈を押し倒す。

陽季を目の前に紅くなった彼の顔。

本当なら、洸祈に乗って欲しいが、その表情に免じて陽季は彼を見下ろす。

「朝飯はもういっか。ダイエットだしね」

「……10時のおやつは欲しい」

「はいはい」

そして、彼らは互いに笑って、互いに触れて、口付けを交わしていた。

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