【極秘報告書・後記】
提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ
備考:報告書提出直前の追記記録
これが、私が見たすべてだ。
七日間——たった七日間の滞在だった。
だが、その中にあったものは、七年、あるいは七十年分の狂気と破滅の連続だった。
国家は、崩壊した。
誰かに滅ぼされたのではない。
誰もが“自分の理想”を生き抜いた結果、国家の形が失われていた。
私は、ただ観測し、記録した。
それしか、できなかった。
それ以上を望む資格は、私にはなかった。
報告書の提出にあたり、ひとつだけ願いがある。
どうか、この記録を——
「事実として」ではなく、「物語として」扱ってほしい。
誰も責めず、誰も救わず、誰も英雄でないまま終わった国の記録は、
事実としては、あまりにも悲しすぎるから。
【機密管理通達】
第七特務諜報部・文書管理室発出
本報告書『セルフデストリクト王国潜入観察記録』は、以下の理由により機密封印・破棄対象とする。
対象国家の完全消滅により、戦略的価値を喪失
記録内容の多くが非現実的・非論理的であり、再現性・信頼性に欠ける
提出者本人の精神鑑定にて「中等度の精神崩壊」と診断済
当該報告書は、通達No.9816に基づき、
焼却処分とし、記録上からも削除すること。
※なお、本書のうち一部抜粋は、機密保持の範囲内において
「戦略的誤判断に対する教訓的資料」として、教育用途での再編纂を検討中。
【報告者・最終私信】
——あの国にあったのは、秩序でも混乱でもない。
それは、“最期まで誰も折れなかった国”だった。
王は、最後まで善を貫いた。
将軍は、筋肉の意味を信じた。
令嬢は、美を殺意に変え、誇った。
商人は、死を通貨に変えて笑った。
そして私は、彼らを“記録する”ことをやめなかった。
だから、ここにある。
たとえ誰にも読まれなくとも——
滅びは、確かに観測された。
——観測官クロウ