第4話:商人ガイル、炎上も金に変える
〜極秘報告書 抜粋:セルフデストリクト王国・潜入観察記録(第4日)〜
提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ
記録時刻:午前08:00〜午後23:30
◼︎ 商業区視察開始
本日、商業区ならびに国家財務部門の実態調査のため、
大商人ガイル・ザ・グリードと接見。彼は本国最大の商業ネットワークを掌握し、事実上の“経済王”とされている。
邸宅は、物理的に札束で構成されていた。
屋根 → 紙幣を圧縮したブロック
門扉 → 金貨で鋳造された“自分の顔”
ドアベル → 「カネ、カネ、カネェ♪」という自作音声
まだ敷地に入ってもいないのに、胃が痛くなった。
◼︎ ガイル・ザ・グリードとの面会
初対面の第一声がこれである。
「おぉん? あんた、政府の人か。よし、挨拶代わりに“炎上保険”でも買ってく?」
……笑えない冗談だと思った。
だが、その日の午後、商業区は実際に炎上した。
火元は、ガイル邸の裏にある「たいまつ倉庫」(存在理由不明)。
なお、同日の収益(本人提供)は以下の通り:
炎上保険契約数:148件
消火用水(ただの川水):1バレル=3,000G
焼け残り物件の買取:時価の1/10
再建資材の販売:供給元=自社製品、価格=高騰中
ここまで露骨なマッチポンプ商法を、見たことがない。
そして彼は終始、楽しそうだった。
◼︎ “ビジネス感覚”の狂気
午後、疫病が発生。市内の熱病流行により、多数の市民が倒れる。
政府による対応? 当然、存在しない。
だが、ガイルだけは最速で“薬”を売り始めていた。
「即効性あり! 飲めば3時間は動ける! その後は知らん!!」
副作用による死亡率:25%。
それでも、“今すぐ動かねば飢える”労働者層は買わざるを得ない。
さらにガイルは:
墓地を事前販売(全て高級木材製)
弔いセット一式を“抱き合わせ”販売
「死者ポイントカード」を発行(ポイント累積で火葬費割引)
この国、いつから死までポイント制になったのか。
◼︎ 主な収益源(本人談)
ガイルは全ての災厄をビジネスに変換していた。
本人曰く:
略奪後の村 → 「復興支援募金」で二重利益
令嬢アリアの焼却事件 → 「アート保険」で保険金取得
王の善政(=金配布) → 金貨を回収し偽金に換えて再流通
軍の誤爆 → 「戦災補償金」代理請求で手数料90%
もはや国家の崩壊すら、彼にとっては金の鉱脈でしかない。
◼︎ 観測者コメント(第4日 締結)
ガイル・ザ・グリード。
彼は、災害と悲劇を“資源”として換金する術に長けた男である。
その思考は、合理性に満ちており、法の一切を侵していない。
だがそこに倫理も、人間性も存在しない。
苦痛は商品。
死は需要。
絶望は、ビジネスチャンス。
この国の経済が崩壊しない理由を、私はついに理解した。
それは、「まだ金になる」から、だ。
——命と国家が、完全に“通貨化”されている。