第6話:暴走、そして鎮火不能
〜極秘報告書 抜粋:セルフデストリクト王国・潜入観察記録(第6日)〜
提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ
記録時刻:午前05:00〜午後23:50
◼︎ 朝:崩壊の兆し
朝焼けの空は、異様に赤く染まっていた。
この国に初めて来た時に見た空と、もう何も似ていない。
いや、もしかすると——空だけは最初から“まとも”だったのかもしれない。
そしてこの日。
王の一言が、国家を完全に臨界点へと導いた。
◼︎ 王の“善意改革”
朝会にて、王・エルダン五世が宣言。
「皆が幸せに生きるために、制度という“縛り”をなくそうと思うのじゃ!」
結果:
機能処置
法律廃止(「善意で行動すれば十分」)
通貨制度自由化(金貨・物々交換・幻覚通貨OK)
軍解体(「軍服が堅苦しい」との苦情による)
行政自主管理(=放棄)
王権猫に委譲(物理的に王冠を猫へ)
「わしはもう“自由な民”として暮らすのじゃ……」
——国家、終了のお知らせ。
◼︎ 将軍:空想戦争の開始
軍の解体直後、デガルド将軍が私設軍を結成。
「逆にチャンスだッ! 俺個人の軍を創るぞォ!!」
軍名:「国家非常戦団マッスルコマンド」
作戦名:「敵はいないが、戦う」
→ 無人の山岳地帯へ突撃→滑落事故発生→負傷率87%(敵は存在しない)
将軍のコメント:
「勝ったッ! 完全勝利だァァ!!」
私は、耳を塞いだ。
◼︎ 令嬢:国土を燃やす
アリア嬢は、制度の廃止を“承認”と解釈。
「つまり、“やっていい”ってことよね? 芸術の、最終手段♡」
行動名:「《灰のレクイエム》」
→ 市街地、森林、民家に“火”を灯し、風景ごと焼却
→ 焼失後、空撮→「これ、ポストモダンよね?」
……いいえ、“モダン”を焼いてる最中です。
◼︎ 商人:国そのものの換金
ガイルは、国家機能の解体と物理資源の焼失を“閉店セール”と捉えた。
焼け跡 → 「戦火遺産パッケージ」として国外販売
遺体 → 「歴史的資料」名義でオークション出品
王冠 → 猫ごとNFT化。現在入札価格:20万G+マタタビ一袋
彼の名言:
「戦後こそ、最高の資本主義だよなァ!!」
止められる者は、いない。
止めようとする者すら、いない。
◼︎ 観測者コメント(第6日 締結)
滅びが近い。
だが、それは決して悲劇ではない。
制度は善意で破壊され、
筋肉が空想敵と戦い、
芸術が人を焼き、
経済が死を換金する。
そして——
誰も、自分が“正しい”と疑っていない。
この国は、破滅の形をした理想郷だ。
明日。
私はここが“国家”だった最後の瞬間を、観測することになるだろう。