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世界樹のダンジョン~神も夢を見るか~  作者: 花衣
過去編 世界が動いた日
33/35

第三話 試されるのは、国か。人か。

ファーストダンジョンの攻略報告はどの国においても極秘扱いだった。

公式発表はない。

記者会見もない。

議会ですら全容を知らされていない。


だが――

結果だけは確実に積み上がっていった。


「確認した。夢の中で得た物品は現実に存在している」

「成分分析の結果、既存の化学体系では説明不能だ」

「回復効果は事実。ただし使用条件に個人差がある」


各国の情報機関、研究機関、軍医部門。

それぞれが同じ結論に辿り着いていた。

――夢ではない。

――そして、偶然でもない。





問題は次だった。

「なぜ、我が国の報酬はこれだけなのか」

ある国の高官が苛立ちを隠さず口にした。


同時期、別の国では――

「……この報酬はどう考えても格が違う」

軍人が息を呑んでいた。

回復薬の質。

道具の汎用性。

将来的な価値。

明確な差があった。


「同じ“ファーストダンジョン”のはずだろう?」

「難度はほぼ同一。攻略時間もそこまで変わらない」

「なのに、なぜ――」


答えはある一点に集約されていった。誰が攻略者だったか。

ある国では政府高官は“見守る側”に徹した。軍の精鋭を送り込み結果だけを受け取った。


別の国では国家元首自らが、夢の中のダンジョンに足を踏み入れた。

表向きは同じ“夢”。だが、その選択の違いが報酬に反映されていた。






その夜。

再び夢が訪れる。

巨大な樹の前に複数の首脳が立っていた。


『本日はお時間をいただきありがとうございます』

声は相変わらず丁寧だ。


『皆さまの間で報酬の差について疑問が生じていると認識しています』


誰かが、意を決したように問いかけた。

「……評価基準を、明確にしていただけますか」


『可能な範囲でお答えします』

『ダンジョンの報酬は単純な攻略速度や戦闘能力だけで決まるものではありません』

『挑戦者の立場、覚悟、そして――“どれだけの責任を背負っているか”』



その言葉に空気が張り詰める。

『国家元首ご本人が挑まれた場合、私はそれを「国家としての意思表明」と受け取ります』

『その意思には相応の重みがあります』



丁寧な説明。理路整然とした言葉。

だが内心では舌打ちしていた。

(ったく……)

(わざわざ言語化させんなよ)

(国のトップが安全圏から指示だけ出して「協力する」とか)

(そんなの信用できるわけねぇだろ)

(あの世界ではみんな命張ってんだぞ)

枝葉がほんのわずかに揺れる。

(そりゃな、危険なのは分かる)

(でもよ誰かに任せるだけで“対等”だと思われても困る)


再び表の声に戻る。

『これは皆さまを試すための措置ではありません』

『ただ――世界を預かる立場の方々がどこまで覚悟を持っているか』

『それを、私は見ています』




その言葉を聞いた瞬間、ある国の首脳は理解した。

――次は、自分が行くべきだ。


別の国では、即座に結論が出た。

「我々のトップが動くのは危険すぎる」

「代替案を探れ」


こうして、各国の対応は目に見えて分かれていった。

そして――

それは世論にも影を落とす。まだ正式発表はない。それでも、面下の変化は隠しきれなかった。


「某国、最近やたら動き早くないか?」

「災害対策予算が急に増えてる」

「医療研究の進捗、異常じゃね?」

掲示板やSNSでは、断片的な情報が繋がり始める。







その頃、巨大な樹は夢の狭間で静かに観測していた。

(……いい)

(攻略方法がちゃんとズレ始めてる)

(均一じゃねぇ)

(それでいい)


異世界のダンジョンは均一な発想で詰まっていた。効率、最適解、最短ルート。

(地球は違う)

(国ごとに人ごとに価値観がバラバラだ)

(だからこそ欲しかった)







夢の中で再び語りかける。

『今後、ダンジョンは段階的に一般の方々にも開かれていきます』

『ただしすべての情報を一度に公開することはありません』

『恐怖と混乱は慎重に扱うべきです』



首脳たちはその言葉に頷く。だが、一部は気づいていた。

――これは管理ではない。

――誘導だ。






夢が終わり目覚めたあと。

ある国の首脳は、独りごちた。

「……試されているな」


別の国ではこう呟かれた。

「いや、“育てられている”のかもしれん」




その頃誰にも見えない場所で巨大な樹はため息をついた。

(育てる、ね)

(そんな大層なもんじゃねぇよ)

(ただ――)

(一緒に、面倒事を片付けてくれる奴が欲しいだけだ)


遠く、異世界のダンジョンが軋む音を立てる。

(急げよ、地球人)

(時間は思ってるより残ってねぇ)





その焦りは、まだ誰にも知られていない。

だが確実に二つの世界は動き始めていた。

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