第5話:四馬鹿会議、地獄の共演
〜極秘報告書 抜粋:セルフデストリクト王国・潜入観察記録(第5日)〜
提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ
記録時刻:午前06:15〜午後21:00
◼︎ 起床直後の限界
目覚めた瞬間、呻き声が漏れた。
悪夢を見ていた……のではない。
現実が悪夢だった。
喉は渇き、胃は痛み、目の奥がズキズキと軋む。
どうやら私は、「セルフデストリクト王国性精神崩壊症候群」の初期症状を発症したらしい。
本日の手帳には、こう記した。
「サボりたい。本気で、全力で、職務を放棄したい。」
しかし任務は任務。
そして——地獄の招待状が届いた。
「本日、四大中枢人物による合同政務会議を開催します」
……今日は死ぬかもしれない。
◼︎ 会議開始:災厄、集う
会場:王城・第零会議室(旧宝物庫、現在は焼け跡)
参加者:この国を構成する“災厄の中枢”
王・エルダン五世(優しさという毒)
将軍・デガルド(筋肉の暴走)
令嬢・アリア(美を語る死)
商人・ガイル(合法の地獄)
心の中の誰かが囁く。
「今ならまだ逃げられる」
私は、その声を無視したことを後悔する。
◼︎ 地獄の会議ログ(要約)
議題:「国家財政の立て直し」
王「みんなの意見を聞いて……よきに計らえ、かのう?」
将軍「財政とは体幹だ! バーピー100回で経済も鍛える!!」
令嬢「空の国庫? 燃やせばいいわ。灰にすれば等価交換、美しいでしょ?」
商人「じゃ、“絶望フェス2025”やろう。参加費は魂で。あとパッケージ販売も検討だな」
クロウ(心の声):
「これは……悪魔合唱団の公開自爆会議か……?」
◼︎ 暴走する四人
王 → 眠そうに「明日でいいかの」と言い残し、即寝
将軍 → 地図が読めず「敵はこの部屋だッ!」とテーブルに突撃
令嬢 → 倒れた机に火を点けて「即席インスタレーション」
商人 → その燃える灰を回収し「国家遺産灰キャンドル」として物販開始
クロウ(再度):
「帰りたい。帰りたい。帰りたい。」
◼︎ 突如の癒し:焼き芋
……そんな地獄に、突如香る——焼き芋。
扉が開き、現れたのは、かの老婆。
第一話に登場した“焼き芋の賢者”である。
「はいはい、うるさくしてないで、焼けた芋食べな」
すると——
アリアが黙った。
ガイルが物販を止めた。
将軍が座った。
王が目を覚ました。
そして老婆はこう締めくくった。
「芋は熱いうちに食べな。会議? 明日でいいよ、明日で。」
王「……そうじゃのう。わし、芋が食べたい」
会議、終了。
◼︎ 観測者コメント(第5日 締結)
この国の政を支えているのは、権力でも制度でも知性でもない。
焼き芋だ。
混沌を黙らせる香りと、暴走を止める老婆。
私は理解した。
この国最強の政治力は、焼き芋である。
本日の記録は、ただ一言で締めよう。
「芋は、偉大。」