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世界樹のダンジョン~神も夢を見るか~  作者: 花衣
贖罪編 高瀬勇希
22/35

第二十話  上級ダンジョンへの扉は、静かに開く

その招待状は、手に取った瞬間から違っていた。

中級ダンジョンのそれは「眠りに落ちた先で、気づけば使っている」ものだったとすれば、これは明確な意思を要求してくる。


――本当に、行くのか?

そんな問いが、頭の奥に直接響く。

「……行く」

勇希は短く答えた。


迷いがなかったわけじゃない。むしろ逆だ。

中級ダンジョンを何度も潜り、レベルも経験も積んだ。

それでも、確信には至らなかった。



――上級ダンジョン。

スレでは賛否が割れている。


『地獄だった』


『中級とは別物』


『運が良ければなんとかなる』


『精神が削られる』


情報は錯綜していたが、一つだけ共通している点があった。簡単ではない。



勇希は、眠りに落ちる直前、妹の寝顔を思い浮かべた。

咲良の額に残る、あの薄い傷。

笑っている顔に残る消えない痕。


「……待ってろ」

誰にともなく呟き、意識を沈める。













足元に、固い感触。

目を開けた瞬間、空気の重さに眉をひそめた。

「……これが、上級ダンジョン」


視界は薄暗く、天井は高い。壁は黒ずんだ石で、魔法陣のような文様が脈打っている。

中級ダンジョンとは明らかに違う。


まず、罠。

最初の通路を数歩進んだだけで、違和感があった。

「……床、か?」

一見、何もない。だが一歩踏み込んだ瞬間、床が沈む。


「っ!」

即座に後退。

次の瞬間、前方の壁から無数の杭が飛び出した。



――即死級の罠。

中級ダンジョンなら注意すれば回避できる罠が多い。だがこれは、反応が遅れれば終わりだ。

「……冗談じゃないな」



慎重に進む。索敵を怠れば、即アウト。

さらに進めば、天井からの落下罠、魔力反応付きの爆発罠。

複数が連動している。


中級ダンジョンの「単発罠」とは違う。

罠を避けても、次の罠が待っている。

「……集中しろ」

心拍数が上がる。

次に現れたのは、モンスターだった。

デビル(悪魔か?)。中級ダンジョンで見たゴブリンやオーガとは、存在感が違う。


二足歩行。

筋肉質な体。

鈍く光る斧。

「グォォ……」

咆哮と同時に、踏み込んでくる。


速い。勇希は咄嗟に横に転がり、斧をかわす。

地面が砕ける。

「……力も、段違いだな」

剣を構え直す。


デビルの攻撃は単純だが、隙が少ない。攻撃一発が致命傷になりかねない。

正面からは危険。

 

誘導。

罠の位置を利用し、距離を取る。振り下ろされた斧を、ギリギリで受け流し、懐へ。

「――はっ!」

全力の一撃。


剣が、肉を断つ感触。デビルは呻き、膝をつく。

追撃。

頭部を狙い、斬り下ろす。

霧散。



深く息を吐く。

「……これが、上級ダンジョンか」

腕が、微かに震えていた。中級ダンジョンとは違う。確実に、死が近い。

だが――。


倒せた。

まだ、戦える。その安堵が、次の油断だった。通路の先。

甘い香りが、漂ってきた。



「……?」

空気が、変わる。

現れたのは、二つの影。艶やかな翼。人に近い姿。サキュバスと、インキュバス。

「……また悪魔、か」


本能が、警鐘を鳴らす。デビルとは違う。

この二体は、戦闘力ではなく――何か別のものを持っている。

サキュバスが、微笑んだ。


その瞬間。胸の奥が、ざわついた。

――嫌な予感。



勇希は剣を強く握りしめた。

ここから先が、本当の意味での上級ダンジョンなのだと。

そう理解したところで、視界が歪み始める。

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