第十二話 夢の中で、選ばれなかった理由
目が覚めた瞬間、胸の奥に残るざらつきが、夢を見ていたことだけを教えてきた。
内容はあまり覚えていない。
ただ、暗くて、広くて、息が詰まるような感覚だけが残っている。
「……はぁ」
ベッドの上で仰向けになり、オレは天井を見つめた。
最近、こういう朝が増えた気がする。
――夢ダンジョン。
ネットでも、テレビでも、否応なく耳に入る言葉だ。
夢の中で、どこか知らない場所に立ち、現実ではありえない体験をする。
怪我をすれば痛みはある。死ねば、二度と入れない。
それなのに、世界中で「行きたい」と願う人間が増えている。
(正気じゃねえよな……)
そう思いながら、オレ自身も、どこかで羨ましさを感じているのが分かって、自己嫌悪が湧いた。
学校へ向かう途中、スマホを開くと、例の掲示板がまた伸びていた。
『昨日、初心者っぽい夢ダンジョン入った』 『罠ないし、動かない茸みたいなの倒すだけだった』 『怪我したけど現実だと擦り傷程度』 『でも怖かった。マジで』
スクロールする指が止まる。
『死んだやつ、知ってる』 『夢の中で踏み外して、首やった』 『現実では心不全扱い』 『二度と夢を見なくなったらしい』
喉が、ひくりと鳴った。
夢の中の出来事。現実への反映は十分の一、回復薬もある、もし怪我を負っても気にしすぎる必要は無い。
それでも、“死”だけは例外だ。
(……夢、で済ませていい話じゃねえ)
教室に入ると、いつも通りの光景が広がっていた。
騒ぐやつ、寝てるやつ、テストの点で一喜一憂するやつ。
――平和だ。
だけど、この平和が、選ばれた人間だけのものになったら?
「勇希、おはよ」
声をかけてきたクラスメイトに、反射的に笑顔を返す。
そこそこの文武両道の優等生。
その仮面は、今日も問題なく機能していた。
昼休み、妹――咲良からメッセージが届く。
『お兄ちゃん、ちゃんと寝てる?』 『最近クマすごいよ』
思わず苦笑した。
(過保護なのは、どっちだよ)
『大丈夫。気にすんな』 『無理すんなよ』
送信してから、画面を見つめる。
もし、夢ダンジョンで“最上級の回復薬”が手に入ったら。
妹の傷痕は、消えるのか。
――いや。
今確認されているのは、中級ダンジョンまで。
そんな都合のいい奇跡は、まだ存在しない。
(……だから、オレは選ばれないのか?)
ふと、そんな考えが浮かんで、すぐに打ち消した。
理由なんて分からない。
選別基準も、意図も。
ただ一つ確かなのは、夢ダンジョンは「覚悟のない願い」を、簡単には叶えないということだ。
夜。
布団に入り、目を閉じる。
眠りに落ちる直前、胸の奥が微かに熱を持った気がした。
呼ばれてはいない。
まだ、だ。
(……それでも)
もし、次に夢を見ることがあるなら。
その時は――
逃げない、と。
オレは、そう心の中で決めて、静かに眠りに落ちた。




