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世界樹のダンジョン~神も夢を見るか~  作者: 花衣
贖罪編 高瀬勇希
12/35

第十一話 観測者たち

午前二時。

国内某所、外部には存在しないはずの会議室で、数名の人間がモニターを囲んでいた。


誰も声を荒げない。

ここにいる全員が理解している――不用意な言葉一つが、取り返しのつかない誤解を生むと。



「……確認します」

一人の男が、淡々と口を開いた。


「“例の現象”は、夢の内容そのものではありません。共通しているのは三点だけです」


モニターに、簡潔な箇条書きが映し出される。

――異常に鮮明な夢

――起床後も残る身体感覚

――選択を迫られる構造



「これらは、宗教的体験、集団幻覚、ストレス性障害、どの分類にも完全には当てはまらない」


別の人物が続ける。

「加えて、被験者の一部に“身体的変化”が確認されています。筋力、反射神経、集中力……誤差の範囲と言えなくもないが、偏りがある」


「夢で鍛えられた、と?」


「そう聞くと荒唐無稽だが……否定できる材料がない」


沈黙。


誰もが、口に出さない言葉を共有していた。

――もし、これが“選別”だとしたら?


「……問題は、我が国です」

最初に話していた男が、画面を切り替える。


「夢の発生率、継続率、適応率。どれも他国より、わずかに高い」

「“わずか”というのが、また厄介だな」

「ええ。偶然と言い張れる程度。しかし――」

男は一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。


「長期的に見ると、無視できない差になります」

誰かが、息を吸った音がした。


「理由は?」

「不明です。文化的要因、生活リズム、教育……考えられる要素は多い。ですが、どれも決定打に欠ける」


そして、低い声で付け加えた。

「まるで、“見られている”かのようだ」

会議室の空気が、わずかに張り詰める。



「――観測者がいる、と?」

「仮説の一つです」

誰も笑わなかった。

この場では、“ありえない”という言葉はすでに信用を失っている。


「民間ではどうなっている?」

「掲示板、SNS、動画配信。表向きは夢談義ですが、核心に近づく投稿は消えています」


「削除?」

「いえ……削除された形跡がない。

 “最初から存在しなかった”ように」

 沈黙が、重く落ちる。


「……こちらが、試されている可能性は?」

その問いに、誰も即答できなかった。


試されているのか。

導かれているのか。

それとも――遊ばれているのか。



「ひとつ、はっきりしていることがあります」

男は、画面を止めた。

「この現象は、敵意だけでは説明できない」


助けているようにも見える。

だが、無条件ではない。


「善意とも悪意とも断定できない存在。

それが、最も扱いづらい」

会議は、結論を出さないまま終わった。



ただ一つだけ、全員が同意した事項がある。


――この“夢”は、無視していい段階を過ぎている。








一方、その夜。

勇希は、再び夢の底に立っていた。

昨日よりも、空気が澄んでいる。

通路は変わらないのに、妙に“整って”感じられた。


「……人数、増えてる?」

遠くに、誰かの気配がある。

声は聞こえないが、確かに“他人”がいる。

それでも、混乱はなかった。


ここでは、恐怖よりも先に――理解が来る。

進むか、戻るか。

立ち止まるか。

選択肢は変わらない。


ただ、勇希はなぜか気づき始めていた。

――ここに来ているのは、特別な人間じゃない。


後悔を抱えている者。

守りたいものがある者。

譲れない何かを持つ者。

そして。


それらを、自分で選び続けられる者。


「……オレは」

勇希は、一歩踏み出す。

逃げないためでも、英雄になるためでもない。


ただ、

あの日の後悔を、もう一度見てもいいと思えたから。




その瞬間。

遠くで、何かが“応答した”気がした。


声ではない。

言葉でもない。


それでも確かに――


見ている。

そう思わせる、静かな肯定だった。

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