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世界樹のダンジョン~神も夢を見るか~  作者: 花衣
贖罪編 高瀬勇希
26/35

第二十四話  それでも、忘れられるはずがない

聖水の瓶を、勇希は躊躇なく投げた。

地面に叩きつけられたそれが砕け、淡い光が霧のように広がる。


「――ッ!」

サキュバスが悲鳴を上げ、よろめいた。

インキュバスも同様だ。精神魔法を展開しようとした瞬間、その“流れ”が断ち切られる。


――効く。

やはり聖水は使える。掲示板の情報は正しかった。

聖水は、精神干渉そのものを無効化するわけではない。だが、発動の精度と持続時間を大きく削ぐ。



「今だ……!」

迷わない。

剣を踏み込み、サキュバスの胸元を一閃。断末魔もなく、霧散する。インキュバスも同様だった。

耐久力が低い――それは、今の勇希にとっては致命的な弱点だ。

呼吸を整える。

「……いける」



精神魔法への恐怖は、まだある。だが、それに飲まれずに行動できている。

その先で、重い気配が立ち上がった。


――デビル。

プチデビルとは格が違う。魔力の密度、肉体の圧。一歩間違えれば、即死もあり得る。

だが。

「……昨日の俺とは違う」


聖水を温存しつつ、距離を測る。物理と魔法の混合攻撃。デビルの一撃を、紙一重で避ける。

剣が弾かれ、腕が痺れる。それでも、踏み込む。

数分にも満たない攻防の末、デビルは膝をついた。


「……終わりだ」

とどめの一撃。

崩れ落ちる巨体を見届け、勇希は息を吐いた。

「……あと、少し」

出口は、近い。この上級ダンジョンも、終わりが見えてきた。



――その時だった。

空気が、変わった。ひやり、と背筋をなぞる感覚。

これまでの敵とは、明らかに違う。


「……なに、が……」

通路の先、闇が歪む。


現れたのは、少女の姿をした存在だった。

翼。

角。

だが、どこか“人に近い”。

頭に、理解が叩き込まれる。


――ユニークモンスター。

――リリス。


瞬間、世界が反転した。














 


――あの日の公園の鉄の匂い。


視界が、急に鮮明になる。

春。

まだ少し肌寒い午後。


「お兄ちゃん、ブランコ!」

咲良の声。


あの日。母は忙しかった。

『しっかり咲良を見てるのよ』

そう言われて、二人で公園に来た。


最初は、楽しかった。他愛もない遊び。

だが、途中で――。

「妹と遊んでんの?」

年上の子どもたち。からかわれて、笑われて。

咲良は、勇希の後ろに隠れた。


「……一人で遊ぶ」

そう言った咲良の声は、震えていた。

勇希は――。




ほっとしてしまった。

少しだけ。本当に、一瞬だけ。


そのまま俺は遠くで見つけた友達のもとへ行き、しばらく妹のことも忘れて遊んでいた。






その瞬間だった。

金属音。

転倒。

鈍い衝撃。

「――っ!!」

悲鳴。






次の瞬間、見えたのは――。

地面に倒れた咲良だった。その光景を見た瞬間、勇希の頭をよぎった考え。


――これに懲りて、一緒に遊ぶなんて言わなくなるだろう。

そして、次の瞬間。

(……オレは、何を考えた)


考えを振り切り、咲良のもとへ走り出す。


間近で見た咲良は真っ赤だった。

頭から血を流し、横たわる姿。

抱き上げた咲良の体温。

血の匂い。


一瞬でも、疎ましく思った罰だ。

全部、俺のせいだ。











「……ぁ……」

現実に引き戻される。足が、震えている。

リリスは、微笑んでいた。

「ねえ」

声が、頭の中に直接響く。


「あなたは、いつも守りたい大切だと言いながら――」

一歩、近づく。

「あなたは昔、一瞬でも切り捨てようとした」

勇希の呼吸が、乱れる。


「違う……!」

叫びは、掻き消される。

「後悔は、罪よ」


精神が、軋む。聖水に手を伸ばそうとするが、指が動かない。


「逃げたい?」

「……っ!」

「それとも、罰を受け続けたい?」

膝が、床についた。視界が、滲む。



(また、だ)

(また、思い出してる)

忘れられるわけがない。

それでも――。


勇希は、震える手で、剣を握り締めた。

「……それでも」

声は、小さい。

だが、確かだった。

「……逃げない」


リリスの目が、わずかに細められる。

その瞬間――



さらに強い精神圧が、勇希を襲った。

世界が、軋む。倒れるか、立ち続けるか。その境界線で。



――戦いは、まだ終わっていなかった。

すみません。今日の投稿は一話だけです。

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