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世界樹のダンジョン~神も夢を見るか~  作者: 花衣
贖罪編 高瀬勇希
11/35

第十話 選ばれなかったはずの夜

目を覚ました瞬間、勇希は理解した。

――今回は、完全に戻ってきている。


天井は自室のそれで、耳に入るのは早朝の車の音。

夢の残滓は、いつもなら数秒で薄れるはずなのに、今日は違った。



足裏の感触。

湿った土の匂い。

進もうとした、あの一歩。


すべてが、現実の記憶と同じ重さで残っている。

「……選べってか」

 呟いた声は、やけに乾いていた。


あの場所には、声がなかった。

神の宣告も、案内人も、説明もない。

ただ“選ばせる”だけ。

それが何より、怖かった。








朝食の席で、咲良が少しだけ元気そうだった。

笑顔を見た瞬間、胸の奥が軋む。


――オレは、妹を守りたい。

それなのに、昨夜のオレは、確かに前に進んだ。







学校に着くと、異変ははっきりしていた。

スマホを見ている生徒が多すぎる。

誰も口に出さないのに、全員が同じ話題を追っている。





昼休み、勇希は意を決して例の掲示板を開いた。


【夢見スレ Part.4】

87:名無し

昨日は見なかった。これで終わりってことでいいよな?


102:名無し

俺も見てない

正直ホッとしてる


119:名無し

見てない報告多いな

でもさ、見たやつは「より鮮明になってる」って言ってる


134:名無し

>>119

それ削除されてたぞ


146:名無し

削除って何?運営?


151:名無し

違う

「書き込んだ本人のアカウントごと消えてる」





背中に、冷たいものが走った。

掲示板は騒がしくなり始めているのに、同時に静かでもあった。


核心に近づく書き込みほど、綺麗に消えている。

まるで、誰かが――

いや、“何か”が、線を引いているみたいに。



「……偶然、じゃないよな」

勇希はスマホを伏せた。

夢を見る人が減っている。

その一方で、夢を見続ける人は、より深く潜っている。


選別。

昨夜、感じた言葉が、嫌なほどしっくりくる。








放課後、部活を休んで帰宅すると、咲良がリビングでテレビを見ていた。


ニュースでは、海外の研究者が「集団的な鮮明夢」について語っている。

司会者は笑って流そうとしているが、研究者の表情は硬い。



「お兄ちゃん」

不意に、咲良が呼んだ。

「最近さ、変な夢、見てない?」

心臓が跳ねた。


「……どうした?」

「クラスの子がね、夢の中で“変な場所”に行ったって。すごくリアルで、起きても忘れられないって言ってた」

 勇希は、答えられなかった。


妹の夢に、あの場所が触れたら。

それだけは、絶対に嫌だった。

「……見るなよ」

「え?」

「変な夢、見ても……深入りするな」

咲良は首を傾げたが、深くは聞いてこなかった。








その夜。

勇希は眠る前に、はっきりと考えた。

――もし、また呼ばれたら。


逃げるのか。

進むのか。

妹を守るために、何もしない選択。

妹を守るために、危険を引き受ける選択。



目を閉じた瞬間。

世界は、再び切り替わる。

だが今回は、通路の先に光がなかった。

代わりに、足元に刻まれた痕跡。

何人もの足跡。

進んだ者、立ち尽くした者、引き返した者。


勇希は、悟る。

――これは、もう“個人の夢”じゃない。

ここは、

人の選択が積み重なる場所だ。




そして。

その選択を、

“誰か”が、確かに見ている。

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