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世界樹のダンジョン~神も夢を見るか~  作者: 花衣
贖罪編 高瀬勇希
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第五話 名前のない違和感

朝の教室は、いつもと変わらないはずだった。


黒板の前では担任が小テストの答案を配り、後ろの席では誰かが小さく欠伸を噛み殺している。

窓から差し込む光も、廊下を走る運動部の足音も、すべてが見慣れた日常の一部だ。



――なのに。

勇希は、机に肘をついたまま、どこか現実に馴染めない感覚を引きずっていた。

昨夜、妙な夢を見た。


夢、のはずだ。

そう思おうとすればできる。実際、目覚めたとき枕元に何かが残っていたわけでもない。


ただ――

「……妙に、覚えてるんだよな」

小さく呟くと、隣の席の友人が首を傾げた。


「なに? また妹の話?」

「違ぇよ」


即座に否定する。

反射的だった。


夢の内容を思い返そうとすると、肝心なところだけ靄がかかったように曖昧になる。


はっきりしているのは、歩いた感覚と、戦った記憶、そして――


「やめとけよ。最近その掲示板、変な噂多いぞ」



別のクラスメイトがスマホを伏せながら言った。

「夢がどうこうってやつ? 昨日もスレ消えてたし」


勇希の指が、一瞬止まる。

「……消えてた?」

「ああ。『同じ夢を見た』とか書いてたやつ。気付いたら丸ごと削除。管理人が動いたんじゃね?」


管理人。


その言葉に、胸の奥が微かにざわついた。

夢の話をしていただけだ。そう、誰もが言う。

それなのに、なぜ削除される?


「お前も見たのか?」

友人が軽い調子で聞いてくる。

「いや」

勇希は、少しだけ間を置いてから答えた。

「俺は……別に」


嘘ではない。

ただ、全部を言っていないだけだ。

夢の中で感じた焦り。

守らなきゃいけないという衝動。

そして、胸の奥を締め付ける、あの感覚。



――あれは、夢だったのか?


放課後、帰り道。

スマホを開くと、例の掲示板は相変わらず雑多な書き込みで溢れていた。


【雑談】変な夢見たやついる?

【削除済】

【夢の話はほどほどにな】

【運営仕事早すぎw】


誰も核心には触れない。

触れた書き込みは、残らない。




勇希は画面を閉じ、空を見上げた。


青空は、いつも通りだ。

何も変わっていない。

それなのに――


「……夢で終わらせて、いいのかよ」



誰に向けた言葉でもなく、そう呟いた瞬間。

胸の奥で、何かが小さく、確かに動いた。


それが贖罪の始まりだとは、

まだ勇希自身も知らなかった。

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