第2話:脳筋将軍、戦場に“自軍”を刻む
〜極秘報告書 抜粋:セルフデストリクト王国・潜入観察記録(第2日)〜
提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ
記録時刻:午前06:30〜午後19:00
◼︎ 軍部訪問
夜明け、王からの命で将軍府へ向かう。
将軍府では、兵士たちが朝からスクワットをしていた。
掛け声は「火力!火力!火力ーッ!」である。精神汚染が進行している。
◼︎ 将軍との面会
軍総司令官・デガルド将軍は、肩にロケット砲を担ぎながら登場した。
背中には「全軍突撃命」と手書きで書かれたお札が貼られており、どうやら本人曰く“戦の守り”らしい。
第一声:
「よく来たな! 敵か!? 味方か!? ……まあどっちでもいい! 強そうだから歓迎だ!!」
この時点で理解した。会話に意味を求めてはいけない。
◼︎ 一瞬の期待:将軍、“戦術”を語る
正午前、将軍は私を軍議室に招き入れた。
そして珍しく真剣な表情でこう語った。
「……俺な、最近“学んだ”んだよ。時代は“知”だ。力だけじゃ勝てねえ。だからな、戦術ってやつを……」
机の上には積まれた本が並ぶ。
『マンガでわかる!戦術入門』
『電撃戦とSNS活用』
『戦略RPGに学ぶ現代軍事論』
『超兵器は筋肉だ!』(※著者:本人)
私は思わず、筆を止めた。
だが、成長の兆しがあるのなら……そう信じたかった。
「では、敵に包囲された際の打開法は?」
将軍は即答した。
「うむ、“周囲の敵を全部殴って突破”じゃな! ちなみにそれ、必殺技の名前にしてる。“包囲破壊剛拳”! かっこよくない?」
私はノートを閉じた。
こいつ、全部フィクションと混同している。
◼︎ 補佐官、限界を迎える
隣室で会議の準備をしていた将軍補佐官——中尉クラヴィス(見た目も言動も真面目)が、会話を盗み聞いていたらしく、突然扉を蹴破って現れた。
「将軍ッ!!もう限界です!!今日だけで“戦術”を3回間違え、“軍議”で敵を褒め、“訓練”で兵に怪我させました!”」
「昨日は“陽動”の意味を“光る兵士で敵を目くらまし”と誤認! 一昨日は“後方支援”を“声援”と読み違えて兵士を応援だけで送り出した!!」
「私の胃が! もう!! 無理なんです!!」
彼は涙目で辞表を地面に叩きつけて退職した。
将軍はそれを見て笑った。
「ハッハー! 委任戦術ってやつだな! 昨日読んだから流石に覚えてるぞ!」
補佐官の背中から、哀しみと絶望がにじみ出ていた。
◼︎ 戦術演習(という名の惨劇)
午後、将軍主導の「新戦術演習」が実施された。
作戦名:“疾風迅雷タクティクス”
中身:兵士100名による絶叫突撃&腕立てを交互に行う。
将軍の説明曰く:
「速さと強さを融合することで、敵の心理を打ち砕く! あと運動にもなるし、健康的だろ?」
結果:
村ひとつ壊滅(突撃方向が間違っていた)
自軍兵士12名負傷(味方に殴られた)
農民が蜂起(こっちのほうが質が良かった)
なお、敵軍は存在していなかった。
◼︎ 観測者コメント(第2日 締結)
この国にとって最大の脅威は「敵軍」ではなく「将軍」である。
戦術の定義を理解せず、部下を消耗品としか考えず、行動が“戦争ごっこ”と変わらない。
それでも彼は自分が有能だと信じて疑っていない。
補佐官が逃げたのは正しかった。
できるなら、私も逃げたい。