【極秘報告書:序文】
件名:極秘・セルフデストリクト王国潜入報告書【滅亡確認済】
提出者:第七特務諜報部・観測官クロウ(唯一の生還者)
報告区分:緊急 → 喜劇 → 人災
機密ランク:特A
◼︎【任務概要】
対象国家:「セルフデストリクト王国」
任務目的:情報収集、および国家工作による内部崩壊の誘導
潜入期間:7日間(※国家崩壊確認後、緊急離脱)
◼︎【重要観察結果】
本任務における最大の誤算は、当初の工作計画が全く不要であったことである。
同国は、我々が何ら手を下すまでもなく、自壊の構造を内部に完備していた。
潜入初日から各行政機能に重大な欠陥を認め、7日目にして国家構造の完全崩壊および政権の事実上消滅を確認。
本報告書は、その全過程を記録したものである。
◼︎【観測対象:王国統治中枢《通称:地獄の四天王》】
以下は、国家の中枢に位置しつつも、その存在自体が崩壊因子となっていた4名の主要人物である。
【無責任にして過剰な慈善王:エルダン五世】
「可哀想じゃのう……では、税を廃止し、民には毎月金貨を配るのじゃ。財源? うーん、あとで考える!」
想像を絶する“善良”を有しながら、その実、統治能力を完全に放棄した王。
会議における一貫した発言は「皆の意見を尊重しよう」であり、事実上の意思決定放棄者。
財務・治安・法制度など、全てを“かわいそう”の一言で解除・破棄する統治姿勢は、情動的慈善による構造崩壊の典型である。
【戦術軽視の破滅的軍人:デガルド将軍】
「戦術とかどうでもいい! 戦争は根性! あと殴れば勝ち!!」
軍を率いる立場にありながら、その思考は格闘脳とオカルト依存に支配されている。
軍事知識はエンタメミリタリー本と占い、判断は筋肉と大砲。
最大の脅威は、彼が外敵より先に自軍を損耗させる存在である点にある。
【極悪浪費型貴族:アリア・ヴェルトライン令嬢】
「え? 人の皮って、通貨として換算されないの? じゃあ灰にしとくわ♡」
感情と道徳の抹消に成功した貴族令嬢。国民からは「歩く地獄」と称される。
財源を使い潰す速度は国家予算の想定を超越しており、経済的破滅を日常的に演出する。
残酷さと浪費を娯楽と見なす性質から、王国内部で最も死亡原因を生む個人と推定される。
【災厄創出型商人:ガイル・ザ・グリード】
「疫病が流行ってる? よし、俺が薬売ろう。副作用で死人が出た? よし、棺桶も売ろう。需要無限だな!」
利益のみを追求し、必要に応じて災厄そのものを自作する国家規模のマッチポンプ。
王の“善意”を利用し、毎月巨額の資金を合法的に略奪。
幾度もの死亡報告を否定し、「分身だった」として活動を継続。不死性の疑惑あり。
以上4名の存在が、“セルフデストリクト王国”という名称が皮肉でなく構造的事実であることを証明している。
◼︎【結語】
この国は、“誰も悪意を持たずに滅ぶ”ことに成功した極めて稀有な失敗例である。
本報告書が、今後の国際戦略における警鐘および教材として活用されることを切に望む。