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生贄の乙女の恋  作者: 現野翔子


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輝きの島カソン

 次の仕事は突然眩い光を発した島カソンの調査。ここも精霊の怒りによるものかもしれないとして、私が向かうことになった。首都の地盤沈下の影響から首都内での運搬に通常より多くの人員が必要となっているため、こちらに人手は割けない。気になることがあると言うセイカを護衛とし、サマジアからは私一人の調査となった。

 カソンは小さな島だ。その対岸には小さな漁師町があり、バラジーにも魚を卸してくれている。彼らにまず何が起きたか話を聞こうと、応じてくれそうな人を探した。幸い、見慣れない人間がきょろきょろとしているだけで彼らは気になるのか、向こうから声をかけてくれる。しかし彼らにも突然島が光ったということしか分からず、情報は増えなかった。その代わり向こうの島に渡りたいという申し出には、子ども達が遊びに行くついでならと応じてくださる。特に何があるわけでもないカソン島に定期船は出ていない。冒険と称する子どものお出かけに大人が付き添うだけ。そのため、船が出るのは子どもの気分と予定が合った時限定で、次がいつになるかは分からない。

 出るまで待つ。その間の手伝いくらいはしようと宿もない漁村に滞在させてもらう。私もセイカも野営に抵抗はなく、冷たい水浴びだってできる。しかしそれは申し訳ないと空き家を一つ貸してくださった。雨風凌げる家屋があるだけで大きく変わる。湯が欲しい場合の話もしてくださったが、そこは私が精霊術でどうにかする。溜められる湯船があるなら精霊術で水を湯に変えることだってできるのだ。


 数日待ち、私達は子ども達と共に無人島カソンに乗り込む。子ども達は大人の見える範囲、海岸線のみ立ち入りを許されていた。特に好奇心の強い子は縄を胴体に巻きつけられており、その縄の反対端を桟橋に括り付けられている。そうしなければ奥にまで入り込んでしまうのだろう。私達は客人のためそんな縄はない。最悪置いて帰ってもらっても構わないとセイカは言い捨て、島の奥へと足を踏み入れた。

「置いて行けるわけないだろう!暗くなる前に戻って来い!」

 暖かい声を背後に、私達は木々の隙間を縫う。影になっているはずの場所に浮かぶ小さな星のような光、淡く輝く水溜まり。不自然なそれらを通り過ぎると、星と同じ輝きを持つ女性が倒れていた。意識がなく、酷く憔悴した顔をしている。素早くセイカは呼吸と脈を確認し、問題ないと発言してから抱き上げた。眠っているだけなら時間が経てば目を覚ますだろう。

「軽いな。精霊のようだ。」

 セイカよりも背が高いのに、セイカが軽いと言う重さしかない。ただ、セイカが重いと言った物を思いつかないため、重さに関する感想は当てにならないかもしれない。精霊かどうかは見た目や雰囲気で分かることもあれば分からないこともあるという。私には分からなかった。ヴェントが風の精霊ということも教えてもらわなければ分からなかった。

 彼女が人間であれ精霊であれ、解放は必要だろう。そう正体を探ることは後回しに、漁村の人達の所へと戻った。

「なんだあ?こんな所に人なんて珍しいじゃねえか。」

 彼女が目覚めるまでの間置いてほしい。そんな私の願いも聞き届けられる。お礼としてのお金は受け取ってもらえた。

 交渉は無事に合意へと至り、昼食の時間を迎える。アジフライのサンドイッチはバラジーで食べた物より遥かに美味しい。癖が少ないように感じられる。味わい、眠っている女性も食べるだろうかと見ても、まだ目覚めない。星のように優しい髪色が人間味を失わせている。自分達と同じように食事を取る想像すらできない。

 昼食を終えた頃、女性が目を覚ました。瞳も遥か遠くの優しい星のようだ。ふわりと自分の身が浄化されるような錯覚すら抱く微笑みまで浮かべた。彼女の名はなんと言うのだろう。

「ルナよ。貴女は星の香りを纏う者セイカね。久しぶり。」

 面識があるのだろうか。しかしセイカは首を傾げており、覚えている様子はない。光の精霊ルナと呟き、初めましてと返事をした。赤ん坊の頃に会っていたのだろうか。ルナはセイカに触れ、ふわりとその髪に溶けるように消えていった。

 漁村の村人達も子ども達もその光景に見惚れてきた。強烈な光には彼らも気付いていた。首都も地盤沈下し、首都に次ぐ大きな街のバラジーも暴風に包まれ、フォルドも氷漬けになり、神秘の泉付近では行方不明事件が多発し、ヴェリタテも燃え尽きた。彼らがどこまで知っているか分からないが、度重なる異変に不安を覚えていることだろう。今なら安心させるための言葉を用意できる。きっとセイカも上手く合わせてくれるだろう。

 光の精霊ルナが眠っていた、夢を見てうっかりその力が漏れ出てしまった、と嘘を吐く。強い光というだけで誰かが怪我をした様子もなく、実害は見えていない。それもたった一回の光ならこの言い訳でも十分安心できるだろう。そんな推測通り彼らは、なんだそんなことかと胸を撫で下ろしてくれた。

 それ以上何も知らせないまま夜まで過ごし、夕食まで頂いた。光の精霊がいるからと私達は夜から旅を再開する。漁村から離れ、カソンを見た。何の光もない島にしか見えない。

「ルナは人間の襲撃を受けた。精霊の力を搾取しようとした悪党が、存在する。」

 あの強い光はその悪党への反撃であり、大きな力を一気に解放したために疲れ果て、眠ってしまったそうだ。ルナを守るために、セイカは動く。剣を再確認し、精霊術も問題なく使えることを確かめ、カソンへの移動が決定された。

 ルナの力のおかげで、セイカも人の身で海を渡れる。ふわりと飛ぶ姿はほのかに光を放っており、この暗い中ではよく目立った。漁村から見ても分かるのではないだろうか。そう漁村を見れば、船止めの小さな柱すら人影に見えた。そんな港の端に、こんな夜中に人が立っているわけがないと分かりつつ、言葉でセイカとルナを急かしてしまう。私もヴェントに頼み、急いで一人と一柱の後を追った。

 昼間にも一度来た島に降り立つ。真っ暗な木々に立ち入れば、ルナが淡く照らしてくれた。漁村の人々はいない。船でしか出入りできないここに誰もいるはずはない。ガサガサという音は夜行性の動物によるもののはず。それなのに人の声がする。

「採取屋ラグナ一家。彼らが世界樹を傷つけ、私のことも罠に掛けようとしたの。」

 精霊に本気を出させるほどの罠を作成できる相手だ。十分な警戒が必要になる。私も杖を握りしめ、精霊術をいつでも使えるよう身構えた。セイカも剣に触れたまま、静寂に包まれた島の奥へと進んでいく。

 何者かの存在はひしひしと感じている。木陰から何かが飛び出してくる。私だって伊達にサマジアで鍛えていない。セイカが一人を斬りつける間に、私も精霊術で一人を木に打ち付ける。たった二人でどうにかできるものか。しかし見えていなかっただけで、他にも隠れていた。彼らも呆気なく仲間がやられたことで逃げ惑う。誰一人逃がすものかとでも言うように、セイカは既に傷を負っている一人を背後から貫いた。ルナも一人の目の前に星を出現させ、動きを止めている。そいつは木の根に躓き、転んだ。何をしたのか聞き出すべきだ。そんな私の提案は聞き入れられ、セイカは近くの蔦を用いて彼を拘束した。

「やめてくれ!俺達は国に従っただけだ!」

 どういうことかと詳細を尋ねれば、研究のためにこの地の特定の根を傷つけ、そこから溢れる魔力を特殊な宝石と瓶に採集してほしいという依頼を受けたそうだ。同時に精霊からも同じように魔力を採取できると聞き、ルナを罠に掛けた。自分達の都合のために精霊を傷つける。そんなことをしなくともお願いすれば少し分けてもらうことができるかもしれないのに、いきなり攻撃する。私には理解したくない感覚だ。

「お偉い精霊様が力を分け与えてくださるってのか?ありがたい限りだね、夢見がちなお嬢ちゃん。」

 ヴェントは私を助けてくれた。ノクスもサマジアを助けている。フレイムだってクレハを助けた。アクアだってバラジーにその水を分けてくれている。

 私の経験にも彼は嘲笑を浮かべるだけ。セイカが忍耐の限界を迎えたのか、彼を貫いてしまった。木陰が騒めく。そちらにもセイカは剣を手にゆらりと近づいた。騒めきは激しくなり、追うぞという声で私もセイカの行き先に付き合うこととなる。

 木陰に残った人の状態など見たくない。しかし目を逸らしても、辿り着いた洞穴で同じことが繰り返される。私の制止の声も届かない。女性や子どもを背に庇う男達に容赦なくセイカは斬り掛かった。庇われている女性も子どもを背に隠し、鎌や斧を手に取った。ルナが彼女達の目の前に光を生み出し、何も見えなくしてしまう。セイカの視界は妨げないそれらのせいで、一方的な虐殺が始まってしまった。


 死体の前で平然とセイカは書物を漁る。精霊や世界樹から得られる力に関する書物が多いそうだ。中には紙切れのような物もあり、それには具体的な場所や手順が箇条書きにされていると説明してくれた。私も簡単な内容なら姉やサイフが教えてくれるおかげで読めるが、ここまで難しい内容になると分からない。持ち帰る協力だけはしよう。

 セイカはパラパラと中身を見つつ、いくつかの山に分けて置いている。それからなぜか剣を抜き、私に下がっているよう指示を出した。従えばすぐさま物陰に剣を突き刺す。悲鳴が響き、他の物陰からも人が飛び出てくる。話を聞けるのではないか。再び声を張り上げても、セイカに聞く様子はない。それならと今度はヴェントに頼んでも拘束するだけで、結局二人の殺害を助けただけに終わってしまった。

 せめて埋葬を。そんな言葉は受け入れてもらえた。ただし、外出中の者の帰りを待つ間だけ、という条件をつけて。埋葬できたところでセイカが殺した事実も、私がただ見てしまった事実も変わらない。彼らは確かに世界樹に傷を付けたのかもしれない。それでも弁明すら許されずに殺されるほどの罪なのだろうか。国からの依頼なら疑わずに従っても仕方ないのではないか。

「末端の者を捕らえても意味などない。」

 埋葬も十分に行えないまま、戻ってきた者も全てセイカの手で殺された。避難させていた本や紙切れを回収し、さあ、と少し掃除をしただけと言うようにセイカは帰り支度を始める。私も持ち運びは手伝える。死体から目を逸らし、早くとハイルの下へと急いだ。


 荷物の増えた帰り道は少し時間がかかった。街に大きな変化はなく、団員達も元気そうだ。書物の内容確認の前にシャワーの時間を貰う。石鹸も使い、しっかり髪と体を洗い、温まるまで体に浴びせる。寒くもないのに震える指が静まるまでは事務所に向かえない。いつまでも浴びているわけにはいかない。諦めてシャワーを止め、浴室から出る。風邪を引かないよう乾かし、服を選ぶ。今日はもう出かける予定もないため、動きやすさなど考えないスカートだ。ひらりと回り、一人でこんなことをしていても仕方ないと事務所へと向かった。

 内容の確認は既に始められている。ハイルとセイカが書物を読んでいた。私もと手を伸ばすが、分からない単語が多すぎる。流し読みで良いという指示に従うことは難しい。後から書き足したのだろう部分や挟まっている紙の内容も言葉が読めても意味が分からない。おおよその内容を把握し、共有すれば良いという効率的な提案に貢献することは難しそうだ。そっとそのことを伝えればそれもそうかと納得してくれた。

「現場の状況を確かめたいこともある。少し待っていてくれないか。そうだな、コーヒーを淹れてくれ。事が落ち着いたら勉強の時間も用意しよう。」

 セイカとハイルが簡単に書物の内容を共有している。私も二人が確認し終わった書物を読んでみた。薬の本のようだ。世界樹の樹液から薬を作る方法が書かれているように読める。直接飲んだ時の効果もある。不老不死に関しても書かれているが、結局不老不死にはなさならそうだ。樹液を直接飲むと死ぬのか、病気が治るのかは分からない。どちらも書かれているが、可能性だけが記されているものなのだろうか。

 ハイルも他の秘薬に関する書物を読んでいたのか、身体を強化することに成功したという記述を見つけていた。

「確かにもう死ぬだろう量の出血でも動いていたな。あれらはその秘薬を使用していたか。」

 あの殺害の中でセイカはよく観察できたものだ。人と戦った経験がそんなにもあるのだろうか。死に物狂いで抵抗しなければならない状況なら、痛くても動く。野生の獣達と同じだ。体の大きさの違う人間と獣の比較では、出血量の差が分かりにくい。秘薬を使用していた人間と使用していない人間の差なんて分からない。

 一週間ほどは書物を調べる日々だった。セイカはそれに専念し、サイフもその仕事を手伝っていた。ハイルは他にも業務が多かった。私はほとんど何も手伝えず、ただ精霊術の鍛錬やバラジーの巡回を行っている。少しずつ文字の勉強も始めていた。

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