第十六話 夢の中で、誰かが死んだ(掲示板描写有)
【速報】中級ダンジョンでパーティー壊滅
1 名前:風吹けば名無し
マジで洒落にならん事故起きてる
7 名前:風吹けば名無し
夢ダンジョンって安全じゃなかったの?
12 名前:風吹けば名無し
生還者一人だけ、他全滅って……
19 名前:風吹けば名無し
正確には「夢の中で死亡」
現実では全員生きてる
23 名前:風吹けば名無し
でも意識戻らない奴いるらしいぞ
スレッドの流れは早かった。
いつもより、明らかに。
夢のダンジョン――それは、眠っている間に招かれる不思議な場所。
痛みも恐怖もあるが、現実への影響は少ない。
そう言われてきた。
31 名前:風吹けば名無し
昏睡状態のやつ、聖水使ったら一時的に反応あったって
36 名前:風吹けば名無し
え、ポーション効くの?
42 名前:風吹けば名無し
意識不明には効くらしい
死亡扱いのやつはもう夢に入れない
55 名前:風吹けば名無し
それ死亡じゃねーか……
「死んだら夢ダンジョンに入れなくなる」
誰が最初に言い出したのかは分からない。
だが、その一文が貼られた瞬間、スレの空気が変わった。
68 名前:風吹けば名無し
夢で死んだら終わりってこと?
74 名前:風吹けば名無し
いや、現実では生きてる
でももう呼ばれない
81 名前:風吹けば名無し
それ、何が違うんだよ……
勇希は、スマホの画面を見つめたまま動けなかった。
「……夢なのに死ぬのか」
胸の奥が、嫌な形でざわつく。
咲良が怪我をした、あの日。
遠くで聞こえた悲鳴。
「まあ大丈夫だろ」と、どこかで軽く思ってしまった自分。
――次の瞬間、血に濡れた妹を見た。
(……同じだ)
取り返しがつかないかもしれないと理解した、その瞬間の感覚。
頭が真っ白になり、体だけが冷えていく。
102 名前:風吹けば名無し
生還者、今も自分を責めてるらしい
囮役が死んだのは自分の判断ミスだって
118 名前:風吹けば名無し
パーティー組むの怖すぎる
131 名前:風吹けば名無し
だからソロの方がいいって噂出てんだろ
勇希は、スマホを伏せた。
――怖い。
だが、それ以上に。
(……逃げたくない)
夢ダンジョンは、まだ中級までしか確認されていない。
それでも、そこで起きる出来事は確実に人の心を削っている。
それでも挑む理由は、単純だった。
(あのスレの話が本当なら……)
上級回復薬。
それを使ったら、昔の傷跡まで消えたという書き込み。
科学的根拠はない。
信憑性も怪しい。
だが。
(……もし)
咲良の額に残る、あの傷。
時間が経っても薄くならない、後悔の痕。
勇希は、目を閉じた。
その夜、夢は静かに始まった。
中級ダンジョン。
石造りの遺跡と、湿った空気。足元の感触がやけに現実的だ。
「……よし」
オレは、ゆっくりと進む。
罠はある。
油断すれば大怪我――いや、夢の中でも死ぬ。
角を曲がった瞬間、微かな違和感。
(……床、色が違う)
立ち止まった、その判断。
次の瞬間、前方の床が崩れ、尖った石柱が突き出た。
「っ……!」
心臓が跳ね上がる。
(……今の、完全にアウトだった)
もし、勢いで踏み込んでいたら。
掲示板で見た“死亡者”の一人になっていたかもしれない。
息を整えながら、進む。
モンスターは、連携してくる。
単体なら倒せるが、囲まれたら終わりだ。
一体ずつ、確実に。
無理はしない。
戦いの最中、ふと、脳裏をよぎる。
血。
悲鳴。
咲良の泣き顔。
(……オレは)
判断を誤らない。
もう二度と。
その思いが、集中力を研ぎ澄ませる。
――ドロップアイテム。
小瓶が一つ、足元に落ちた。
「……回復薬?」
上級、ではない。
ラベルもない、透明な液体。
(……持ち帰れるか)
手に取った瞬間、なぜか胸の奥が、少しだけ温かくなった。
――目が覚める。
現実の天井。
朝の光。
手は、無意識に震えていた。
(……まだ、途中だ)
掲示板で知った事故。夢で死んだ人間。
そして、妹の傷。
勇希は、静かに拳を握る。
「……潜る」
それは、誰かに誇れる理由じゃない。
ただの贖罪だ。
夢の中でしか辿り着けない場所へ。
取り返しのつかない後悔を、少しでも減らすために。
――たとえ、そこが安全じゃなくても。




