第八話 共有される夢
朝のニュースは、いつも通りだった。
芸能、天気、経済。
ダンジョンも、夢の話も、そこにはない。
――なのに。
スマホを開いた瞬間、勇希は指を止めた。
『昨日さ、また変な夢見たんだけど』 『森っぽい場所で、変な通路あってさ』 『キノコ踏んだら光ったんだが』
匿名掲示板。
昨日までなら、読み流していたはずのスレッド。
偶然。
こじつけ。
集団心理。
そう思おうとした。
『それ前にも見た』 『同じだわ』 『オレも。罠なかったよな?』
心臓が、嫌な跳ね方をする。
――同じ、だと?
夢は、共有されない。
同じ映像を見ることも同じ感覚を覚えることも、ありえない。
なのに、書き込みは続いていく。
『通路がやたら広かった』 『音が吸われる感じ』 『なんか……見られてる気がした』
最後の一文を見た瞬間、勇希は画面を伏せた。
それは、言語化してはいけない感覚だった。
自分の中だけに、閉じ込めておくべきものだった。
――見られている。
夢の中で感じた、あの視線。
敵意はない。
悪意もない。
ただ、確かに「意識」があった。
学校では、誰もその話をしなかった。
あるいは、できなかったのかもしれない。
教室はいつも通りで、テストの話と部活の愚痴と、どうでもいい噂話で満ちている。
それが、逆に怖かった。
昼休み、勇希はトイレの個室で、また掲示板を開いた。
『夢の中で回復薬拾った』 『現実で怪我が治ったって言ってる奴いるぞ』 『嘘乙』 『いや、ガチで医者が首ひねってる』
削除済みの表示が、ところどころに挟まる。
「……消されてる」
誰かが、見ている。
誰かが、管理している。
夢を。
情報を。
そして――人を。
勇希は、無意識に拳を握っていた。
関係ない。
オレは関係ない。
そう言い聞かせるほど、胸の奥がざわつく。
――あの夢は、逃げ場じゃなかった。
その日の夜。
妹の咲良が、ぽつりと言った。
「ねえ、お兄ちゃん。最近、変な夢見る?」
一瞬、時間が止まった。
「……なんで?」
「クラスの子がさ。同じ夢を見たって言ってて。ちょっと気持ち悪いなって」
勇希は、笑えなかった。
守らなきゃいけないものが、すぐ隣にある。
なのに、自分はもう――踏み込んでしまった気がした。
その夜、夢はなかった。
正確には、見せられなかった。
勇希は、眠りの底で、はっきりと理解していた。
――次に呼ばれるときは、もう「偶然」じゃない。
そして世界のどこかで。
まだ名を持たない存在が、静かに観察を続けていた。
失望も、期待もない。
ただ、
「どう選ぶのか」を見極めるために。




