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第7話:最終報告——滅びは、観測された

 〜極秘報告書 抜粋:セルフデストリクト王国・潜入観察記録(第7日)〜

 提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ

 記録時刻:午前07:00〜午後19:00(※以後、記録不能)


 ◼︎ 朝、静寂

 目覚めた時、世界は異様なまでに静かだった。

 昨日まであれほど騒がしかった王都の空は、

 燃えもせず、叫びもせず、ただ、無音だった。


 鳥の声すらなかった。


 瓦礫の隙間をすり抜ける風の音だけが、やけにクリアに響く。

 私は靴の下に崩れた貨幣を踏みながら、王城へと向かった。


 ◼︎ 王との最後の謁見

 玉座の間は、ほとんど崩れていた。

 石材は割れ、柱は傾き、壁にあった装飾も灰となっていた。


 ——だが、玉座だけは残っていた。


 そこに、王はいた。

 エルダン五世。

 微笑みを浮かべ、膝の上に猫を乗せ、陽の光を眺めていた。


 私に気づくと、王は言った。

「おお、来てくれたのか。最後の朝じゃのう」


 私は言葉を飲んだ。

 彼はもう、全てを理解していた。

 ——何が終わったのか。何を終わらせたのか。


 ◼︎ 他の者たちについて

 会議室は焼け落ち、机は灰

 “筋肉の軍”は瓦礫と共に沈黙し

 アリアの火は灯らず

 ガイルの屋敷すら、紙幣と共に灰となって舞っていた。


 誰の姿も、なかった。


 それでも、誰も「死んだ」とは言わない。

 ただ、「いなくなった」

 国ごと、丸ごと、消えた。


 ◼︎ 最後の記録

 王は静かに言った。


「わしは、良い国を作れたかのう?」


 私は答えられなかった。

 クロウとしても、個人としても。

 だから私は、帽子を脱ぎ、頭を下げた。

 ——それが、私なりの答えだった。


 その後、王は猫に話しかけながら言った。

「わしももう、寝てもよいかの……」


 そして、目を閉じた。


 私はその場を後にした。

 玉座の間を出ると、

 焼け跡の向こうに空があった。


 真っ青だった。

 昨日よりも、ずっと、静かで。


 ◼︎ 最終観測報告

 この国は、滅びた。


 それは破壊でも崩壊でもない。

 ——誰にも止められなかった、“物語の終わり”だった。


 誰も悪くなかった。

 誰も正しくなかった。

 けれど確かに、誰も彼もが“やりたいことをやった”。


 その末に。

 この国は、“物語”として観測され、ここに記録された。


 ——これにて、任務を終了とする。


 完

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