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だいすきだよ

作者: こやっしー
掲載日:2026/05/04

かけがえのない「だいすきなひと」へ…。

水鳴瀬 鈴さまデビュー1ヶ月記念作品

読み聞かせ ストーリー

ある町はずれの小さな家に、おじいさんと白い毛がまじった年老いた犬、コロが住んでいました。 


コロの飼い主のおじいさんは、ある朝ふいに倒れてしまい、そのまま遠くの病院へ運ばれてしまいました。

 静かになった家の中で、コロは毎日、おじいさんがいつも座っていた座布団にうずくまり、そこから戸口と道ばかり見つめていました。 

けれど何日待っても、おじいさんは帰ってきません。 ある夕方、赤く染まった空を見上げて、コロはゆっくり立ち上がりました。


「ぼくが会いに行こう。」


 足取りはふらふらでしたが、コロは町へ出ました。 最初に通りかかったのは、いつもいい匂いがするパン屋さん。

 店の前でへたり込むと、おばさんが気づいてかけよってきました。


「まあ、こんなにやせちゃって…」


 おばさんはパンの耳をあたためたミルクにひたし、小皿に入れてくれました。


「うちの子もね、遠くの町で一人でがんばってるのよ。たまにしか会えないけど、元気でいてくれたら、それでいいの」 


コロが小皿をなめるたび、おばさんの目には光るものが浮かびました。


 少し元気を取り戻したコロが公園にさしかかると、すべり台の下で男の子が一人で泣いていました。 

コロはそっとそばに座り、涙でぬれた手をぺろりとなめました。 

男の子は「うわっ」とびっくりしたあと、くすぐったそうに笑います。


「きょうね、ぼく引っこしちゃうの。ここでできた友だちと、もう遊べないんだって」 


コロは何も言えません。ただ鼻先を男の子の手に押しつけました。


「ありがとうワンちゃん。きっとまた会えるよね」 


そうつぶやいた男の子の涙は少しだけあたたかく見えました。


 夕日が川を赤く染めるころ、コロは橋のたもとにたどり着きました。 

一人で釣りをしているおじさんが、コロに気づいて声をかけます。


「おまえさんも一人かい」 


コロがしっぽを一度だけ振ると、おじさんは笑いました。


「俺もな、大事な人を待ってるんだ。初めて出会ったこの場所で…。もう会えないけれどな。それでもな、待ってる間は、その人と一緒にいれるんだ。」


 おじさんはコロの首輪をそっとなで、「気をつけて行くんだぞ」とつぶやきました。


夜の気配が降りてくるころ、コロはとうとう病院の前に着きました。 ガラスの自動ドアの前で、コロはかすれた声で、何度も、何度もほえました。

 その声は、静かな病棟の廊下にも、かすかな震えとなって届きました。 

窓ぎわのベッドで眠れずにいたおばあさんが、耳をすませてつぶやきます。


「看護師さん…、外でわんちゃんが鳴いてるの。なんだか、とてもかなしい声だわ。」


看護師さんが玄関へ降りていくと、そこには小さな影がひとつ。 

コロは足をふらつかせながらも、おじいさんを探すように、声を振りしぼっていました。 


そのときです。 


廊下のずっと奥から、かすれて細い声がコロを呼びます。


「……コロかい?」


 コロは耳をぴんと立て、最後の力をふりしぼるように、短く高く一声ほえました。 

その一声に、おじいさんの目がゆっくりと開きます。


「…来てくれたんだなあ」


 おじいさんのまぶたが、静かにまた閉じられました。 

コロもまた、ドアの前で目を閉じ、深く長い息をひとつ吐きました。

 翌朝、病院の入口のそばには、古びた首輪がひとつ、静かに落ちていました。 


コロの姿は、どこにも見当たりませんでした。


 けれどその夜、病院の窓には、まるで再会をよろこぶような、まるくてやさしいお月様が、そっと浮かんでいたのでした。

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