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無能姫への嫁入り命令2

 魔力のないセシリアを最初に忌み嫌ったのはこの父王だった。次にセシリアを忌み嫌ったであろう人は生きているのか死んでいるのかもわからない母親、その一族、それから子爵家の人々。子爵家の人々にはうんざりしたような顔をされるのが常だった。セシリアを引き取った翌年、子どもが生まれたせいかもしれない。子爵家の人々はセシリアに姉としての役割を求めなかったし、そもそも子どもとしても見ていなかった。このままでは家督を王族のセシリアに奪われる可能性があると思っていたかもしれない。彼らはセシリアを冷遇した。しかし、身の回りのものは子爵家として恥じないものを用意し、使用人も与えた。彼女を不自由なく暮らさせた。しかし家族というものまでは用意できなかったのである。


 子爵家に別れを告げる時間もなかった。セシリアは直ちに宮を与えられ、淑女教育を受けねばならなかった。もちろん、帝国に嫁ぐためである。いずれどこかに嫁がされるのだろうなとは思ってはいたが、先代の頃まで国境沿いで小競り合いを続けていた帝国に嫁がせるなど、正気の沙汰ではないと思った。相手にしてみれば、この先の交渉のための人質を取ったことにもなる。しかし正気の沙汰では王女たちを嫁がせられないと考えた父王が、一度捨てた用なしの娘を帝国に送り付けると考えたのは筋の通る話だった。


 帝国は近年、弱体化の一途を辿っていると聞いている。おそらく、父王は血縁を結んだ後、何かにつけて帝国に干渉し、さらなる弱体化を待った後で隙をついて侵略するに違いない。その時に王国の裏切りに気付いた帝国は見せしめにセシリアを殺害すると脅すか、直ちに実行するかもしれない。そのようなことで心を痛めるような親では決してないので、目論見は外れることになるが。

 そして二つほど季節が変わると、セシリアは最低限の嫁入り道具とわずかな持参金、それから砦まで同行する兵士や使用人を連れて帝国へと向かった。


 砦に近づくにつれて、寒さが増していく。同行した使用人もあまりの寒さに震え始めた。それもそのはずだ。帝国には現在、神の冷たい呪いが降り積もっている。


 ---


 耐え難い寒さのなか、セシリアは帝国側に引き渡された。王国側の兵士や使用人は足早に荷を下ろすと、さっさと気候のおだやかな王国へ帰ってしまった。セシリアも大して盛大に見送られていないのだから、便乗して帰ってしまいたいほどの寒さだったが、この雪のなかに一人で飛び出す度胸はなかった。

 帝国側の兵士はたった数人。最低限の人数でセシリアを迎えに来たようだ。帝国はこれでも弱体化する前は、どの国よりも圧倒的な武力を持つ戦争の天才が皇帝になっているような国だった。その帝国が、敵国の王女を迎える人数がこれなのか。

 震えながら馬車を乗り換えると、皇子殿下からですと兵士から分厚いコートを渡された。明らかに男性用のものである上に、既に誰かが長い期間愛用していたのは明らかなほどボロボロだった。それでもそんなことを言っていられるほどこの帝国の寒さは優しくない。ありがとうと受け取って、羽織った。防寒具としては優秀だった。もしかしたら、あの兵士が気を利かせただけかもしれない。そう思うことにした。


 城までの道はどこまでも白かった。普通の馬車では身動きが取れないほどに厚い雪が時折壁のようになっていた。馬車に触れた雪が消えてなくなり、そこから辛うじて地面が見えるという有様だ。魔法が随時発動する馬車だ。これを使えるのは一部の者だけだろう。それほど魔力を消費する代物だということと、魔力を供給するための魔石がとても高価だからだ。

 城はとても静かだった。王族と言えども貴族の端くれとして育ったセシリアでさえ、王族が嫁いできたというのに誰も出迎えもしないということの異常さと、冷たさは理解できた。


 どうせここでもろくな扱いは受けない。みんな、私のことが大嫌いで、そのくせ期待だけは勝手にして、勝手に裏切られた気になって、もっと私のことを嫌いになる。

 いっそ、ここで眠ってしまっても、それはそれでよいと思えた。和平でも、戦争でも、何でも勝手にしたらいいと心底思っていた。



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